中小派遣会社が大手に勝つための戦略|規模ではなく「選択と集中」で勝つ

経営・事業戦略

2026/7/20

中小派遣会社が大手に勝つための戦略|規模ではなく「選択と集中」で勝つ

大手は案件も登録者も多い。同じ土俵で戦えば勝ち目は薄い。中小の経営者からよく聞く話です。

この記事では、派遣会社の粗利を3つの要素に分解したうえで、中小が動かせるのはどれかを数字で特定します。そのうえで、絞り込みの判断材料を並べます。

結論:勝ち方は3つしかない。中小が取れるのは2つ

派遣会社の粗利は、次の掛け算で決まります。稼働人数、1人1日あたりの差額、年間の稼働日数です。

このうち稼働人数は、広告費と知名度が効く領域です。資本力で押されるため、中小が正面から取りに行くと消耗します。

残る2つ、差額と稼働日数は、広告費では動きません。扱う職種と、就業後の関わり方で決まります。中小が勝負すべきはここです。

3本のレバーのうち、手前の2本だけを握っている担当者のイラスト

まず、粗利の構造を分解する

令和6年度の集計では、実績のある1事業所あたりの稼働は66.3人、派遣料金は26,257円、賃金は16,735円でした。差額は9,522円です。

要素

中身

主に効くもの

稼働人数

何人出せているか

広告費・知名度

差額

料金−賃金

職種の選択・料金交渉

年間稼働日数

1人が何日働くか

定着・更新

出典は厚生労働省の令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果です。

どれを10%上げても、粗利の増え方は同じになります。違うのは、そこに至るまでのコストです。

同じ10%でも、かかるコストが違う

ここからは試算です。売上1億円、稼働22.3人、年171日の会社を想定します。現在の粗利は約3,635万円です。

上げる要素

10%上げた後

粗利の増加

必要なコスト

稼働人数

24.5人

約364万円

採用広告費・面談工数

差額

10,474円

約364万円

交渉の手間のみ

年間稼働日数

188日

約364万円

フォローの工数

増える粗利はどれも約364万円で同じです。しかし稼働人数を増やすには、採用費が先に出ていきます。

差額を上げるのは交渉だけ、稼働日数を伸ばすのは既存スタッフへの関わり方だけです。どちらも現金の持ち出しがほとんどありません。

経営資源が限られている会社ほど、下の2つから着手するほうが合理的です。

厚みの違う2枚のコインに手を置いて比べている担当者のイラスト

レバー1:職種を変えると、差額は1.84倍になる

差額は職種で大きく変わります。同じ集計から職種別に取り出すと、こうなります。

職種

派遣料金

賃金

差額

情報処理・通信技術者

34,382円

21,032円

13,350円

建築・土木・測量技術者

34,168円

21,429円

12,739円

製造技術者

28,518円

17,724円

10,794円

全業務平均

26,257円

16,735円

9,522円

一般事務従事者

18,112円

12,231円

5,881円

介護サービス職業従事者

16,282円

11,093円

5,189円

一般事務の5,881円に対し、製造技術者は10,794円で1.84倍です。同じ22.3人、同じ171日でも、粗利は約2,245万円と約4,121万円になります。

差は約1,876万円です。人数を1人も増やさずに、これだけ動きます。これが選択と集中の金額的な意味です。

どこまで絞るかの考え方は派遣会社は専門特化と総合型どちらを目指すべきかに整理しました。

ただし、差額が大きい職種ほど採用は難しい

差額だけで選ぶと、人が採れずに終わります。厚生労働省の一般職業紹介状況(令和8年7月)の有効求人倍率を並べます。

職業分類

有効求人倍率

中小にとっての読み方

建設躯体工事

7.94倍

採れれば独占、採れなければゼロ

介護サービス

3.82倍

需要は安定、差額が薄い

生産工程

1.59倍

差額と採用の均衡点

一般事務

0.29倍

採れるが粗利が残らない

建設躯体工事と一般事務では27倍の差があります。差額の大きい職種は、たいてい採用の壁も高くなっています。

だからこそ、その地域で人を押さえている会社に価値が生まれます。地域に寄せる戦い方は地域密着型の派遣会社が生き残る経営戦略にまとめました。

レバー2:稼働日数は、契約の切れ方で決まる

派遣契約の期間を見ると、1日以下が25.7%、3か月以内が合計85.7%です。放っておけば、稼働日数は自動的に短くなります。

つまり年間稼働日数を伸ばす作業は、更新を取り続ける作業と同じです。1人が171日から188日になれば、粗利は約364万円増えます。

日本人材派遣協会の調査では、営業担当者が「何もしていない」と答えた派遣社員が42.2%いました。4割が担当者の存在を感じていません。

ここは広告費では埋まりません。更新率を上げる具体策は契約更新率が高い派遣会社が実践していることに整理しています。

大手が強いのは稼働人数。ここでは戦わない

稼働人数を増やすには、応募を集める必要があります。応募は広告費に比例しやすく、規模の大きい会社ほど単価が下がります。

同じ土俵で広告を出し合うと、中小は採用単価で負けます。勝っても利益が残りません。

ただし、職種とエリアを絞れば話は変わります。全国で競うのではなく、特定の条件で競えば、広告費の総額ではなく密度が効くようになります。

登録者226.7人に対し稼働は66.3人、比率は29.2%です。名簿の7割は動いていません。新しく集める前に、ここを回すほうが安く済みます。

業界の実体は、そもそも中小の集合体

前提として、業界の構成を確認しておきます。

売上高ランク

事業所数

構成比

10億円以上

1,985所

6.0%

5億円〜10億円

2,389所

7.2%

1億円〜5億円

9,669所

29.1%

1億円未満

19,164所

57.7%

10億円以上はわずか6.0%です。1億円未満が57.7%を占めています。

日常的に競合するのは、多くの場合この57.7%の層です。大手を意識しすぎると、本当の競争相手を見誤ります。構成の推移は人材派遣会社の事業所数の推移と今後の増加予測【最新データ】にまとめました。

大きな球を一人で抱えようとする人と、小さな球を3つ抱えている人のイラスト

見落とされがちな論点:1社の重みが10倍違う

規模の差は、取引先1社の重みにも出ます。平均像から逆算した試算です。

売上1億円の会社の派遣先は約8.7件で、1社が全体の11.5%を占めます。売上10億円の事業所なら約87件で、1社は1.1%です。

同じ1社を失っても、影響は10倍違います。中小にとっては弱点ですが、1社あたりに割ける時間が多いという意味でもあります。

大手の営業1人が数十社を見るのに対し、中小は数社に集中できます。この差が、更新率と追加受注に効いてきます。

速さは、中小がそのまま使える武器

求人企業が派遣を使う理由の1位は「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため」で76.5%でした。厚生労働省の令和4年派遣労働者実態調査の数字です。

評価されているのは安さでも拠点数でもなく、速さです。意思決定の段数が少ない会社ほど、この軸では有利になります。

依頼から就業までの平均日数を測り、提案資料に入れてください。数字で出せる速さは、ブランドの代わりになります。

測っていない会社は、自社が速いかどうかを主張できません。「迅速に対応します」という言葉は、相手にとって判断材料になりません。

想定ケースで見る、2社の3年後

売上1億円、稼働22.3人の会社を2つ想定します。

A社は職種を広げ、稼働人数を毎年10%増やす方針にしました。3年後は29.7人ですが、増やした分だけ採用費がかかり続けます。粗利は約4,842万円です。

B社は一般事務から製造技術者へ寄せ、更新率を上げて稼働日数を171日から188日に伸ばしました。稼働人数は22.3人のままです。粗利は約4,525万円になります。

数字は近いですが、中身が違います。A社は毎年の採用費が前提、B社は一度の絞り込みと日々のフォローが前提です。

A社が増やした7.4人分の採用費を差し引くと、手元に残る額は逆転する可能性があります。1人あたりの採用コストが10万円なら74万円、30万円なら222万円です。

4年目以降はさらに差が開きます。A社は翌年も同じだけ採用し続ける必要がありますが、B社の絞り込みは一度決めれば効き続けるためです。

絞り込みを決める3つの数字

見る数字

全国の目安

下回っている場合

1人1日あたりの差額

9,522円

職種か料金を見直す

登録者に対する稼働の比率

29.2%

名簿が回っていない

派遣先1件あたりの人数

2.55人

1社あたりが薄い

3つとも職種別に出してください。会社全体の平均では、どこを削るべきかが見えません。

指標の全体像は派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧に整理しています。

今日から実践するためのチェックリスト

  • 職種ごとに料金と賃金の差額を出し、全業務平均の9,522円と比べる

  • 差額が平均を下回る職種の売上構成比を確認する

  • 職種ごとの充足率を出し、差額との重なりを探す

  • 1人あたりの年間稼働日数を計算し、171日と比べる

  • 契約終了のうち、更新できずに終わった件数を数える

  • 取引先1社が売上に占める割合を出し、上位3社の比率を見る

  • 依頼から就業までの平均日数を測る

まとめ

粗利は、稼働人数×差額×稼働日数で決まります。どれを10%上げても増える額は同じですが、かかるコストは違います。

稼働人数は広告費が要ります。差額は交渉だけ、稼働日数はフォローだけで動きます。中小が先に手を付けるべきは後ろの2つです。

職種を一般事務から製造技術者に寄せれば、差額は1.84倍、粗利は約1,876万円増える試算になります。人数は1人も増やしていません。

ただし差額の大きい職種ほど採用は難しく、建設躯体工事と一般事務では有効求人倍率が27倍違います。差額と充足率の両方に入る職種を選ぶのが、絞り込みの正解です。段階ごとの進め方は派遣会社が成長するための経営ロードマップの描き方にまとめました。

確認クイズ(FAQ)

Q1. 粗利を構成する3つの要素のうち、広告費をかけずに動かせるのはどれでしょうか。

A. 稼働人数と差額
B. 差額と年間稼働日数
C. 稼働人数と年間稼働日数

正解:B

解説:差額は職種の選択と料金交渉、稼働日数は定着と更新で動きます。稼働人数を増やすには採用費が先に出ていきます。

Q2. 一般事務従事者と製造技術者では、1人1日あたりの差額は何倍違うでしょうか。

A. 約1.2倍
B. 約1.84倍
C. 約3倍

正解:B

解説:5,881円と10,794円で1.84倍です。稼働22.3人で年171日なら、粗利の差は約1,876万円になります。

Q3. 派遣事業所のうち、年間売上10億円以上の割合はどれくらいでしょうか。

A. 6.0%
B. 22.0%
C. 41.0%

正解:A

解説:1,985所で6.0%です。1億円未満が57.7%を占めており、日常的な競合はこの層になります。

ハケンバンクについて

職種を絞るほど、その条件に合う求人企業と出会う回数が課題になります。自社営業だけでは接点の母数が足りなくなります。

ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。絞り込んだ強みを生かせる相手と出会う手段として、営業活動を補完する位置づけでご検討ください。

参考文献

・厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

・厚生労働省「令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」

・厚生労働省「一般職業紹介状況」(職業安定業務統計)

・厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査の概況」(2024年2月公表、事業所調査)

・一般社団法人日本人材派遣協会「2025年度 派遣社員WEBアンケート調査結果」(2025年12月公表)

・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)/e-Gov法令検索

この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム

ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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