派遣会社の利益率を改善する方法と見直すポイント

経営・事業戦略

2026/9/8

派遣会社の利益率を改善する方法と見直すポイント

「マージン率は30%あるのに、決算では利益がほとんど残らない」。派遣会社の経営者から、最もよく聞かれる悩みの一つです。原因は営業力でも稼働人数でもなく、料金と賃金の差額をそのまま粗利だと考えてしまう、原価の捉え方にあります。

この記事では、派遣料金1日分を分解しながら、差額の36.3%が手元では約16%まで縮む構造を確認します。そのうえで、案件を粗利率ではなく粗利額で選ぶ理由、単価交渉の時期の決め方、社内一人当たりの担当人数という三つの打ち手を、公的統計と最新の保険料率をもとに整理します。

目次

結論:利益率の改善は「単価交渉」から始めない

利益率を上げたいとき、多くの会社はまず値上げを考えます。しかし着手すべき順番は、原価の見える化、案件ポートフォリオの入れ替え、管理効率の三つです。単価交渉が重要でないのではありません。原価が見えて初めて、いくら上げる必要があるのかを根拠を持って言えるようになるからです。

厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」によれば、派遣料金(8時間換算)の平均は26,257円、派遣労働者の賃金は16,735円でした。差額は9,522円、料金に対する比率は36.3%になります。ただし、この派遣料金には消費税が含まれています。36.3%をそのまま粗利率として値決めをすると、実態と10ポイント以上ずれた数字で経営判断をすることになります。

売上が伸びているのに利益が増えないという症状そのものについては「派遣会社で売上が伸びても利益が残らない理由と対策」で別途整理しています。本記事は、その原因である原価構造に絞って扱います。

なぜ利益が残らないのか──36.3%が手元で約16%になるまで

派遣料金から賃金と法定福利費を引くと手元に残るのは約16%であることを表すイラスト

差額が手元に残らない最大の理由は、賃金以外の人件費が先に差し引かれるからです。派遣会社は、派遣スタッフの社会保険料の事業主負担分と、有給休暇中の賃金を負担します。どちらも案件ごとの見積書には表れませんが、確実に発生する原価です。

令和8年度の料率で確認します。健康保険は協会けんぽ東京支部で9.85%、厚生年金保険は18.3%で、いずれも労使折半です。雇用保険は一般の事業で事業主負担が8.5/1,000、労災保険は「その他の各種事業」で3/1,000、子ども・子育て拠出金0.36%は全額が事業主負担になります。

法定福利費の内訳(令和8年度)

項目

料率

うち事業主負担

健康保険(協会けんぽ東京支部)

9.85%

4.925%

子ども・子育て支援金

0.23%

0.115%

厚生年金保険

18.30%

9.150%

子ども・子育て拠出金

0.36%

0.360%

雇用保険(一般の事業)

1.35%

0.850%

労災保険(その他の各種事業)

0.30%

0.300%

合計

—

15.70%

出典:全国健康保険協会・厚生労働省・日本年金機構(いずれも令和8年度)。40歳未満・東京支部を前提としています。40歳以上65歳未満は介護保険料率1.62%の折半分0.81%が加わり、事業主負担は16.51%になります。

これを1日分に当てはめると、残る金額がはっきりします。

派遣料金1日分(8時間)の内訳

項目

1日(8時間)当たり

税抜料金に対する比率

派遣料金(消費税込み)

26,257円

—

派遣料金(消費税10%で割り戻し)

23,870円

100.0%

派遣スタッフの賃金

16,735円

70.1%

法定福利費(賃金の15.7%)

2,627円

11.0%

有給休暇引当(賃金の約4.8%)

697円

2.9%

残り(社内原価と利益の原資)

3,811円

16.0%

出典:派遣料金・賃金は厚生労働省(令和6年度)、料率は令和8年度。消費税の割り戻しと有給休暇引当は編集部による試算です。

有給休暇引当の4.8%という数字についても補足します。厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」では、労働者一人当たりの年次有給休暇の取得日数は11.0日、取得率は65.3%でした。年間の所定労働日数を240日とすれば、11日はおよそ4.6%に当たります。派遣スタッフが有給を取得している日も、派遣先に請求は立ちません。それでも賃金は支払うため、取得率が上がるほど原価も上がる関係にあります。

残るのは料金の約16%です。ここから募集費、社内人件費、拠点費、システム費のすべてを賄います。36%と16%を混同したまま値決めをすれば、利益が残らないのは当然だということです。経営指標としてどの数字を毎月見るべきかは「派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧」にまとめています。

この16%という水準は、固定費の重さによって一気に反転します。例えば拠点を一つ増やし、家賃と人件費で月150万円が追加で出ていくとします。1日あたり3,811円の原資で150万円を埋めるには、単純計算で月に約394人日分の稼働が必要です。稼働20日で割れば、約20人を新たに動かし続けなければ損益が合いません。拠点や人員の投資判断は、この「何人日で回収できるか」という形に置き換えると判断を誤りにくくなります。

見落とされている論点──粗利「率」で案件を切ると利益は減る

同じ管理工数なら粗利率より粗利額の大きい案件が会社に残ることを表すイラスト

利益率を上げようとして、粗利率の低い案件を切る会社があります。しかしこの判断は、しばしば利益そのものを減らします。理由は単純で、管理にかかる工数が単価に比例しないからです。

例えば、時給2,000円で賃金1,400円のA案件と、時給3,200円で賃金2,400円のB案件を想定してみましょう。粗利率はAが30.0%、Bが25.0%で、率だけを見ればAが優れています。しかし1時間当たりの粗利額はAが600円、Bが800円です。フォロー、勤怠確認、請求処理といった業務量は、単価が高いからといって増えるわけではありません。

粗利率と粗利額の比較(想定ケース)

項目

A案件

B案件

派遣料金(時給)

2,000円

3,200円

賃金(時給)

1,400円

2,400円

粗利額(1時間)

600円

800円

粗利率

30.0%

25.0%

1人を1か月(160時間)担当した場合の粗利

96,000円

128,000円

上表は構造を示すための想定ケースです。担当できる人数に上限がある以上、会社に残る金額を決めるのは率ではなく額だということが分かります。

同じ集計によれば、派遣契約の期間は3か月以内が85.7%を占めます(件数ベース)。入れ替えを検討する機会は、毎四半期に訪れているということです。契約が切れるたびに「このまま続けるか」を判断できる構造になっているにもかかわらず、更新手続きが自動的に流れていく会社は少なくありません。どの領域に案件を寄せるかという判断は「派遣会社は専門特化と総合型どちらを目指すべきか」でも整理しています。

想定ケース|粗利率が同じでも利益が分かれる二つの会社

例えば、どちらも粗利率28%前後、稼働60人規模の派遣会社を二つ想定してみましょう。

C社は、案件を受注順に並べて管理しています。粗利額の小さい案件も大きい案件も同じ頻度でフォローし、担当者は「どの案件が会社に残しているか」を把握していません。最低賃金が上がると、取引先ごとに個別相談を始め、上げられた先と据え置いた先が混在します。結果として、原資が小さい案件ほど交渉が後回しになり、採算の悪い案件が残り続けます。

D社は、四半期ごとに案件を粗利額の順に並べ替えています。下位の案件については、管理工数と照らして継続可否を決め、単価改定は10月の発効日から逆算して6月には交渉を始めます。交渉の根拠は「原価が1日あたり950円増える」という自社の計算です。同じ粗利率でも、D社のほうが担当者一人当たりの粗利額は大きくなり、値上げが通らなかった案件を手放す判断も早くできます。

二社の違いは営業力ではありません。案件を額で並べているかどうか、そして交渉の時期を先に決めているかどうかという、運用の設計だけです。これはあくまで構造を説明するための想定ケースですが、粗利率という一つの指標だけを見ていると、この差が見えなくなります。

単価交渉は「いつ・いくら」を先に決める

最低賃金の発効時期から逆算して単価交渉の開始日を決めることを表すイラスト

原価が見えていれば、単価交渉は感覚ではなく計算になります。ここで押さえておきたいのは、原価は毎年、決まった時期に上がるという点です。厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」では、全国加重平均が1,176円と、前年度から55円(4.9%)引き上げられる水準が示されました。発効は10月ごろです。

賃金が4.9%上がれば、法定福利費も同じ率で増えます。先ほどの1日分で言えば、賃金と法定福利費の合計19,362円が約950円増える計算です。単価を据え置けば、残っていた3,811円から約950円が消えます。率にすると、およそ25%の目減りです。

値上げ幅の根拠は、このように原価の増加額から組み立てます。「同業他社も上げているから」ではなく、「最低賃金が4.9%上がり、当社の原価は1日あたり950円増える」と説明できれば、交渉の土俵が変わります。

管理効率──社内一人当たりの稼働人数が利益率を決める

三つ目のレバーは管理効率です。残りの約16%から出ていく最大の費目は社内人件費ですから、社内の一人が何人の稼働を支えているかが、そのまま利益率に効いてきます。

同じ集計では、1事業所当たりの稼働派遣労働者数は66.3人、派遣先件数は26.0件でした。仮に営業とコーディネーターが合わせて5人であれば、一人当たり13人の稼働を支えている計算になります。この人数が増えるほど、稼働一人当たりの社内人件費は下がります。

ただし、人数を増やせば必ず効率が上がるわけではありません。帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」では、正社員が不足していると回答した企業は51.4%でした。社内人員の採用そのものが難しい環境では、担当人数を増やす前に、担当者が抱えている作業のうち何を仕組みに移せるかを先に決める必要があります。

ここで見直す対象になりやすいのは、勤怠の集計、請求書の作成、契約書類の更新案内、定期フォローの連絡といった、毎月必ず同じ形で発生する作業です。これらは一件あたりの時間は短くても、稼働人数に比例して増えていきます。稼働が30人から60人に増えたとき、営業とコーディネーターの人数も倍にしているとすれば、一人当たりの担当人数は変わっておらず、利益率も動きません。

逆に、定型作業を仕組みに寄せられれば、同じ人数で担当できる稼働人数が増えます。厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査」によれば、派遣労働者が派遣元に望むこととして「賃金制度を改善してほしい」に次いで「継続した仕事を確保してほしい」が挙がっています。担当者の時間を事務作業から次の案件の確保へ振り向けることは、利益率だけでなくスタッフの定着にも効いてきます。

今日からできる改善策

最初にやるべきは、案件単位の原価表をつくることです。時給、賃金、法定福利費、有給休暇引当をこの順に並べ、案件ごとの粗利額を出してください。率ではなく額で並べることが要点です。次に、粗利額の小さい順に案件を並べ替え、下位の一覧をつくります。切るかどうかの判断は、そのあとで構いません。

そのうえで、単価改定の交渉時期を10月から逆算して決めます。発効の直前に持ち出すと、相手も予算を動かせません。遅くとも夏の時点で「10月以降はこの水準になります」と伝えておくほうが、話は通りやすくなります。労働需給そのものは緩みつつあり、有効求人倍率は令和7年度平均で1.20倍と前年度から0.05ポイント低下しました(厚生労働省「一般職業紹介状況」)。交渉の環境は年ごとに変わるため、前年と同じ理屈がそのまま通るとは限りません。原価の増加額という、自社で説明できる根拠を持っておくことが重要です。

三つ目に、社内の一人当たり担当人数を出します。営業とコーディネーターの合計人数で稼働人数を割るだけの計算ですが、この数字を四半期ごとに記録している会社は多くありません。前の四半期より下がっていれば、稼働は増えても利益率は改善していない可能性があります。数字が動かないときは、担当者がどの作業に時間を使っているかを1週間だけ記録してみると、仕組みに移せる作業が見えてきます。

この三つは、どれも今週中に着手できます。原価表は主要な5案件から始めれば十分です。全案件を一度に整理しようとすると、作業そのものが止まります。

今日から実践するためのチェックリスト

・主要な案件について、時給・賃金・法定福利費・有給休暇引当を並べた原価表を作成した

・案件を粗利率ではなく粗利額の順に並べ替えた

・粗利額が下位の案件を一覧化し、管理工数と照らして継続可否を検討した

・自社の法定福利費率を、加入している健康保険と労災の業種区分に合わせて算出した

・有給休暇の付与実績から、引当が原価の何%に当たるかを確認した

・最低賃金の発効時期から逆算し、単価改定の交渉開始日を決めた

・社内の営業・コーディネーター一人当たりの担当稼働人数を算出した

・残りの約16%の使途を、募集費・社内人件費・拠点費に分けて把握した

まとめ

利益率は、値上げだけで動くものではありません。動くのは、原価が見えているか、案件を額で選べているか、社内一人当たりの担当人数を増やせているか、この三つです。順番を間違えると、値上げ交渉の根拠も、案件を切る判断も、どちらも曖昧なまま進んでしまいます。

まずは主要な案件について、時給・賃金・法定福利費・有給休暇引当を並べた一枚をつくってください。そこに書かれた粗利額が、自社の利益率の出発点になります。36%ではなく16%から考え始めると、打ち手の優先順位は自然に決まります。売上規模の拡大と利益率の両立を考える段階にある場合は「売上10億円を目指す派遣会社の経営戦略とロードマップ」もあわせてご覧ください。

確認クイズ(FAQ)

Q1. 派遣料金と賃金の差である36.3%を、そのまま粗利率として扱ってはいけないのはなぜですか?
A. 派遣料金に消費税が含まれ、さらに法定福利費と有給休暇の原資が差し引かれるから
B. 派遣料金の統計が事業所ごとの申告値だから
C. 賃金には交通費が含まれていないから

正解:A 解説:「なぜ利益が残らないのか」の章のとおり、消費税を割り戻し、賃金の15.7%にあたる法定福利費と有給休暇引当を差し引くと、残るのは税抜料金の約16%です(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和6年度と令和8年度の料率による試算)。

Q2. 粗利率30.0%のA案件と粗利率25.0%のB案件があり、1時間当たりの粗利額はAが600円、Bが800円です。担当できる人数に上限がある場合、どちらを優先して残すべきですか?
A. 粗利率が高いA案件
B. 粗利額が大きいB案件
C. 派遣料金が安く受注しやすいA案件

正解:B 解説:「見落とされている論点」の章で述べたとおり、フォローや請求などの管理工数は単価に比例しません。担当できる人数が同じなら、粗利額の大きい案件を残したほうが会社に残る金額は大きくなります。

Q3. 最低賃金の引き上げに合わせて単価を据え置いた場合、何が起きますか?
A. 粗利率は変わらず、売上だけが増える
B. 賃金と法定福利費が同じ率で増え、残りの原資が目減りする
C. 法定福利費は定額のため影響を受けない

正解:B 解説:「単価交渉は『いつ・いくら』を先に決める」の章のとおり、法定福利費は賃金に料率を掛けて算出されるため、賃金の上昇率がそのまま原価の上昇につながります。令和8年度の目安は全国加重平均1,176円(前年度比+55円、4.9%)です。

ハケンバンクについて

案件ポートフォリオを入れ替えようとしても、粗利額の大きい案件が手元にないままでは判断ができません。求人開拓を自社だけで進めることが難しい場合は、外部の仕組みを活用する選択肢もあります。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。

参考文献

・厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

・全国健康保険協会「令和8年度の協会けんぽの保険料率」(2026年)

・厚生労働省「令和8年度雇用保険料率のご案内」(2026年)

・厚生労働省「令和8年度の労災保険率について」(2026年)

・日本年金機構「厚生年金保険料額表」(令和8年度)

・厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申)

・厚生労働省「一般職業紹介状況」(2026年)

・株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月19日公表)

この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム

ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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