
業界コラム
単価を上げたいという相談は、たいてい営業の話として始まります。交渉の仕方、提案書の作り方、値上げを切り出す時期。しかし公的統計を並べると、単価を動かしている要因は別のところにあります。
この記事では、派遣料金を決めている最大の変数を確認したうえで、「無期にすれば上がる」という通説を検証します。そのうえで、単価差がどこまで粗利差になるのかを試算し、専門性を設計する手順まで扱います。
目次
先に結論を書きます。派遣料金を動かしている最大の要因は、扱っている職種です。雇用形態でも、会社の規模でも、営業力でもありません。そして職種の違いとは、突き詰めれば専門性の違いです。
厚生労働省の令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)によれば、派遣料金(8時間換算)の全業務平均は26,257円でした。しかしこれは平均にすぎません。職種別に開いてみると、まったく違う世界が見えてきます。

同じ集計から、いくつかの職種を抜き出して並べてみます。
職種 | 派遣料金(8時間換算) |
|---|---|
経営・金融・保険専門職業従事者 | 42,588円 |
薬剤師 | 39,987円 |
情報処理・通信技術者 | 34,382円 |
建築・土木・測量技術者 | 34,168円 |
(全業務平均) | 26,257円 |
一般事務従事者 | 18,112円 |
製品検査従事者 | 16,917円 |
介護サービス職業従事者 | 16,282円 |
生活衛生サービス職業従事者 | 14,474円 |
出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和6年度)
上と下では約2.9倍の開きがあります。全業務平均を1とすれば、経営・金融・保険の専門職は1.62、生活衛生サービスは0.55です。同じ「労働者派遣」という枠組みの中で、これだけの差がついています。
営業を工夫して数%単価を上げる努力と、扱う職種を変える判断とでは、動く幅がまるで違います。
ここで、よく語られる説を一つ検証してみます。「無期雇用に切り替えれば単価が上がる」という話です。全体で見れば、たしかにそう見えます。無期雇用の派遣料金は27,063円、有期雇用は22,226円で、差は21.8%あります。
しかし、同じ職種の中で比べると景色が変わります。
職種 | 無期雇用 | 有期雇用 | 無期が上回る割合 |
|---|---|---|---|
薬剤師 | 41,047円 | 39,742円 | +3.3% |
情報処理・通信技術者 | 34,707円 | 32,913円 | +5.5% |
一般事務従事者 | 18,953円 | 17,305円 | +9.5% |
製品検査従事者 | 17,502円 | 16,063円 | +9.0% |
介護サービス職業従事者 | 16,432円 | 16,312円 | +0.7% |
(全業務平均) | 27,063円 | 22,226円 | +21.8% |
出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和6年度)をもとに算出
職種の中での差は、0.7%から9.5%です。全体の21.8%には遠く及びません。全体の差が大きく見えるのは、無期雇用が単価の高い職種に偏っているからだと考えるほうが自然でしょう。
つまり雇用形態を変えたから単価が上がるのではなく、単価の高い職種を扱っているから無期化しやすい。順序が逆なのです。料金水準の見通しは「人材派遣市場は価格競争に向かうのか」でも整理しています。
単価が高い職種は、スタッフに支払う賃金も高くなります。ではその差は、どこまで手元に残るのでしょうか。公表値から試算してみます。
令和6年度の全業務平均では、派遣料金26,257円に対して派遣労働者の賃金は16,735円でした。賃金が料金に占める割合は63.7%、残る差額は9,522円で36.3%にあたります。
この36.3%という比率が職種によらず同じだと仮定して、先ほどの表に当てはめてみます。経営・金融・保険の42,588円なら差額は約15,459円。生活衛生サービスの14,474円なら約5,254円です。
1日あたりの差は約10,200円になります。月20日・1人あたりに直すと、約20万円の開きです。単価の差は、粗利の差としてもそのまま効いてきます。
ただしこれは上限に近い試算です。単価の高い職種ほど賃金の割合が高くなる余地はあり、専門職の採用には別の費用もかかります。それでも桁の感覚としては、営業努力で埋められる差ではありません。売上と利益がかみ合わない構造は「派遣会社で売上が伸びても利益が残らない理由と対策」で詳しく扱っています。
もう一つ、単価の低い職種には固有の事情があります。最低賃金の改定です。
令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安では、全国加重平均が1,176円と示されました。引き上げ率は4.9%です。これを時間あたりの料金と並べてみます。
職種 | 派遣料金(時間換算) | 賃金相当額(63.7%で試算) | 目安1,176円との差 |
|---|---|---|---|
生活衛生サービス職業従事者 | 1,809円 | 約1,153円 | ▲23円 |
介護サービス職業従事者 | 2,035円 | 約1,296円 | +120円 |
製品検査従事者 | 2,115円 | 約1,347円 | +171円 |
一般事務従事者 | 2,264円 | 約1,442円 | +266円 |
(全業務平均) | 3,282円 | 約2,091円 | +915円 |
出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和6年度)および「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」をもとに試算
生活衛生サービスでは、試算上の賃金が目安をすでに下回ります。実際の賃金は地域や契約で異なりますが、単価の低い職種ほど、最低賃金が賃金を先に押し上げるという構造は見てとれます。
押し上げられた分を料金に転嫁できなければ、差額はそのまま縮みます。単価の高い職種には900円超の余裕がありますが、下位の職種にはほとんどありません。人口と賃金の動きが収益に効いてくる経路は「人口減少が派遣会社に与える影響とは」でも扱いました。

では、その専門性はどこから来るのか。ここで働く側のデータを見ておきたいと思います。
日本人材派遣協会の2025年度 派遣社員WEBアンケート調査は、有効回答5,523人を集めています。スキルアップのために取り組んでいることの最多回答は「何もしていない」で42.2%でした。次いで「派遣会社の開催する研修やeラーニングに参加している」が25.8%です。
身につけたい基礎的スキルの1位は「コンピューター基本操作」で46.2%。「特にない・あてはまるものはない」も23.4%ありました。
個々のスタッフの自発的な学習に期待しても、専門性は積み上がらない。これは能力や意欲の問題ではありません。就業しながら独学で専門領域を開拓するのは、そもそも難しいということだと思います。
だとすれば、専門性を設計できるのは会社側だけです。どの職種を狙い、どの訓練を用意し、誰に何を任せるか。その判断は、スタッフ側からは出てきません。
誤解のないように付け加えると、学ぶ意欲がないわけではありません。同じ調査で身につけたい専門的スキルを聞くと、答えはこう分かれます。
身につけたい専門的スキル | 回答割合 |
|---|---|
AI・機械学習の基本的な知識・活用スキル | 30.5% |
基本的な帳簿記録 | 20.0% |
財務諸表の理解・作成 | 17.5% |
特にない・あてはまるものはない | 36.2% |
出典:一般社団法人日本人材派遣協会「2025年度 派遣社員WEBアンケート調査結果」
最多は「特にない」の36.2%です。しかしAI関連を挙げた層も30.5%います。方向を示されれば動く層と、示されていない層が同居していると読むこともできるでしょう。
AI関連を挙げた3割は、会社が具体的な訓練と案件を用意すれば、そこへ移れる可能性を持った層です。帳簿と財務諸表を合わせると37.5%で、事務系から経理系への橋も見えます。初回面談での見極め方は「派遣スタッフとの初回面談で必ず確認すべき10項目」も参考になります。

訓練を用意しても、その職種の案件がなければスタッフは移れません。ここが見落とされがちな制約です。
いま取引している派遣先が製造や物流に偏っていれば、事務系や技術系の求人は入ってきません。職種を変えるという判断は、取引先の構成を変えるという判断とほぼ同じです。
だとすれば、訓練の設計と並行して開拓先の見直しが要ります。どの業界から当たるかは「派遣会社が新規開拓で狙うべき業界ランキング」が参考になります。需要が伸びる職種の見極め方は「労働人口の減少で需要が伸びる派遣職種・業界の見極め方」で扱いました。
順序としては、案件の見込みが立ってから訓練を始めるほうが安全です。訓練だけ先に走ると、行き先のないスキルが残ります。
以下は、ここまでの数字から組み立てた想定ケースです。実在の企業ではありません。
O社は製品検査中心で、平均単価は16,900円前後でした。隣接職種として生産管理・工程管理を選び、半年かけて訓練を用意します。同時に、既存の派遣先3社に対して「検査以外も出せないか」と聞いて回りました。結果として2社から工程管理の枠が出ます。
P社も同じく製品検査中心で、同じ時期に情報処理分野を狙うと決めました。eラーニングを契約し、希望者を募ります。ただし取引先はすべて製造の現場部門で、情報処理の求人は出てきませんでした。訓練を受けた5人のうち3人は、1年以内に他社へ移っています。
違いは訓練の質ではなく、隣接性と、案件の有無を先に確かめたかどうかです。単価が一段上で、いまの取引先から出てくる可能性がある職種。その二つを満たす範囲は、思うより狭いものです。
最初にやるべきは、自社の売上を職種別に並べ、それぞれの平均単価を出すことです。全業務平均の26,257円を基準線として引いてみてください。基準線を下回る職種に稼働の大半が集まっているなら、そこが現在地です。
次に、隣接する職種を一つだけ選びます。いきなり遠い領域へ移るのではなく、いま扱っている職種と地続きの、単価が一段上の職種です。
そして、その職種の求人が既存の派遣先から出る見込みがあるかを確認します。見込みが立ったら、必要な訓練を用意し、初回面談で見るべき項目を決める。専門性とは、この一連の設計のことだと考えています。
進み具合は月次で追うのが確実です。職種別の単価と稼働人数を毎月並べておけば、移行が進んでいるかどうかが一目で分かります。見る項目は「派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧」にまとめました。特化と総合のどちらを選ぶかは「派遣会社は専門特化と総合型どちらを目指すべきか」でも扱っています。
自社の売上と稼働人数を職種別に分解し、職種ごとの平均単価を算出した
全業務平均26,257円を基準線として、上回る職種と下回る職種を仕分けた
単価が基準線を下回る職種に、稼働人数の何%が集まっているかを確認した
単価の低い職種について、最低賃金改定後の粗利を試算した
いま扱っている職種と地続きで、単価が一段上の職種を一つ選んだ
その職種の求人が既存の派遣先から出る見込みがあるかを確認した
その職種に移るために必要なスキルを3つ以内に絞って書き出した
自社の教育訓練が、その3つに対応しているかを点検した
初回面談で確認する項目に、狙う職種の適性を測る質問を追加した
職種別の単価と稼働人数を、月次で並べる形式を決めた
派遣料金を動かしているのは、営業力でも雇用形態でもなく、扱っている職種でした。職種による開きは約2.9倍。一方、同じ職種の中での無期と有期の差は数%にとどまります。
単価の差は粗利の差にもつながります。試算では、上位職種と下位職種で1人あたり月20万円ほどの開きが出ました。単価の低い職種ほど最低賃金に近く、改定のたびに差額が縮む構造もあります。
そして専門性は、スタッフ個人の自助努力からは生まれにくい。42.2%が「何もしていない」というのは、そういうことだと思います。どの職種へ向かうかを決め、案件の見込みを確かめ、訓練と見極めを用意する。それができるのは会社側だけです。
まずは自社の職種別単価を、基準線とともに一枚に並べてみてください。利益率そのものの見直し方は「派遣会社の利益率を改善する方法と見直すポイント」にまとめています。
Q1. 令和6年度の派遣料金について、職種による開きはどの程度ですか?
A. 職種による差はほとんどない
B. 経営・金融・保険専門職業従事者42,588円と生活衛生サービス職業従事者14,474円で、約2.9倍の開きがある
C. 差はあってもおおむね2割程度にとどまる
正解:B
解説:「職種による開き」の章のとおり、全業務平均26,257円に対し、上位と下位で約2.9倍の差があります(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和6年度)。
Q2. 「無期雇用にすれば単価が上がる」という説について、データはどう読めますか?
A. 全体では21.8%の差があるが、同じ職種の中では0.7〜9.5%にとどまる
B. どの職種でも無期にすれば2割以上上がる
C. 無期雇用のほうが単価は低い
正解:A
解説:「見落とされている論点」の章で述べたとおり、全体の差が大きく見えるのは無期雇用が単価の高い職種に偏っているためだと考えられます(厚生労働省、令和6年度)。
Q3. 狙う職種を一つ決めたあと、訓練を始める前に確認しておくべきことはどれですか?
A. スタッフ全員がその職種を希望しているかどうか
B. その職種の求人が、既存の派遣先から出る見込みがあるかどうか
C. 同業他社が同じ職種を扱っていないかどうか
正解:B
解説:「狙う職種の案件は、自社に流れてくるのか」の章のとおりです。案件がなければ、訓練を受けたスキルは行き先を失います。
狙う職種を決めても、その職種の案件が自社に流れてこなければ移ることはできません。新しい領域の求人企業と接点を持つには時間がかかります。
ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。自社だけでは接点を持ちにくい求人企業と出会う手段として、営業活動を補完する位置づけでご検討ください。
・厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)
・一般社団法人日本人材派遣協会「2025年度 派遣社員WEBアンケート調査結果」(2025年12月公表)
・厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申)
この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム
ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
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