なぜ中小派遣会社は今も選ばれ続けるのか?その理由を考察

業界コラム

2026/7/13

なぜ中小派遣会社は今も選ばれ続けるのか?その理由を考察

大手に勝てないのではないか。中小の派遣会社で、この不安を持たない経営者は少ないはずです。

ただ、公表されている統計を並べると、別の景色が見えてきます。この記事では、業界の規模構成と需要の単位を数字で確認したうえで、中小が選ばれている理由を分解します。

結論:選ばれているのは規模ではなく、需要の単位が小さいから

派遣の需要は、一度に数百人を動かす形ではありません。実績のある1事業所あたりの派遣先は26.0件、稼働している派遣労働者は66.3人です。

割り算すると、派遣先1件に出している人数は2.55人になります。つまり需要の大半は「数人」の単位で発生しています。

この単位の仕事に対して、規模の優位はそのまま効きません。中小が選ばれているというより、需要の形と中小の規模が噛み合っている、と見るほうが実態に近いでしょう。

ただし、噛み合っているのは規模だけです。何を扱うかを決めていない会社は、同じ構造の中でも利益が残りません。以下では、規模の話と職種の話を分けて見ていきます。

一つの大きな立方体と、多数の小さな立方体の群れを見比べる担当者のイラスト

まず、業界そのものが中小の集合体であることを確認する

厚生労働省の令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果には、売上高ランク別の事業所数が載っています。

売上高ランク

事業所数

構成比

10億円以上

1,985所

6.0%

5億円〜10億円

2,389所

7.2%

1億円〜5億円

9,669所

29.1%

1億円未満(3区分の合計)

19,164所

57.7%

10億円以上はわずか6.0%です。1億円未満が57.7%を占めています。

業界の姿は、少数の大手と多数の中小ではなく、そもそも中小の集合体です。この前提を置かずに「大手と戦う」と考えると、打ち手を誤ります。

需要の単位は「数人」で発生している

需要側の数字も見ておきます。厚生労働省の令和4年派遣労働者実態調査では、派遣労働者を受け入れている事業所の規模別分布が集計されています。

指標

数値

意味

派遣先1件あたりの稼働人数

2.55人

66.3人÷26.0件

派遣労働者1〜4人の事業所

51.6%

受入側の過半が小口

1日以下の派遣契約

25.7%

短期の出入りが多い

3か月以内の派遣契約

85.7%

更新が繰り返される

受け入れ側の過半数は、派遣労働者が1〜4人の事業所です。数人を速く出せるかどうかが勝負になります。

この構造では、全国の拠点数より、その地域で明日動ける人がいるかどうかが効きます。地域に寄せる戦い方は地域密着型の派遣会社が生き残る経営戦略に整理しました。

求人企業が派遣に求めているのはスピード

選ばれる理由を推測で語る必要はありません。同じ実態調査で、派遣を利用する理由が集計されています。

派遣を利用する理由

割合

欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため

76.5%

一時的・季節的な業務量の変動に対処するため

37.2%

軽作業等の簡易な業務に対応するため

30.9%

1位は迅速な確保で76.5%でした。知名度でも拠点数でもありません。

意思決定の段数が少ない会社ほど、この評価軸では有利になります。中小の優位があるとすれば、まずここです。

左から右へ厚みが薄くなっていく6枚のコインに手を置く担当者のイラスト

職種を変えると、1人1日の差額は2.57倍変わる

ここが実務でいちばん効く数字です。同じ集計には、職種別の派遣料金と賃金が載っています。差額が派遣会社の粗利にあたります。

職種

派遣料金

賃金

差額

情報処理・通信技術者

34,382円

21,032円

13,350円

建築・土木・測量技術者

34,168円

21,429円

12,739円

製造技術者

28,518円

17,724円

10,794円

全業務平均

26,257円

16,735円

9,522円

一般事務従事者

18,112円

12,231円

5,881円

介護サービス職業従事者

16,282円

11,093円

5,189円

情報処理・通信技術者の13,350円と、介護サービスの5,189円では2.57倍の差があります。1人1日あたりの金額です。

稼働22.3人で年171日と置くと、前者は年約4,858万円、後者は年約1,979万円の粗利になります。差は約2,880万円です。これは試算ですが、職種選択が規模より効くことを示しています。

どこまで絞るかの考え方は派遣会社は専門特化と総合型どちらを目指すべきかで扱っています。

ただし、差額が大きい職種ほど人は採りにくい

差額の大きい職種に寄せればいい、という単純な話でもありません。厚生労働省の一般職業紹介状況(令和8年7月)の有効求人倍率を見てください。

職業分類

有効求人倍率

読み方

建設躯体工事

7.94倍

受注は容易、充足が壁

介護サービス

3.82倍

需要は安定、差額は小さい

生産工程

1.59倍

差額と充足の均衡点

一般事務

0.29倍

人は集まる、差額が薄い

差額が大きい職種は、たいてい採用も難しくなっています。だからこそ、地域で人を押さえている会社に価値が生まれます。

大手が広告費で取りに行ける領域と、関係性で取る領域は別だということです。考え方は中小派遣会社が大手に勝つための戦略|規模ではなく「選択と集中」で勝つにまとめています。

一人に寄り添う担当者と、大勢に背を向けている担当者を並べたイラスト

見落とされがちな論点:担当者の42.2%は「何もしていない」と見られている

選ばれ続ける理由として語られがちな「信頼」も、数字で裏が取れます。

日本人材派遣協会の2025年度 派遣社員WEBアンケート調査では、営業担当者とのコミュニケーションについて「満足」が47.2%、「不満」が21.2%でした。

さらに、営業担当者が自分に対して「何もしていない」と答えた派遣社員が42.2%います。4割が、担当者の存在を感じていないことになります。

裏を返せば、接触の頻度を上げるだけで差がつく余地が大きいということです。フォローの設計は派遣スタッフの就業後フォローは何回行うべきかが参考になります。

契約の85.7%は3か月以内に終わる

派遣契約の期間を見ると、1日以下が25.7%、3か月以内が合計85.7%です。受注はゴールではなく、3か月後にもう一度判断される起点になります。

つまり年に何度も比較の機会が来ます。価格で並んだとき、最後に効くのは稼働中の対応です。

この構造は中小に不利ではありません。担当者1人が見る人数が少ないほど、接触頻度は上げやすくなります。

逆に言えば、1人あたりの担当人数を増やしすぎると、この優位は消えます。拡大のタイミングで最初に落ちるのが、この接触頻度です。

1社の重みは、規模によって10倍違う

ここも試算です。平均像から、売上規模ごとの派遣先件数を逆算してみます。

年間売上

派遣先件数(試算)

1件が占める割合

1億円

約8.7件

約11.5%

2億9,800万円(平均)

26.0件

約3.8%

10億円

約87件

約1.1%

売上1億円の会社にとって、1社の取引は全体の11.5%です。10億円の事業所では1.1%にすぎません。同じ1社を失っても、影響は10倍違います。

これは弱点であると同時に、既存先に手をかける合理的な理由でもあります。1社あたりに割ける時間が違うからです。

もう一つ押さえておきたいのが雇用形態の動きです。令和7年6月1日現在、無期雇用派遣労働者は前年比7.0%増、有期雇用は3.5%増でした。無期の伸びが2倍です。

無期雇用は派遣会社が自社で雇い続ける形ですから、案件が切れても人件費は出ていきます。小さい会社ほど、無期化を進める前に安定した出し先を押さえておく必要があります。

想定ケースで見る、2社の違い

同じ地域で、どちらも売上1億円、稼働22.3人の2社を想定します。

A社は職種を絞らず、一般事務を中心に受けています。差額5,881円で計算すると、年間の粗利は約2,243万円です。応募は集まりますが、単価は上げにくい状態です。

B社は建築・土木の技術者に寄せています。差額12,739円なら年間約4,858万円です。ただし建設躯体工事の有効求人倍率は7.94倍で、充足できなければこの数字は絵に描いた餅になります。

差は約2,615万円ですが、前提は「同じ人数を稼働させられたら」です。B社の勝負どころは営業ではなく、その地域で人を押さえられるかどうかになります。

自社の強みを一言にする手順

選ばれている理由を言語化できていない会社は少なくありません。推測で書かず、数字から組み立てる手順にします。

手順は4つです。まず、職種ごとに料金と賃金の差額を出し、粗利の大きい順に並べます。次に、募集数に対する応募数から充足率を出し、同じく順に並べます。

この2つのリストの両方に入っている職種が、自社の勝ち筋です。差額だけで選ぶと採れず、充足率だけで選ぶと利益が残りません。

最後に、その職種で依頼から就業まで何日かかっているかを出します。残るのは「どの職種を、どの地域で、何日で出せるか」という一文です。これが言えれば、価格以外の判断材料を相手に渡せます。

この一文は、営業資料の表紙に置ける長さにしてください。長い説明が必要な強みは、相手の記憶に残りません。

今日から実践するためのチェックリスト

  • 自社の派遣先件数と稼働人数を割り算し、1件あたり何人かを出す

  • 職種ごとに料金と賃金の差額を出し、全業務平均の9,522円と比べる

  • 差額上位の職種と、充足率上位の職種を並べて重なりを探す

  • 依頼から就業までの平均日数を出し、提案資料に入れる

  • 取引先1社が売上に占める割合を計算し、上位3社の比率を確認する

  • 稼働中のスタッフへの接触頻度を数え、月1回を下回っていないか見る

まとめ

派遣事業所の57.7%は売上1億円未満で、10億円以上は6.0%です。業界は中小の集合体です。

需要の単位も小さく、派遣先1件あたりは2.55人、受入側の51.6%は派遣労働者1〜4人の事業所でした。利用理由の1位は迅速な確保で76.5%です。

そのうえで効くのが職種の選択です。1人1日の差額は、情報処理・通信技術者の13,350円から介護サービスの5,189円まで2.57倍の幅があります。ただし差額の大きい職種ほど採用は難しくなります。

規模ではなく、どの職種をどの地域で何日で出せるか。そこに答えを持っている会社が選ばれ続けています。営業の進め方は派遣会社の新規案件を獲得する営業手法10選【実践ガイド】に整理しました。

確認クイズ(FAQ)

Q1. 派遣事業所のうち、年間売上1億円未満の割合はどれくらいでしょうか。

A. 約28%
B. 約58%
C. 約78%

正解:B

解説:57.7%です。10億円以上はわずか6.0%にとどまります。

Q2. 1人1日あたりの差額(派遣料金−賃金)が最も大きい職種はどれでしょうか。

A. 情報処理・通信技術者
B. 一般事務従事者
C. 介護サービス職業従事者

正解:A

解説:13,350円です。介護サービスの5,189円とは2.57倍の差があります。

Q3. 営業担当者が「何もしていない」と答えた派遣社員の割合はどれくらいでしょうか。

A. 12.2%
B. 24.2%
C. 42.2%

正解:C

解説:42.2%です。コミュニケーションに「満足」は47.2%、「不満」は21.2%でした。

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参考文献

・厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

・厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査の概況」(2024年2月公表、事業所調査)

・厚生労働省「一般職業紹介状況」(職業安定業務統計)

・一般社団法人日本人材派遣協会「2025年度 派遣社員WEBアンケート調査結果」(2025年12月公表)

・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)/e-Gov法令検索

この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム

ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
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