派遣会社で売上が伸びても利益が残らない理由と対策

経営・事業戦略

2026/9/8

派遣会社で売上が伸びても利益が残らない理由と対策

「前年より売上は伸びているのに、決算を見ると利益はほとんど変わらない」。派遣会社の経営者から、決算期のたびに聞かれる悩みです。経費の使いすぎを疑って費目を一つずつ見直しても、原因が見つからないことがあります。

この記事では、売上の伸びを単価・稼働人数・契約件数の三つに分解し、どの伸び方が利益を厚くするのかを公的統計から確認します。そのうえで、増えた粗利が何に吸収されるのか、来期に向けて受注前に決めておくべき三つの基準までを整理します。

目次

結論:売上の伸びを「単価・稼働人数・件数」に分解する

売上が伸びても利益が残らないとき、まず確かめるべきは前年比の大きさではなく、その伸びが何によって作られたかです。派遣会社の売上は、平均単価と稼働人数と契約件数の三つで動きます。そして、このうち利益を厚くするのは稼働人数の伸びだけです。

厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」を見てみます。労働者派遣の実績があった1事業所当たりの年間売上高は2億9,800万円で、前年度から4.9%増えました。一方、稼働している派遣労働者数は66.3人で、前年度の66.6人からわずかに減っています。売上は伸びたのに、事業の規模は大きくなっていないということです。

この構造が分かると、打ち手の順番も決まります。原価の内訳そのものについては「派遣会社の利益率を改善する方法と見直すポイント」で、派遣料金1日分を分解して解説しています。

売上の伸びを単価・稼働人数・契約件数の三つに分解する図

データが示す事実──直近の成長は「単価」で作られている

1事業所当たりの数字を並べると、成長の中身がはっきりします。売上が4.9%伸びた一方で、稼働人数は0.5%減りました。伸びたのは単価です。派遣料金は3.6%、賃金は3.4%上がっています。

1事業所当たりの推移(全国平均)

項目

令和5年度

令和6年度

増減

売上高

2億8,400万円

2億9,800万円

+4.9%

稼働派遣労働者数

66.6人

66.3人

▲0.5%

派遣料金(8時間換算)

25,337円

26,257円

+3.6%

派遣労働者の賃金(8時間換算)

16,190円

16,735円

+3.4%

料金と賃金の差額

9,147円

9,522円

+4.1%

出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和5年度・令和6年度)をもとに算出。

差額も4.1%増えていますから、一見すると利益も増えそうに見えます。しかし単価上昇による成長は、規模の経済が働きません。稼働人数が変わらなければ、社内の人員も拠点も減らせないからです。売上だけが名目的に増え、会社の体力は去年と同じという状態になります。

この数字には、もう一つ読み取れることがあります。派遣料金の上昇率3.6%に対して、賃金の上昇率は3.4%でした。差は0.2ポイントしかありません。値上げ分の大半は、そのまま賃金に回っているということです。人材不足を追い風と捉えてよいかは「「人材不足」は派遣会社にとって本当に追い風なのか」でも掘り下げています。

増えた粗利が三つの費用に吸収され手元に残りにくい構造の図

なぜ増えた粗利が消えるのか──三つの費用が同じ率で増える

増えた差額が手元に残らない理由は、差額と同じタイミングで増える費用が三つあるからです。法定福利費、有給休暇の負担、そして自社の人件費です。

法定福利費は賃金に料率を掛けて計算されるため、賃金が3.4%上がれば同じ率で増えます。有給休暇も同様です。厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」によれば、労働者一人平均の年次有給休暇取得日数は12.1日、取得率は66.9%と過去最高になりました。労働者派遣業が含まれる「サービス業(他に分類されないもの)」では取得日数11.4日、取得率69.7%です。

有給休暇中は派遣先に請求が立ちません。それでも賃金は支払います。取得率が上がることは働き方として望ましい一方で、派遣会社の損益計算書では確実に原価の増加として現れます。この費用は賃金の上昇と連動するため、単価を上げても比率は変わりません。

そして三つ目が自社の人件費です。厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」では、全国加重平均が1,176円と前年度から55円(4.9%)引き上げられる水準が示されました。この環境では、内勤の営業やコーディネーターの給与も据え置けません。

増えた差額が吸収される流れ

増える費用

何に連動するか

単価を上げても比率が変わるか

法定福利費

賃金に料率を掛けて算出

変わらない(賃金と同率で増える)

有給休暇中の賃金

賃金と取得日数

変わらない(取得率が上がれば増える)

内勤者の人件費

最低賃金と採用市場の相場

稼働人数が増えなければ割り負ける

差額9,522円は何に消えるのか(試算)

1日分の差額9,522円が実際にどこまで残るのかを、公表値から試算してみます。社会保険料の事業主負担は、健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険を合わせて賃金のおおむね15%前後です。賃金16,735円に当てると約2,500円になります。

次に有給休暇です。サービス業(他に分類されないもの)の取得日数11.4日を、年間の稼働日数240日で割ると4.75%。賃金に当てると約800円です。この二つだけで3,300円、差額の約35%が消えます。

残るのは約6,200円。ここから営業とコーディネーターの人件費、募集費、拠点の家賃、システム利用料を賄います。単価を上げて差額が400円増えても、残る原資は6,200円が6,600円になるだけです。稼働人数が増えていなければ、この6,600円で支える固定費の総額は去年と変わりません。

なお、ここで使った15%と4.75%はいずれも概算です。自社の保険料率と実際の取得日数を入れて計算し直すと、残る原資の水準がはっきりします。

差額が4%台で増えても、原価と固定費が同じ率で増えれば、残る利益はほとんど動きません。利益が増えるのは、差額の増加率が費用の増加率を上回ったときだけです。単価上昇だけの成長でこの条件を満たすのは、容易ではありません。

見落とされている論点──同じ「売上10%増」でも必要な人員が変わる

ここで見落とされがちなのが、売上の伸ばし方によって、必要になる社内工数がまったく違うという点です。同じ10%増でも、単価で伸ばすか、稼働人数で伸ばすか、短期案件の件数で伸ばすかで、翌年の組織のかたちが変わります。

同じ集計によると、派遣契約の期間は3か月以内が85.7%を占め、うち1日以下が25.7%です(いずれも件数ベース)。短期や単発の比率が高い業態では、売上を少し伸ばしただけで契約件数が数倍に膨らむことがあります。契約書、勤怠管理、請求処理といった業務は件数に比例して増えるため、粗利率が高くても手元に残らないという事態が起こります。

三つの伸ばし方の比較

伸ばし方

稼働人数

契約件数

増える社内工数

粗利への効き方

単価型(単価を10%上げる)

変わらない

変わらない

ほとんど増えない

増えた分がそのまま残りやすい

人数型(稼働を10%増やす)

+10%

+10%程度

フォロー・勤怠・請求が比例して増える

増えるが募集費が先に出ていく

件数型(短期・単発を積む)

ほぼ変わらない

数倍になることがある

事務作業が件数に比例して急増

粗利率が高くても残りにくい

つまり、目標を「売上10%増」とだけ置くのは、経営判断としては不十分だということです。どの型で伸ばすのかまで決めて初めて、必要な人員と募集費が見積もれます。

想定ケース|同じ成長率でも決算が分かれる二社

例えば、年商3億円で稼働70人の派遣会社を二つ想定してみましょう。どちらも翌年に売上10%増、つまり3億3,000万円を達成したとします。

E社は、既存取引先への単価交渉で伸ばしました。稼働人数は70人のまま、社内も6人のままです。一人当たりの月商は35.7万円から39.3万円へ上がりました。増えた3,000万円のうち、賃金と法定福利費の上昇に吸収された残りが、そのまま営業利益に乗ります。固定費は去年と同じなので、増えた分がほぼそのまま残る形です。

F社は、短期の単発案件を積み上げて伸ばしました。延べの稼働人数は増えましたが、契約件数は前年の2.5倍になっています。契約書の作成と請求処理が追いつかず、期の途中で事務担当を一人増やしました。年収400万円に法定福利費を加えると会社の負担は約460万円。増えた粗利のかなりの部分が、ここで相殺されます。

さらにF社では、営業一人が抱える取引先の数も増えました。一社あたりの売上は小さいのに、見積もりと条件確認の回数は変わりません。結果として、既存の大口案件へのフォローが薄くなり、翌期の更新率にも影響が出ます。件数型の負担は、増えた事務コストだけでは終わらないということです。

二社の違いは営業の努力量ではありません。どの型で伸ばすかを事前に決めていたかどうかです。これは構造を説明するための想定ケースですが、売上の数字だけを追うと、この差は決算が出るまで見えません。

人を増やす道と事務が増える道に分かれる伸ばし方の選択の図

対策──伸ばす前に「三つの基準」を決めておく

対策は、伸ばし方を選べる状態にしておくことです。そのために、受注する前の段階で三つの基準を決めてください。一人当たり月間粗利の下限、社内一人当たりが担当できる稼働人数の上限、新規稼働一人当たりに使ってよい募集費の上限です。

この三つがあれば、案件を受けるかどうかをその場で判断できます。基準がないまま受注を積むと、粗利の薄い案件と管理工数の重い案件が混ざり、期末に「忙しかったのに残らない」という結果になります。

基準の決め方にも順番があります。まず一人当たり月間粗利の下限は、直近1年の実績の中央値を起点にします。そのうえで、下限を下回る案件が何件あり、それらが社内工数の何割を使っているかを数えてください。工数の配分が売上の配分とずれているなら、下限はもう一段上げられます。

次に担当できる稼働人数の上限です。これは「何人まで見られるか」ではなく「何人までなら更新率が落ちないか」で決めます。過去に更新率が下がった時期の担当人数を見れば、自社の限界はおおよそ分かります。

三つ目の募集費の上限は、一人当たり月間粗利の何か月分までなら回収できるかで置きます。契約期間が3か月で終わる案件が多い業態なら、回収できる期間も3か月以内と見ておくのが安全です。

募集費の上限が特に重要になるのは、人材の確保が難しくなっているためです。帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」では、「人材派遣・紹介」業種で非正社員が不足すると回答した企業が60.0%にのぼりました。人数型で伸ばす判断をするなら、募集費が先に出ていくことを織り込んでおく必要があります。どの指標を毎月見るべきかは「派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧」にまとめています。

今日からできる改善策

最初にやるべきは、直近1年の売上増加額を三つに分けることです。単価の上昇による増加分、稼働人数の増加による分、契約件数の増加による分。この三つに分けるだけで、自社がどの型で伸びてきたのかが見えます。期末の残高ではなく、月次の平均で見るのが要点です。

次に、一人当たり月間粗利の下限を、実績の中央値を目安に置いてください。平均ではなく中央値にするのは、少数の高単価案件に引きずられないためです。そのうえで、社内一人当たりの担当稼働人数を数え、いまの体制で受けられる上限を確認します。

三つ目の準備として、契約件数の推移を稼働人数の推移と並べてください。稼働人数が横ばいなのに件数だけが増えているなら、すでに件数型の負担が社内にかかっています。この二つの線が離れ始めた時期が、事務の負荷が増えた時期と一致するはずです。

そのうえで、新規に一人を稼働させるまでにかかった募集費を実額で出します。媒体費だけでなく、面談にかかった人件費も含めてください。この金額を知らないまま人数型で伸ばすと、増えた粗利が募集費に消えていることに期末まで気づけません。生き残る会社と伸び悩む会社の違いについては「派遣会社は淘汰の時代へ?生き残る会社と消える会社の違い」もあわせてご覧ください。

今日から実践するためのチェックリスト

・直近1年の売上増加額を、単価・稼働人数・契約件数の三つに分解した

・稼働人数が前年から増えているかを、期末残高ではなく年間平均で確認した

・一人当たり月間粗利の中央値を算出し、受注可否の下限として設定した

・社内一人当たりが担当している稼働人数を数え、上限の目安を決めた

・新規稼働一人当たりの募集費を、媒体費と人件費を含めて算出した

・契約件数の推移を、稼働人数の推移と並べて比較した

・有給休暇の取得実績から、売上の立たない日の人件費を金額で把握した

・内勤者の人件費が前年から何%増えたかを確認した

まとめ

売上が伸びても利益が残らないのは、経費の使い方ではなく、伸びの中身の問題であることが少なくありません。単価上昇による成長は売上を押し上げますが、稼働人数が増えていなければ規模の経済は働かず、増えた粗利は原価と固定費の上昇に吸収されます。

まずは直近1年の売上増加額を、単価・稼働人数・件数の三つに分けてください。そのうえで、伸ばし方を選び、受注前の基準を決める。この順番にするだけで、来期は「忙しかったのに残らない」という結果を避けやすくなります。売上規模そのものを引き上げる段階にある場合は「売上10億円を目指す派遣会社の経営戦略とロードマップ」も参考になります。

確認クイズ(FAQ)

Q1. 直近の派遣業界では、1事業所当たりの売上高と稼働人数はそれぞれどう動きましたか?
A. 売上高も稼働人数もともに増加した
B. 売上高は4.9%増えたが、稼働人数はわずかに減った
C. 売上高は減ったが、稼働人数は増えた

正解:B 解説:「データが示す事実」の章のとおり、1事業所当たりの売上高は2億8,400万円から2億9,800万円へ4.9%増えた一方、稼働派遣労働者数は66.6人から66.3人へ減っています(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和5年度・令和6年度)。

Q2. 賃金が上がったとき、派遣会社で同じ率で増える費用はどれですか?
A. 拠点の家賃とシステム利用料
B. 法定福利費と有給休暇の負担
C. 派遣先への請求事務にかかる外注費

正解:B 解説:「なぜ増えた粗利が消えるのか」の章で述べたとおり、法定福利費は賃金に料率を掛けて計算され、有給休暇中の賃金も同じ率で増えます。年次有給休暇の取得率は66.9%と過去最高です(厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」)。

Q3. 来期に「売上10%増」を目指すとき、目標の置き方として適切なのはどれですか?
A. 売上10%増とだけ決め、達成手段は現場に任せる
B. 単価・稼働人数・契約件数のどれで伸ばすかまで決めてから、必要な人員と募集費を見積もる
C. 契約件数を最優先で増やし、単価は据え置く

正解:B 解説:「見落とされている論点」の章のとおり、伸ばし方によって増える社内工数がまったく異なるため、型を決めなければ必要な人員も募集費も見積もれません。想定ケースのE社とF社の違いも、この判断の有無から生まれています。

ハケンバンクについて

人数型で伸ばすと決めたとき、次に必要になるのは受け皿となる案件です。求人開拓を自社だけで進めることが難しい場合は、外部の仕組みを活用する選択肢もあります。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。

参考文献

・厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

・厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和5年度)

・厚生労働省「令和7年就労条件総合調査結果の概況」(2026年)

・厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申)

・株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月19日公表)

この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム

ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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