
経営・事業戦略
売上3〜5億円までは順調に成長してきたものの、その先で伸び悩む派遣会社は少なくありません。営業担当を増やしても利益が残らず、求人を増やしてもスタッフが集まらない。支店を出したものの採算が合わず、経営者自身が現場業務から抜け出せないケースもあります。
まず、10億円という目標が業界の中でどの位置にあるかを確認しておきます。厚生労働省の集計によると、令和6年度に労働者派遣の実績があった33,207事業所の売上高の分布は次のとおりです。
年間売上高 | 事業所数 | 割合 |
|---|---|---|
10億円以上 | 1,985所 | 6.0% |
5億円〜10億円 | 2,389所 | 7.2% |
1億円〜5億円 | 9,669所 | 29.1% |
5,000万円〜1億円 | 4,863所 | 14.6% |
1,000万円〜5,000万円 | 9,630所 | 29.0% |
1,000万円未満 | 4,671所 | 14.1% |
10億円以上は1,985所で、全体の6.0%。つまり上位16社に1社の世界です。最も事業所が多いのは「1億円〜5億円」の29.1%と「1,000万円〜5,000万円」の29.0%で、1事業所あたりの平均売上高は2億9,800万円。「3〜5億円で伸び悩む」という状態は、業界の分布のど真ん中で止まっているということでもあります。
本記事は、売上10億円規模を目指す派遣会社の経営者や事業責任者に向けて、売上拡大だけではない「利益を伴う成長戦略」を解説します。結論から言えば、10億円企業へ成長するために必要なのは営業量ではなく、再現性のある経営モデルを構築することです。
目次

売上10億円を実現する派遣会社ほど、売上高そのものよりも粗利を重視しています。派遣事業では売上が増えても、スタッフ募集費や人件費、営業コストが膨らめば利益は残りません。売上だけを追いかける経営は、一見順調に見えても資金繰りを圧迫する可能性があります。
派遣会社の売上は、「稼働人数×派遣料金×稼働時間」で決まります。この式に業界平均を入れると、10億円という目標が何人分の稼働を意味するのかがはっきりします。
令和6年度の8時間換算の平均派遣料金は26,257円。1人が年間240日稼働すると仮定すると、1人あたりの年間売上はおよそ630万円です。売上10億円を達成するには、常時159人前後の稼働が必要になります(試算)。平均の派遣料金は26,257円、派遣労働者の賃金は16,735円でその差は9,522円ですから、159人が240日稼働したときの粗利はおよそ3億6,300万円という計算になります。
項目 | 金額・人数 |
|---|---|
8時間換算の平均派遣料金 | 26,257円 |
8時間換算の平均賃金 | 16,735円 |
1人1日あたりの差額 | 9,522円(マージン率36.3%) |
1人あたりの年間売上(240日稼働の試算) | 約630万円 |
売上10億円に必要な常時稼働人数(試算) | 約159人 |
その場合の年間粗利(試算) | 約3億6,300万円 |
ここで注意したいのは、このマージン率36.3%がそのまま手元に残るわけではないという点です。社会保険料の事業主負担や有給休暇引当を差し引くと、実際に残る比率は大きく下がります。この構造は「派遣会社の利益率を改善する方法と見直すポイント」で分解しています。
例えば、高単価案件を多く保有し、採用コストを抑えながら高い定着率を維持している会社と、低単価案件を大量に受注し、広告費をかけ続けている会社では、利益構造はまったく異なります。経営者が毎月確認すべきなのは売上推移だけではなく、「どの案件が利益を生み、どの案件が利益を圧迫しているのか」という視点です。
指標 | 確認する目的 |
|---|---|
稼働人数 | 売上の基盤となる人数を把握する(10億円なら約159人が目安) |
粗利額・粗利率 | 利益構造を把握する(業界平均のマージン率は36.3%) |
平均派遣単価 | 単価改善の余地を確認する(全職種平均26,257円) |
採用コスト | 人材確保の効率を測定する |
就業率 | 登録者が売上へ転換されているか確認する(業界平均29.2%) |
契約更新率 | 安定した売上基盤を評価する |
営業担当者一人当たり粗利 | 営業生産性を把握する |
重要なのは、これらを個別に見ることではありません。例えば採用コストが高くても契約更新率が高ければ、中長期では利益に貢献する場合があります。数字同士の関係性を見ることが、経営判断の質を高めます。指標の一覧は「派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧」にまとめています。

売上10億円を人数に置き換えると、次に突き当たるのが人材プールの規模です。
令和6年度の登録者数は7,528,323人、派遣労働者数は2,199,639人。登録者に対する稼働の比率は全国平均で29.2%です(試算)。この水準で159人を常時稼働させようとすると、登録者はおよそ545人必要という計算になります。1事業所あたりの平均登録者数は226.7人ですから、業界平均の2.4倍の人材プールを持つ必要があるということです。
しかも、この母数は縮んでいます。登録者数は前年度の7,710,857人から2.4%減、1事業所あたりでは242.4人から226.7人へ6.5%減りました。一方で派遣先件数は861,926件と7.9%増えています。案件が増えて人が減る局面では、「営業を増やして売上を伸ばす」という発想だけでは10億円に届きません。
なお、稼働率には地域差があります。南関東は23.9%、北海道は17.7%と低い一方、北陸60.8%、中国54.8%、北関東・甲信51.7%、東海49.5%と、地方のほうが登録者を稼働につなげています(いずれも試算)。都市部で事業を営む会社ほど、登録者数を増やすより稼働率を上げるほうが近道になる可能性があります。

「営業担当が足りない」「コーディネーターが不足している」と考える経営者は多いですが、売上が伸びない原因は人員数ではなく、組織の設計にあるケースが少なくありません。
売上3億円規模までは、経営者自身が営業や求人獲得、スタッフ対応を兼務していても事業は回ります。しかし事業規模が拡大すると、属人的な運営では限界が訪れます。担当者ごとに営業方法やスタッフ対応が異なり、ノウハウが共有されない状態では、新しい人材を採用しても成果が再現されません。
仕組み化できている会社が少ないことは、データにも表れています。令和6年度に計画的なOJTを実施した派遣元事業所は31.9%。Off-JTは66.9%、教育訓練の費用を派遣労働者に負担させていない事業所は99.2%にのぼる一方で、計画的な育成を回しているのは3社に1社にとどまります。
特に派遣会社では、営業担当とコーディネーターの情報分断が起きやすいという特徴があります。営業担当は求人企業の情報を持ち、コーディネーターは求職者の情報を持っています。しかし両者の情報共有が十分でなければ、マッチング精度が下がり、契約更新率やスタッフ定着率にも影響します。
この分断は、契約の短さによって増幅されます。令和6年度の派遣契約期間は、1日以下が25.7%、1月超2月以下が20.9%、2月超3月以下が28.4%。3か月以内に終わる契約が大半を占めるため、稼働人数は常に入れ替わります。情報が個人に閉じていると、入れ替わるたびに関係がゼロから作り直されることになります。
つまり、営業力だけを強化しても売上は伸びません。営業、採用、マッチング、就業フォローまでを一つのプロセスとして設計し、それぞれの担当者が同じKPIを共有する仕組みを作ることが重要です。
例えば年間売上5億円規模の派遣会社を想定してみましょう。
A社は営業担当ごとに案件管理の方法が異なり、求人企業とのやり取りも個人任せです。スタッフ情報も担当者しか把握しておらず、退職や異動があるたびに顧客対応が滞ります。その結果、新規営業を続けても既存顧客の契約更新率が低下し、売上は伸び悩みます。
一方でB社は、営業履歴やスタッフ情報を一元管理し、営業担当とコーディネーターが同じ情報を共有しています。担当者が変わってもサービス品質が維持されるため、既存顧客から追加発注を受けやすくなり、新規営業に依存しない成長が可能になります。
この違いは、営業力ではなく「組織として利益を再現できる仕組み」があるかどうかにあります。売上10億円を目指すのであれば、個人の能力に依存する会社から、仕組みで成果を出す会社への転換が欠かせません。
売上を拡大しようとすると、多くの派遣会社は案件数を増やそうと考えます。しかし、案件数が増えることと利益が増えることは同義ではありません。重要なのは、どのような案件構成で売上を作っているかです。
職種によって単価は大きく異なります。8時間換算の派遣料金は、情報処理・通信技術者が34,382円、建築・土木・測量技術者が34,168円である一方、介護サービスは16,282円、農業は14,618円、生活衛生サービスは14,474円。最高と最低では約2.4倍の開きがあります。同じ159人を稼働させても、構成が違えば売上は倍近く変わるということです。
例えば、短期案件は稼働開始までが早い一方で、契約終了も早く採用コストが繰り返しかかります。一方、長期案件は立ち上がりに時間がかかるものの、契約更新率が高ければ利益は積み上がりやすくなります。また、高単価案件ばかりを狙えば人材確保が難しくなり、逆に低単価案件ばかりでは利益率が低下します。
つまり、案件は「数」ではなく「組み合わせ」で考えるべきです。売上10億円規模を目指す会社ほど、高粗利案件・安定稼働案件・将来の取引拡大が期待できる案件などをバランスよく保有しています。専門特化と総合型のどちらを選ぶかという論点は「派遣会社は専門特化と総合型どちらを目指すべきか」で扱っています。
さらに見落とされがちなのが、求人企業との関係性です。新規取引先を100社開拓するよりも、既存顧客から追加発注を継続的に獲得する方が営業効率は高くなります。求人企業が派遣会社を評価するポイントは価格だけではありません。厚生労働省の調査では、派遣を使う理由として最も多いのは「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため」76.5%で、2位の「一時的・季節的な業務量の変動に対処するため」37.2%に倍以上の差をつけています。対応スピード、欠勤率、定着率、現場へのフォロー体制が、そのまま評価につながります。
売上10億円企業は営業部門だけで顧客満足を作っているのではなく、営業・コーディネーター・フォロー担当が連携し、既存顧客との取引拡大を実現しています。
売上が伸び始めると、多くの会社は営業担当者を増員します。しかし、それ以上に重要なのが業務を標準化するための投資です。
例えば、営業履歴やスタッフ情報をデータベースで一元管理すること、AIを活用して求人票や営業メールの作成時間を短縮すること、採用媒体ごとの応募単価や就業率を可視化することなどは、直接売上を生まないように見えて、長期的な営業生産性を大きく改善します。
手がついていない領域は、まだ残っています。紹介予定派遣を実施している事業所は2,322所で全体の7.0%のみ。マージン率等をインターネットで情報提供しているのは43,812事業所のうち33,942所で77.5%にとどまり、5社に1社以上が未対応です。一方、キャリアコンサルティングは希望者465,798人に対して454,449人が受けており実施率97.6%と、ほぼ全社が対応済みです。「やっている会社が少ないこと」を選ぶのが投資判断の基本になります。
特に中小派遣会社は、大手と同じ広告費や営業人数では勝負できません。一方で、意思決定が速く、現場改善をすぐ実行できるという強みがあります。DXやAIは「最新技術を導入すること」が目的ではなく、経営者が現場から離れても事業が回る状態を作るための手段として考えるべきでしょう。規模で戦わない選択については「中小派遣会社が大手に勝つための戦略|規模ではなく「選択と集中」で勝つ」も参考にしてください。
・売上ではなく粗利率・営業担当者一人当たり粗利を毎月確認している(業界平均のマージン率は36.3%)
・10億円に必要な稼働人数(約159人)と、現在の稼働人数の差を把握している
・稼働率(派遣労働者数÷登録者数)を計算している(全国平均29.2%)
・案件ごとの利益率を把握し、高粗利案件と安定案件の構成を分析している(職種間の単価差は最大約2.4倍)
・営業・コーディネーター・フォロー担当が同じ情報を共有できる仕組みがある
・既存顧客の追加発注率・契約更新率をKPIとして管理している
・採用コスト・就業率・定着率をまとめて分析している
・属人化している業務を洗い出し、標準化できるものから改善している(計画的OJTの実施率は業界で31.9%)
売上10億円を目指すために必要なのは、営業担当者を増やし続けることではありません。利益を生む案件構成を作り、組織として成果を再現できる仕組みを整え、現場の判断を数字で支える経営へ転換することです。
10億円以上の事業所は全体の6.0%、1,985所。一方で1億円〜5億円が29.1%を占めます。この壁を越えるには、常時159人前後の稼働と、その2倍以上にあたる545人規模の人材プールが必要になります(いずれも試算)。登録者数が前年度比2.4%減という環境では、人数を積み増すより、稼働率と単価を上げるほうが現実的です。
特に中小・中堅派遣会社は、大手と同じ戦い方をする必要はありません。高い意思決定スピードや現場との距離の近さを活かし、粗利管理、案件ポートフォリオ、情報共有の3点を見直すだけでも、成長の再現性は大きく変わります。
まずは、自社が毎月確認している経営指標を棚卸しし、「売上以外の数字」で会社を見られているかを確認することから始めてみてください。
Q1. 年間売上高が10億円以上の派遣事業所は、全体のどのくらいですか?
A. 約3割
B. 6.0%(1,985所)
C. 約2割
正解:B 解説:冒頭の売上高分布のとおりです。最も多いのは「1億円〜5億円」29.1%と「1,000万円〜5,000万円」29.0%で、1事業所あたりの平均売上高は2億9,800万円でした(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)令和6年度」)。
Q2. 売上10億円を達成するために必要な常時稼働人数は、業界平均の単価でおよそ何人ですか?
A. 約50人
B. 約159人
C. 約400人
正解:B 解説:「売上10億円を目指すなら『売上』ではなく『粗利』を経営の中心に置く」の章のとおりです。8時間換算の平均派遣料金26,257円で年間240日稼働すると、1人あたりの年間売上は約630万円になります(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)令和6年度」をもとに編集部試算)。
Q3. 売上5億円で頭打ちになっています。営業担当を2名増員するか、情報共有の仕組みに投資するか迷っています。判断の材料として適切なのはどれですか?
A. 競合他社の営業人数と比較して決める
B. 稼働率(派遣労働者数÷登録者数)を計算し、登録者が稼働につながっていないなら仕組み側から手をつける
C. 広告費を増やして登録者数を先に積み増す
正解:B 解説:「159人を常時稼働させるには、登録者が何人必要か」の章のとおりです。全国平均の稼働率は29.2%、1事業所あたりの登録者数は226.7人で前年度比6.5%減。母数が縮む局面では、登録者を増やすより稼働につなげるほうが先になります(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)令和6年度」をもとに編集部試算)。
売上を伸ばすためには、営業活動の効率化も重要な経営テーマです。自社だけで新規開拓を進めることが難しい場合は、外部の仕組みを活用する選択肢もあります。
ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の求人獲得を支援するプラットフォームです。営業活動を補完する手段の一つとして、自社の成長戦略に合わせて活用を検討することも選択肢となるでしょう。
この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム
ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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