労働人口の減少で需要が伸びる派遣職種・業界の見極め方

市場動向

2026/8/5

労働人口の減少で需要が伸びる派遣職種・業界の見極め方

人手不足が深刻だと報じられる業界へ営業をかける。一見もっともらしい判断ですが、公的統計を並べると、この順序では外れることが分かります。

この記事では、伸びる職種・業界を見極める3軸を示します。そのうえで、短期と長期が食い違ったときの扱い、粗利差の年額試算、登録者を確保できるかという4つ目の条件まで扱います。

目次

結論:「人手不足の業界を狙う」では外れる。判断は3軸で行う

伸びる領域を見極める軸は3つあります。①労働供給が構造的に細り需給ギャップが開くか、②その業務が派遣という形態で発注されるか、③1人1日あたりの粗利が確保できるか。この3つが揃う領域だけが、自社の売上と利益になります。

市場そのものは拡大しています。令和6年度の労働者派遣事業の年間売上高は9兆9,005億円で、前年度比9.4%増でした。派遣先件数も約86万件、同7.9%増です(厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」)。

しかし拡大しているのは市場全体であって、すべての職種ではありません。どの職種を伸ばすかが、利益率をそのまま決めます。市場全体の規模感は「人材派遣市場の規模と今後10年の成長予測」で扱いました。業界単位の優先順位は「派遣会社が新規開拓で狙うべき業界ランキング」でも整理しています。本記事では判断の考え方そのものを扱います。

なぜ「人手不足の業界を狙う」だけでは外れるのか

理由は、就業者数の増減が需要の増減を意味しないためです。ここを取り違えると、営業先の選定を根本から間違えます。

JILPTの推計では、成長率ベースライン・労働参加漸進シナリオの場合、2022年から2040年にかけて医療・福祉は897万人から1,058万人へ増えます。一方、鉱業・建設業は477万人から389万人、製造業は996万人から924万人へ減ります(労働政策研究・研修機構「2023年度版 労働力需給の推計」)。

この推計は労働市場で需給が調整された結果の数字です。つまり、建設や製造の就業者が減るのは仕事が減るからではなく、人を確保できないからです。

就業者数の減少は需要の縮小ではなく、需給ギャップの拡大を意味します。派遣会社の商機はむしろこちら側にあります。人口そのものの動きが損益に効く経路は「人口減少が派遣会社に与える影響とは」で整理しました。

三つの円が重なり、すべてが重なる中心に立つ担当者を描いたイラスト

見極めの3軸と、それぞれの確認方法

3軸のうち1つでも欠ける領域は、案件が取れても稼働と粗利につながりません。判断基準は次のとおりです。

軸

何を見るか

確認できる資料

外した場合に起きること

①需給ギャップ

就業者数が減る=供給制約が強い産業か

JILPT産業別就業者数推計、有効求人倍率

需要はあるが人が採れず、受注が稼働にならない

②派遣適性

業務が切り出せ、派遣で発注される慣行があるか

事業報告の職種別派遣労働者数・派遣料金

派遣ではなく紹介や請負で発注され、失注が続く

③粗利水準

1人1日あたりの派遣料金と賃金の差

事業報告の職種別派遣料金・賃金

稼働は増えるが利益が残らない

軸①は全国平均だけを見ても判断できません。2026年2月時点の15〜64歳人口は7,342万7千人で、前年同月比の減少は21万人を下回っています(総務省統計局「人口推計」)。全体では緩やかでも、供給の細り方は産業ごとに大きく異なります。

また軸②は特に見落とされがちです。人手不足が深刻でも、派遣という形態がほとんど使われていない領域はあります。事業報告に職種別の派遣料金が計上されているかどうかは、その職種で派遣が実際に使われているかを示す手がかりになります。

別々の方向を指す二本の矢印が交わる位置に立ち、片方を見ている担当者のイラスト

短期の求人動向と長期の推計が食い違うとき

二つの時間軸は、しばしば逆を向きます。令和8年6月の新規求人(原数値)は前年同月比で、製造業が10.4%増、サービス業(他に分類されないもの)が11.5%増でした。一方、情報通信業は6.4%減、卸売業・小売業は2.6%減です(厚生労働省「一般職業紹介状況」令和8年6月分)。

製造業は長期では就業者が減る側ですが、足元の求人は伸びています。情報通信業はその逆です。どちらを採るべきかは、何を決めるかによって変わります。

営業先リストは短期の求人動向で、育成投資は長期の推計で決める。これが実務上の使い分けです。来月の稼働を作るのは足元の求人であり、3年後の粗利を作るのは長期の構造だからです。

逆に言えば、足元の求人が伸びているからといって訓練予算をそこへ寄せるのは危険です。短期の増減は景気で振れますが、供給の細りは戻りません。

職種別の粗利を並べると、狙うべき順位が変わる

同じ稼働1人を確保する労力は職種で大きく変わらないのに、生む粗利は2倍以上違います。令和6年度の職種別データを、派遣料金と賃金の差額が大きい順に並べると次のようになります。

職種

派遣料金(8時間)

賃金(8時間)

差額

情報処理・通信技術者

34,382円

21,032円

13,350円

建築・土木・測量技術者

34,168円

21,429円

12,739円

製造技術者

28,518円

17,724円

10,794円

建設従事者(躯体工事を除く)

29,418円

19,095円

10,323円

看護師

23,428円

15,913円

7,515円

事務用機器操作員

20,297円

13,383円

6,914円

一般事務従事者

18,112円

12,231円

5,881円

製品製造・加工処理従事者

16,883円

11,406円

5,477円

介護サービス職業従事者

16,282円

11,093円

5,189円

出典:厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」をもとに作成。同資料の注記のとおり派遣料金は消費税を含む額であり、差額は税抜きの粗利額とは一致しない

介護サービスの差額5,189円に対し、建築・土木・測量技術者は12,739円と約2.5倍あります。人手不足の深刻さが語られる頻度と、1人あたりの粗利はまったく相関しません。

もちろん技術者系は登録者の確保が難しく、単純に乗り換えられるものではありません。しかし、主力職種の差額を把握していなければ比較の土台がありません。単価そのものを何が決めているかは「派遣会社の未来は専門性で決まる理由」で扱いました。

粗利差は年間でいくらになるか(試算)

日額の差は小さく見えます。年額に直すと印象が変わります。

建築・土木・測量技術者と介護サービス職業従事者の差額は、1日あたり7,550円です。稼働1人を月20日就業させれば、月あたり約15万1,000円。年間240日なら、1人で約181万円の差になります。

稼働10人分を入れ替えられたとすれば、年間で約1,810万円です。これは職種構成だけを動かした場合の試算で、単価交渉も稼働人数の増加も含んでいません。

実際には技術者系は登録者の獲得単価が高く、教育にも時間がかかります。それでも、この桁の差が職種構成だけで生まれるという事実は、営業先を決める前に知っておく価値があります。売上が伸びても利益が残らない構造は「売上が伸びても利益が残らない理由と対策」で詳しく扱っています。

大きな漏斗の上に多くの人が集まり、下から出てくるのは二人だけという様子のイラスト

4つ目の条件:登録者を確保できるか

3軸が揃っていても、人を集められなければ案件は稼働になりません。実務ではこれが4つ目の条件になります。

日本人材派遣協会の2025年度調査では、スキルアップのために取り組んでいることの最多回答は「何もしていない」で42.2%でした。一方、身につけたい専門的スキルの1位は「AI・機械学習の基本的な知識・活用スキル」で30.5%です。

つまり、自然に専門職へ移る層は多くない一方、方向を示されれば動く層は3割ほどいると読めます。新しい職種を狙うなら、既存の登録者から何人を移せるかを先に見積もるのが現実的です。

見積もりがゼロなら、その職種は採用から作る必要があります。採用コストと立ち上がり期間を粗利差と並べて比べてはじめて、参入の可否が判断できます。中小規模での戦い方は「中小派遣会社が大手に勝つための戦略」も参考にしてください。

見落とされている論点:派遣業自身の将来推計は、シナリオ差が最も大きい

労働力需給推計では、派遣スタッフは派遣先ではなく派遣元の産業に分類され、「その他の事業サービス業」に含まれます。この産業の2040年の就業者数は、シナリオによって大きく振れます。

シナリオ

2022年

2040年

増減

成長実現・労働参加進展

458万人

533万人

+75万人

成長率ベースライン・労働参加漸進

458万人

432万人

▲26万人

一人当たりゼロ成長・労働参加現状

458万人

325万人

▲133万人

出典:労働政策研究・研修機構「2023年度版 労働力需給の推計」をもとに作成

振れ幅は約208万人で、主要産業のなかでも際立って大きい部類です。派遣業は成長分野が伸びれば拡大し、停滞すれば真っ先に縮む、変化を増幅する産業だと読めます。

人口減少という一つの前提だけで将来を決めるのは危険です。市場全体の追い風論については「「人材不足」は派遣会社にとって本当に追い風なのか」でも扱いました。

外国人材をどこまで自社の供給に組み込めるか

シナリオの分岐点は、外国人材やシニアの労働参加をどこまで自社の供給に取り込めるかにあります。外国人労働者数は257万1,037人と過去最多を更新しました(厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」)。

ただし、どの職種でも同じように受け入れられるわけではありません。在留資格ごとに就ける業務が決まっており、派遣という形態が認められる範囲も一様ではありません。

狙う職種を決める段階で、その職種が外国人材を受け入れられるかどうかを確認しておくと、後戻りが減ります。受け入れ可否は、需給ギャップの大きさと同じくらい供給側の制約を左右します。

想定ケース|同じ推計を見て判断が分かれた二社

以下は、ここまでの数字から組み立てた想定ケースです。実在の企業ではありません。

Q社は製品製造・加工処理が主力で、1人1日あたりの差額は5,500円前後でした。長期推計で製造業の就業者が減ることを確認し、同じ製造現場のなかで製造技術者へ寄せる方針を立てます。既存登録者のうち8人に声をかけ、3人が技術系の案件へ移りました。

R社は同じ推計を見て、医療・福祉が伸びる側だと判断し、介護へ参入します。求人は確かにありました。しかし差額は5,189円で、既存の主力と変わりません。登録者も新規採用に頼ることになり、採用費が粗利を上回る月が続きました。

分かれ目は、就業者数が増える側を選んだか、粗利が大きい側を選んだかです。伸びる産業と、儲かる職種は同じではありません。

今日からできる改善策

着手すべきは新しい業界への参入ではなく、現在の案件ポートフォリオの棚卸しです。自社がどの職種でいくら稼いでいるかを把握しないまま、外の情報だけで営業先を変えても再現性がありません。

最初に、直近12か月の稼働を職種別に分け、1人1日あたりの料金と賃金の差額を出します。比較の基準になるのは、令和6年度の全業務平均である9,522円(派遣料金26,257円-賃金16,735円)です。

次に、その職種を3軸に当てはめます。需給ギャップが開く方向にあり、派遣で発注される慣行があり、粗利が社内平均を上回る職種が、増やすべき領域です。そのうえで、既存登録者から何人を移せるかを見積もります。

逆に3軸のいずれかを欠く職種は、件数を追わない判断も必要になります。入れ替えの進み具合は、職種別の粗利と稼働人数を月次で並べれば追えます。

今日から実践するためのチェックリスト

直近12か月の稼働人数を職種別に分解したか

職種別の1人1日あたり粗利額(料金-賃金)を算出したか

自社の主力職種が業界平均の差額9,522円と比べて高いか低いか確認したか

主力職種の就業者数が長期的に増える側か減る側かを推計で確認したか

直近の産業別新規求人の増減を、営業先リストに反映したか

営業先は短期の求人動向、育成投資は長期の推計で決める、と分けて整理したか

狙う職種で派遣という発注形態が実際に使われているか確認したか

狙う職種へ既存登録者から何人移せるかを見積もったか

粗利が社内平均を下回る職種の比率を出したか

狙う職種が外国人材を受け入れられるかを確認したか

職種別の粗利ランキングを、営業とコーディネーターの双方に共有したか

まとめ

伸びる職種・業界は、人手不足の報道量ではなく、需給ギャップ・派遣適性・粗利の3軸で判断します。就業者数が減る産業は需要が減っているのではなく、人が採れずギャップが開いている産業です。

粗利差は職種によって2.5倍あり、稼働10人分を入れ替えれば年間1,800万円規模の試算になります。一方で、登録者を確保できなければ案件は稼働になりません。3軸に加えて、人を集められるかという4つ目の条件を置いてください。

短期の求人動向と長期の推計は食い違います。営業先は短期で、育成投資は長期で決める。判断を誤らないために、まず自社の職種別粗利を把握することから始めてください。

確認クイズ(FAQ)

Q1. 製造業や建設業の就業者数が長期的に減る推計は、派遣会社にとって何を意味しますか?

A. 仕事そのものが減るので、営業先から外すべきである
B. 人を確保できないことによる需給ギャップの拡大を意味し、むしろ商機になりうる
C. 派遣という発注形態が使われなくなることを意味する

正解:B
解説:「なぜ『人手不足の業界を狙う』だけでは外れるのか」の章のとおりです。推計は需給が調整された結果の数字であり、就業者数の減少は需要の縮小ではありません(労働政策研究・研修機構、2024年)。

Q2. 令和6年度の職種別データで、1人1日あたりの差額が最も大きい職種と最も小さい職種の差はどの程度ですか?

A. 情報処理・通信技術者13,350円と介護サービス職業従事者5,189円で、約2.5倍
B. どの職種もおおむね同水準で、差は1割程度
C. 介護サービス職業従事者のほうが差額は大きい

正解:A
解説:「職種別の粗利を並べると」の章のとおりです。稼働1人を20日就業させた場合、建築・土木・測量技術者と介護サービスの差は月あたり約15万円になります(厚生労働省、令和6年度)。

Q3. 営業先リストと育成投資は、それぞれどちらの時間軸で決めるのが実務的ですか?

A. どちらも長期の推計で決める
B. 営業先リストは短期の求人動向、育成投資は長期の推計で決める
C. どちらも足元の新規求人の増減で決める

正解:B
解説:「短期の求人動向と長期の推計が食い違うとき」の章のとおりです。来月の稼働を作るのは足元の求人であり、3年後の粗利を作るのは長期の構造です。

ハケンバンクについて

狙う職種を定めても、その職種の求人企業と接点がなければ案件は増えません。新しい領域の取引先を自社の営業だけで開拓するには時間がかかります。

ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。自社だけでは接点を持ちにくい求人企業と出会う手段として、営業活動を補完する位置づけでご検討ください。

参考文献

・厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

・厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」(2026年)

・厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」(2026年1月30日公表)

・総務省統計局「人口推計」(2026年2月確定値、2026年7月概算値)

・労働政策研究・研修機構「2023年度版 労働力需給の推計―労働力需給モデルによるシミュレーション―」(資料シリーズNo.284、2024年8月)

この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム

ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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