派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧

経営・事業戦略

2026/9/7

派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧

月次の会議で、売上と稼働人数だけを確認して終わっていないでしょうか。どちらも大事な数字ですが、どちらも「すでに起きたこと」です。これだけでは、来月以降に何が起きるかは分かりません。

この記事では、派遣会社の経営者が毎月確認すべき指標を12個に絞り、先行・遅行・組織の三つに分けて整理します。あわせて、同じ数字でも単位を混ぜると判断を誤る理由と、会社合計を支店別・担当者別に分解する手順までを扱います。

目次

結論:毎月見るべき指標は12個、順番は「先行指標が先」

毎月確認する指標は、多くても12個で足ります。重要なのは数ではなく見る順番です。売上や粗利といった結果の数字より先に、新規オーダー数や充足率といった先行指標を見る。それだけで、月次会議は報告の場から判断の場に変わります。

派遣事業では、今月の売上はすでに数か月前の営業と集客で決まっています。結果指標を先に見ると、議論はその結果の解釈に費やされ、来月以降の打ち手には届きません。先に見た数字が、その会議の議題を決めるということです。

厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」によれば、労働者派遣の実績があった1事業所当たりの年間売上高は2億9,800万円でした。稼働している派遣労働者数は66.3人です。月に直せば売上は約2,480万円、稼働は66人前後になります。この規模なら、12個の指標は十分に手で追えます。

先行指標で先を見る一方で結果指標だけが積み上がる様子の図

なぜ売上と稼働人数しか見ないのか──取りやすい数字だけが会議に上がる

理由は単純で、手間なく出せる数字だけが月次に残るからです。売上は請求データから自動で出ます。稼働人数も契約管理から拾えます。一方、新規オーダー数や充足率は、営業とコーディネーターがそれぞれ持つ情報を突き合わせないと出せません。

集計に手間がかかる指標ほど、忙しい月から順に資料から落ちていきます。そして一度落ちた指標は、翌月以降も戻ってきません。結果として、残るのは自動で出る結果指標だけになります。

この構造を変えるには、集計の手間そのものを減らすしかありません。新規オーダー数なら、受注時に案件番号を採番する運用にするだけで集計できます。充足率も、オーダー単位で決定・未決定を記録すれば自動的に出ます。人手を増やすのではなく、入力の時点で集計できる形にしておくのが近道です。

求人倍率のような外部指標と自社の数字を見比べる方法は「有効求人倍率から派遣会社が読み取るべきこと」でも扱っています。

毎月確認すべき経営指標の一覧

指標は、先行・遅行・組織の三つに分けて整理してください。先行指標は来月以降の稼働を左右するもの、遅行指標は今月の結果、組織指標は生産性と拠点採算です。

12の指標と計算式

区分

指標

計算式

見る理由

先行

新規オーダー数

当月に受注した求人数

2〜3か月後の稼働の源泉

先行

充足率

就業決定数 ÷ オーダー数

案件を売上に変える力

先行

応募から初回連絡までの時間

応募受付から一次接触までの平均

登録率・就業率に直結する

先行

60日以内の契約終了予定人数

終了予定日ベースの人数

来月以降に減る稼働

先行

登録者の稼働化率

稼働人数 ÷ 登録者数

広告費に依存しない体力

遅行

稼働人数(期首・増・減・期末)

残高ではなく増減で把握

事業規模そのもの

遅行

平均派遣単価

売上 ÷ 稼働人月

値上げ・値下げの実態

遅行

一人当たり月間粗利

粗利 ÷ 平均稼働人数

採算の実力値

遅行

上位5社の売上構成比

上位5社売上 ÷ 総売上

取引先の集中リスク

組織

営業一人当たり粗利

粗利 ÷ 営業担当者数

営業生産性

組織

支店別営業利益

支店粗利 − 支店固定費

拠点ごとの採算

組織

契約更新率

更新件数 ÷ 更新対象件数

定着とフォローの質

先行指標は何を見れば「危ない」と分かるのか

先行指標は、単体で見ても判断になりません。組み合わせて初めて意味が出ます。

新規オーダー数と充足率は、必ず掛け算で見てください。オーダーが20件あっても充足率が3割なら、決定は6件です。前月より受注が増えていても、充足率が落ちていれば稼働は増えません。月次資料には、オーダー数・充足率・決定数の三つを並べて載せます。

60日以内の契約終了予定人数は、同じ期間の決定見込み数と並べます。終了予定が12人で決定見込みが8人なら、稼働は4人減ります。これが分かるのは、売上に数字が出る2か月前です。先行指標を置く価値は、この時間差にあります。

応募から初回連絡までの時間は、平均値ではなく「24時間以内に連絡できた割合」で見てください。平均は、少数の大幅な遅れに引きずられます。割合で見れば、何件が放置されたのかがそのまま分かります。

充足率が下がりやすい局面かどうかも、外部の数字で確認できます。帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」では、「人材派遣・紹介」業種で非正社員が不足すると回答した企業が60.0%にのぼりました。人が集まりにくい時期は、オーダーを増やすより充足率を上げるほうが効きます。

単価と粗利を見るときの注意

単価と粗利の扱いには注意が要ります。同じ集計で、派遣料金(8時間換算)の平均は26,257円、派遣労働者の賃金は16,735円でした。差額は9,522円です。

ただし、この差額がそのまま手元に残るわけではありません。社会保険料の事業主負担、有給休暇中の賃金、内勤者の人件費が、ここから引かれていきます。厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」によれば、年次有給休暇の取得率は66.9%と過去最高になりました。取得が進むほど、売上の立たない日の賃金は増えます。

そのため、月次で見るべきは粗利率ではなく一人当たり月間粗利の実額です。率で見ると、単価の高い案件と管理工数の重い案件の違いが消えてしまいます。原価の内訳そのものは「派遣会社の利益率を改善する方法と見直すポイント」で、派遣料金1日分を分解して解説しています。

件数・人数・金額を同じ基準で比べようとして混乱する様子の図

見落とされている論点──件数・人数・金額を混ぜると判断を誤る

月次資料で最も多い失敗は、単位の違う数字を同じ表に並べてしまうことです。派遣先件数、契約件数、稼働人数、稼働人月、売上は、それぞれ動き方が異なります。

同じ集計で派遣契約の期間を見ると、1日以下が25.7%、1月超2月以下が20.9%、2月超3月以下が28.4%でした。3か月以内の契約が85.7%を占めます。ただしこれは件数ベースです。単発案件を一人が月に何件も担当すれば、件数は跳ね上がりますが稼働人月はほとんど変わりません。

稼働人数も同じです。月末の残高だけを見ていると、20人が終了して20人が決まった月と、何も動かなかった月が同じ数字に見えてしまいます。期首・増加・減少・期末の四つに分けて並べるだけで、事業の動きが見えるようになります。

想定ケース|稼働人数が同じでも中身が違う二つの月

たとえば、稼働70人の会社の4月と5月を比べてみます。どちらも月末の稼働人数は70人でした。

4月は期首70人、増加2人、減少2人、期末70人。入れ替わりはほとんどなく、既存の就業先が安定して続いています。コーディネーターの工数は、既存スタッフのフォローに使えます。

5月は期首70人、増加18人、減少18人、期末70人。3か月契約の終了が重なり、その穴を新規決定で埋めました。月末残高は同じですが、18人分の面談・契約・初日対応がまるごと発生しています。募集費も18人分です。

月末残高だけを見る月次資料では、この二つは同じ「70人」です。期首・増加・減少・期末の四行があれば、5月に何が起きたのかがその場で分かります。これは構造を説明するための想定ケースですが、残高だけを追うと、現場の負荷は数字に表れません。

会社合計の数字を支店別に分解して採算の弱い拠点を見つける図

会社合計のままでは使えない──支店別・担当者別に分解する

指標は、会社合計のままでは意思決定に使えません。支店別、担当者別、派遣先別に分解して初めて、どこを直すべきかが決まります。

売上高ランク別に見ると、労働者派遣事業の売上が5億円未満の事業所は全体の86.8%を占めます。多くの会社は少数の拠点で運営しており、支店を一つ増やすだけで固定費の水準が変わります。だからこそ、拠点ごとの採算は会社合計とは別に把握しておく必要があります。

分解すると何が見えるのかを、数字で示します。会社合計の一人当たり月間粗利が8万円だったとします。これだけでは打ち手は決まりません。支店別に割ると、A支店が10万円、B支店が6万円ということが分かります。

ここでB支店の固定費が月150万円なら、採算が合う稼働人数は25人です。いまの稼働が18人なら、B支店は赤字で運営していることになります。会社全体では黒字でも、拠点単位では持ち出しが続いている。この状態は、会社合計の資料からは絶対に見えません。

担当者別でも同じことが起きます。粗利の総額が大きい担当者が、実は件数の多い低単価案件を大量に抱えているだけ、ということがあります。担当者別の一人当たり月間粗利と担当稼働人数を並べれば、その偏りはすぐに分かります。

よくある月次報告と、使える月次報告

項目

よくある月次報告

意思決定に使える月次報告

稼働人数

月末残高のみ

期首・増加・減少・期末の4行

粗利

会社合計のみ

支店別・担当者別・派遣先別

単価

報告されない

稼働人月で割った平均単価と前月差

営業活動

訪問件数・架電件数

新規オーダー数と充足率

集客

応募数

応募・連絡・登録・就業の各段階

先の見通し

受注見込み額

60日以内の契約終了予定人数

新規開拓と既存深耕のどちらに営業資源を割くかという判断も、担当者別に分解して初めて根拠を持てます。この論点は「派遣営業は新規開拓と既存深耕どちらを優先すべきか」で扱っています。

会議でどの順に並べるか

指標がそろっても、資料の並び順が結果指標から始まっていると、議論は結局そこで止まります。会議の進行順そのものを、先行指標から始まる形に組み替えてください。

順番

見るもの

その場で決めること

1

60日以内の契約終了予定人数

いつまでに何人を決めるか

2

新規オーダー数と充足率

受注を増やすか、決定率を上げるか

3

応募から初回連絡までの時間

連絡体制を変えるかどうか

4

稼働人数の4行と一人当たり粗利

採算の下限を見直すか

5

支店別営業利益と契約更新率

拠点と担当の配置を変えるか

この順番にすると、会議の前半で来月以降の行動が決まります。売上と粗利は4番目に出てきますが、そこまでに決めた打ち手の前提として読むことになるため、議論の性質が変わります。

今日からできる改善策

最初にやることは、指標を増やすことではありません。いま出ている数字の単位と時点を揃えることです。売上は請求月、稼働人数は月末時点、オーダー数は受注日と、基準がばらばらのまま並べても前月と比較できません。各指標の基準日を資料の欄外に明記するところから始めてください。

次に、稼働人数を期首・増加・減少・期末の四行に分けます。既存の契約管理データから作れるはずで、新しい入力は要りません。この四行があるだけで、翌月の議論の質は変わります。

三つ目に、契約更新率を集計します。更新対象になった契約のうち何件が更新されたのか。この数字は、スタッフの定着とフォローの質をそのまま映します。就業直後の離脱を防ぐ具体策は「就業初日に派遣スタッフが辞めないための準備」にまとめました。

四つ目に、一人当たり月間粗利を支店別・担当者別に出します。会社合計では見えない偏りが、ここで必ず出てきます。売上が伸びているのに利益が残らない状態の見分け方は「派遣会社で売上が伸びても利益が残らない理由と対策」で解説しています。

五つ目に、ここまでの指標を一枚の資料にまとめ、毎月同じ並びで出します。項目を増やすことよりも、同じ形で続けることのほうが効きます。並びが固定されていれば、前月との差が目に入るようになるからです。逆に毎月レイアウトが変わる資料では、差分を読むこと自体に時間を取られます。

なお、固定費側の前提も毎月は動きませんが、年に一度は見直しが必要です。厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」では、全国加重平均が1,176円と前年度から55円引き上げられる水準が示されました。内勤者の人件費も据え置けないため、採算の下限は毎年上がっていきます。

今日から実践するためのチェックリスト

・月次資料の各指標について、集計の基準日を明文化した

・稼働人数を「期首・増加・減少・期末」の4行に分けて記載した

・新規オーダー数と充足率を、職種別に直近3か月分そろえた

・応募から初回連絡までの平均時間を計測し、前月と比較した

・60日以内に契約が終了する人数を、派遣先別に一覧化した

・一人当たり月間粗利を、支店別・担当者別に算出した

・更新対象件数と更新件数を集計し、契約更新率を出した

・上位5社の売上構成比を算出し、集中度の推移を確認した

・月次会議の進行順を、先行指標から始まる並びに変えた

まとめ

毎月の会議で見るべきなのは、増えた数字ではなく、増える前の数字です。新規オーダー数、充足率、初回連絡の速さ、終了予定人数、登録者の稼働化率。この五つが先に動き、売上と粗利は後からついてきます。

まずは今月の月次資料に、期首稼働・増加・減少・期末稼働の四行を足すところから始めてください。指標を12個に増やすのは、その次で構いません。四行あるだけで、翌月の議論の質は変わります。

確認クイズ(FAQ)

Q1. 派遣会社の月次資料から、新規オーダー数や充足率が抜け落ちやすいのはなぜですか?
A. 経営判断に必要のない指標だから
B. 請求データのように自動では出ず、営業とコーディネーターの情報を突き合わせる手間がかかるから
C. 公的統計に定義がなく、他社と比較できないから

正解:B 解説:「なぜ売上と稼働人数しか見ないのか」の章のとおり、集計に手間がかかる指標ほど忙しい月から資料に載らなくなり、結果として自動で出る結果指標だけが会議に残ります。

Q2. 月末の稼働人数が前月と同じだった場合、まず何を確認すべきですか?
A. 変動がないため確認は不要
B. 期首・増加・減少・期末に分解し、入れ替わりが起きていないかを見る
C. 翌月の受注見込み額だけを確認する

正解:B 解説:「見落とされている論点」の章と想定ケースのとおり、残高が同じでも18人が終了して18人が決まっている場合があり、増減に分けなければ現場の負荷は数字に表れません。

Q3. 月次で採算を見るとき、粗利率ではなく一人当たり月間粗利の実額を使うのはなぜですか?
A. 率のほうが計算に手間がかかるから
B. 率では、単価の高い案件と管理工数の重い案件の違いが消えてしまうから
C. 公的統計が実額でしか公表されていないから

正解:B 解説:「単価と粗利を見るときの注意」で述べたとおり、差額9,522円から社会保険料の事業主負担や有給休暇中の賃金が引かれるため、率だけでは手元に残る金額の差が見えません。

ハケンバンクについて

先行指標を整えていくと、最終的に新規オーダー数という入口の数字が制約になっていることが見えてきます。自社の営業だけで必要なオーダー数を積み上げることが難しい場合は、外部の仕組みを併用する選択肢もあります。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。

参考文献

・厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

・厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和5年度)

・厚生労働省「令和7年就労条件総合調査結果の概況」(2026年)

・厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申)

・株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月19日公表)

この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム

ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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