
市場動向
人口が減れば人手不足になり、派遣の出番が増える。そう説明されることがあります。しかし公的統計を並べると、話はそれほど単純ではありません。
この記事では、人口減少が派遣会社の損益にどう効いてくるのかを三つの経路に分けて整理します。地域別の偏り、追い風にできる会社との違い、見る指標の入れ替えまでを扱います。
目次
人口減少は、市場のパイを広げながら、それを取りに行く原資である「人」を同時に減らします。追い風か逆風かを決めるのは市場ではなく、自社の供給力です。
令和6年度の労働者派遣事業の年間売上高は9兆9,005億円で、前年度比9.4%増となりました。派遣先件数も約86万件(同7.9%増)へと伸びています(厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」2026年)。市場は明らかに拡大しています。
一方、同じ集計の登録者数は752万8,323人で、前年度の771万857人から減少しました。1事業所あたりでは242.4人から226.7人へと約16人減っています。需要は増え、供給は減る。この非対称性が人口減少の本質です。
業界は、案件は取れても人を出せない会社と、人がいるから案件を選べる会社に分かれます。市場全体の推移は「【2026年最新】人材派遣市場の規模と今後10年の成長予測を徹底分析」も併せて確認してください。

人手不足が案件増に直結しないのは、人口減少が労働供給と国内需要を同時に縮小させるからです。
令和8年6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍でした(厚生労働省「一般職業紹介状況」2026年6月分)。人口が減り続けているにもかかわらず、有効求人倍率は1.2倍前後で横ばいです。
人が減れば、働き手が減ると同時に消費する人も減るためです。小売や飲食では、人手が足りない一方で店舗数や営業時間を縮小する動きも起きています。求人が増える経路と、事業縮小で求人が消える経路が同時に走っているのです。
この点は「「人材不足」は派遣会社にとって本当に追い風なのか」でも扱っています。なお有効求人倍率そのものの読み方には注意が要ります。統計の性質は「有効求人倍率だけで派遣市場を読めない理由と正しい指標の見方」に整理しました。
2026年2月時点の15〜64歳人口は7,342万7千人で、前年同月比の減少は21万人を下回りました。ところが日本人人口は88万8千人減、外国人人口は389万6千人と12.14%増です(総務省統計局「人口推計」2026年)。
生産年齢人口の減少が緩やかに見えるのは、外国人材の流入が下支えしているからです。外国人労働者数も257万1,037人と過去最多です(厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ」令和7年10月末時点)。
つまり、外国人材を扱えない派遣会社は労働供給の増加分にアクセスできません。日本人登録者だけを母集団とする会社にとって、市場は統計以上の速さで縮んでいます。
とはいえ、外国人材の受け入れは「募集を広げる」だけでは始まりません。社内で先に決めておく項目があります。
一つは、どの在留資格の方を対象にするかです。在留資格によって就労できる範囲も、派遣という形態が取れるかどうかも変わります。ここは案件ごとの判断になるため、対象を広げる前に確認が必要です。
二つ目は、案件ごとの日本語要件を言葉にしておくことです。「日常会話レベル」では、受け入れる側と送り出す側で想定がずれます。朝礼の内容が理解できればよいのか、手順書を読んで作業できる必要があるのか。業務に即して書き出すと、ミスマッチは大きく減ります。
三つ目は、派遣先の受け入れ体制です。指示の出し方、安全教育、緊急時の連絡経路。これらが整っていない現場に送ると、短期で終わります。営業の段階で確認する項目に加えてください。
人口減少は「売上が減る」形では現れず、売上を伸ばしながら粗利を削る形で効いてきます。経路は3つです。
経路 | 何が起きるか | 損益への影響 | 最初に現れる兆候 |
|---|---|---|---|
①供給の枯渇 | 登録者が減り、提案できる人材がいない | 受注しても稼働に変わらない | 案件数は増えているのに稼働人数が横ばい |
②獲得コストの上昇 | 応募単価・登録単価が上がる | 採用費が粗利を圧迫する | 就業1人あたり採用コストの上昇 |
③賃金コストの上昇 | 最低賃金が料金改定より速く上がる | 粗利率が低下する | 低単価職種の粗利率だけが落ちる |
令和6年度の派遣料金(8時間換算)は平均26,257円で前年度比3.6%増、賃金は16,735円で同3.4%増でした。一方、令和7年度の地域別最低賃金は全国加重平均1,121円で、前年度から6.3%の引き上げでした。
料金の上昇率3.6%に対し、最低賃金の上昇率は6.3%。しかもこの差は一度きりではありません。厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」では、全国加重平均1,176円・前年度比4.9%増の水準が示されました。2年続けて、最低賃金の上昇率が派遣料金の上昇率を上回っています。
料金改定は契約更新時に限られる一方、最低賃金は毎年10月に強制発効します。売上が伸びても利益が残らない会社は、この時間差で低単価案件を抱え続けています。構造の分解は「派遣会社で売上が伸びても利益が残らない理由と対策」で扱いました。

人口減少の影響は全国平均には表れていません。しかし地域ブロック別に見ると、差はすでに開いています。
地域ブロック | 令和6年度 売上高(億円) | 前年度比 | 全国シェア |
|---|---|---|---|
南関東 | 44,427 | +12.6% | 44.9% |
東海 | 15,017 | +10.1% | 15.2% |
近畿 | 15,092 | +6.7% | 15.2% |
九州 | 6,252 | +4.8% | 6.3% |
中国 | 3,123 | +2.1% | 3.2% |
四国 | 876 | ▲0.4% | 0.9% |
北海道 | 1,760 | ▲2.5% | 1.8% |
出典:厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」2026年をもとに作成。
全国が9.4%伸びる中、北海道と四国はすでに前年度を下回りました。南関東だけで全国売上の44.9%を占めます。人口減少は全国一律に効くのではなく、人が集まる地域に稼働がさらに集中する形で表れるのです。
長期の見通しも示されています。就業者数は2022年の6,724万人から、2040年には5,768万人まで減る推計です(ゼロ成長・労働参加現状のシナリオ)。出典は労働政策研究・研修機構「2023年度版 労働力需給の推計」(2024年)。地方を地盤とする会社ほど、商圏を広げるのか職種を絞るのかの判断が早く必要になります。
ここで注意したいのは、業界紙や調査レポートが示す「前年度比9.4%増」をそのまま自社の前提に置かないことです。北海道で事業をしている会社にとっての実態は▲2.5%であり、9.4%ではありません。
確認するのは二つです。自社の売上の何割がどのブロックから出ているか。そして、そのブロックの伸び率はいくつか。この二つを掛け合わせた数字が、自社にとっての市場成長率です。全国平均との差が大きいほど、立てるべき計画は変わります。

分かれ目は、営業力ではなく「供給の設計」にあります。
令和6年度の派遣契約は、2か月超3か月以下が28.4%、1か月超2か月以下が20.9%を占めます。契約が短期化しても1件あたりの営業・コーディネート工数は変わらず、稼働月数だけが短くなります。案件を増やしても粗利が積み上がらない原因です。
比較項目 | 逆風で終わる会社 | 追い風にできる会社 |
|---|---|---|
登録者の扱い | 案件が出てから募集する | 就業終了時点で次の提案を用意している |
見ている指標 | 案件数・応募数 | 稼働人数・就業1人あたり粗利 |
案件の選び方 | 依頼された順に受ける | 稼働継続月数の長い案件を優先する |
単価交渉 | 最低賃金改定後に事後交渉 | 改定を織り込んで契約更新前に交渉 |
供給の母集団 | 日本人・特定職種のみ | 外国人材・シニアを含めて設計 |
情報の持ち方 | 担当者の記憶と個人メモ | 稼働履歴とスキル情報を全社で共有 |
特に効くのは2行目です。案件数を追う会社は、人が採れない局面で失注を抱えます。人口減少下では、新規採用よりも既存稼働者の単価と稼働率を上げるほうが投資対効果は高いからです。中小規模だからこそ取れる戦い方は「中小派遣会社が大手に勝つための戦略」でも整理しています。
3行目の案件の選び方も効きます。短期案件を1件受けるのも、長期案件を1件受けるのも、契約と面談にかかる工数はほぼ同じです。稼働継続月数が3倍違えば、同じ工数から生まれる粗利も3倍変わります。
案件を選ぶ基準を持つには、過去の案件が実際に何か月続いたかを数えておく必要があります。契約上の期間ではなく、更新を含めた実績の月数です。この数字がないと、長く続く案件を見分けられません。
北海道で事業をしている同規模の二社を想定します。どちらも稼働40人、前年度の売上は1億2,000万円でした。
K社は、全国が9.4%伸びているという話を前提に、稼働を45人へ増やす計画を立てました。募集費を前年の1.3倍に増やしましたが、登録者は集まりません。期末の稼働は39人。増やした募集費はそのまま減益になりました。
L社は、自社の商圏が▲2.5%であることを先に確認しました。稼働人数は40人のまま据え置き、代わりに案件別の稼働継続月数を調べています。短期案件を2件外し、長期案件に人を振り替えました。稼働人数は同じでも、年間の稼働延べ月数は増えています。
違いはどの数字を自社の前提に置いたかです。これは構造を説明するための想定ケースですが、全国平均を前提にした計画は、縮む商圏では達成できません。
着手すべきは新しい施策ではなく「見る数字の入れ替え」です。案件数と応募数を主指標にする限り、判断を誤ります。
最初に確認するのは直近12か月の稼働人数です。売上が伸びても稼働人数が横ばいなら、単価上昇に支えられているだけで供給力は改善していません。
次に、就業1人あたりの採用コストと案件別の平均稼働継続月数を出せば、どの案件が粗利を生んでいるかが判別できます。応募単価ではなく就業単価で見るのが要点です。応募が集まっても就業に至らなければ、費用だけが出ていきます。
三つ目に、最低賃金帯の職種だけ粗利率を分けて計測してください。会社平均で見ていると、この層の悪化は他の職種に埋もれます。毎月見るべき指標の全体像は「派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧」にまとめました。
最後に、料金改定の交渉時期を契約更新前に設定します。最低賃金の答申は例年夏に出ます。発効は10月なので、夏のうちに交渉を始めれば改定前に間に合います。事後交渉になると、上がった賃金を自社が一度かぶることになります。
なお、ここまでの指標はすべて既存のデータから作れます。新しいシステムも、追加の入力も要りません。契約管理と請求のデータを別の切り口で集計し直すだけです。足りないのはデータではなく、集計の切り口だということが多くあります。
・直近12か月の稼働人数の推移を月次で出した
・売上増が「稼働人数の増加」と「単価上昇」のどちらによるものか分解した
・自社の売上構成比と、該当ブロックの伸び率を掛け合わせて市場成長率を出した
・就業1人あたりの採用コスト(応募単価ではなく就業単価)を算出した
・案件別の平均稼働継続月数を出し、短期案件の粗利貢献を確認した
・最低賃金改定を織り込んだ料金改定の交渉時期を、契約更新前に設定した
・最低賃金帯の職種だけ粗利率を分けて計測している
・就業終了予定者に、終了1か月前に次案件を提案する運用がある
・外国人材・シニア・短時間就業者を受け入れられる案件を営業が把握している
・稼働履歴とスキル情報が、担当者以外でも参照できる状態になっている
・商圏内の人口動態を確認し、3年後の供給前提で拠点方針を検討した
人口減少は派遣市場を縮小させるのではなく、市場の中の格差を広げます。売上高が9兆9,005億円まで伸びる一方、登録者数は減少に転じました。需要と供給に非対称に効くため、供給力を持つ会社には追い風、持たない会社には逆風となります。
まず取るべき行動は、稼働人数と就業1人あたり粗利を主指標に据え直すことです。そのうえで、最低賃金改定を織り込んだ料金交渉の前倒しに着手してください。人口減少は10年かけて進みますが、粗利の悪化は1回の改定で始まります。
Q1. 派遣市場の売上高と登録者数は、直近でそれぞれどう動きましたか?
A. どちらも増加した
B. 売上高は9兆9,005億円へ9.4%増えたが、登録者数は前年度から減少した
C. 売上高は減ったが、登録者数は増えた
正解:B 解説:「結論」の章のとおりです。登録者数は771万857人から752万8,323人へ減り、1事業所あたりでは242.4人から226.7人になりました(厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」)。
Q2. 派遣料金と最低賃金の上昇率について、記事は何を指摘していますか?
A. 派遣料金の上昇率のほうが常に高い
B. 令和6年度の料金上昇率3.6%に対し、令和7年度の最低賃金は6.3%、令和8年度の目安も4.9%と、2年続けて最低賃金が上回る
C. 両者はほぼ同じ率で推移している
正解:B 解説:「単価は上がっているが、賃金の上昇に追いついていない」の章のとおりです。料金改定は契約更新時に限られる一方、最低賃金は毎年10月に強制発効します。
Q3. 北海道を地盤とする派遣会社が事業計画を立てるとき、市場成長率として使うべき数字はどれですか?
A. 全国の前年度比9.4%
B. 自社の売上構成比と、該当ブロックの伸び率(北海道は▲2.5%)を掛け合わせた数字
C. 南関東の12.6%
正解:B 解説:「全国平均を自社の前提に使わない」の章のとおりです。全国が9.4%伸びる中、北海道▲2.5%、四国▲0.4%とすでに前年度を下回る地域があります。
供給力を高めても、案件を選べるだけの求人接点がなければ粗利は伸びません。求人開拓を自社だけで進めることが難しい場合は、外部の仕組みを活用する選択肢もあります。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。
・厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)
・厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」(2026年)
・厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」(2026年1月30日公表)
・厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」(令和7年度)
・厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申)
・総務省統計局「人口推計」(2026年2月確定値、2026年7月概算値)
・労働政策研究・研修機構「2023年度版 労働力需給の推計―労働力需給モデルによるシミュレーション―」(資料シリーズNo.284、2024年8月)
この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム
ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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