「人材不足」は派遣会社にとって本当に追い風なのか

業界コラム

2026/7/13

「人材不足」は派遣会社にとって本当に追い風なのか

人手不足だから派遣は追い風。業界でよく聞く言葉です。

この記事では、追い風が本当に吹いているのかを需要側と供給側に分けて確認します。そのうえで、1事業所あたりの粗利が実際にどう動いたかを計算します。

結論:追い風は需要側だけ。供給側は向かい風が吹いている

令和6年度の派遣先件数は861,926件で前年度比7.9%増、売上高は9兆9,005億円で9.4%増でした。需要が伸びているのは事実です。

一方、実績のある1事業所あたりの登録者数は242.4人から226.7人へ、6.5%減りました。稼働している派遣労働者も66.6人から66.3人へわずかに減っています。

仕事は増え、人は減っている。これが数字から読み取れる構図です。追い風と向かい風が同時に吹いていると考えるほうが実態に近いでしょう。

左右から逆向きの風を受け、帆を持って踏ん張っている担当者のイラスト

まず、需要側の数字を確認する

出典は厚生労働省の令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果です。

指標

令和6年度

前年度比

派遣先件数

861,926件

7.9%増

年間売上高

9兆9,005億円

9.4%増

派遣労働者数

約220万人

3.9%増

派遣料金(8時間)

26,257円

3.6%増

どれも増えています。市場規模の見方は【2026年最新】人材派遣市場の規模と今後10年の成長予測を徹底分析に整理しました。

ここまでを見れば、追い風という表現に間違いはありません。問題は、この伸びが1社ずつに配られているかどうかです。

球が山盛りの器と、ほとんど空の器を見比べている担当者のイラスト

1事業所あたりで見ると、景色が変わる

全体の数字を実績のある33,207事業所で割ると、別の動きが出てきます。

1事業所あたり

令和5年度

令和6年度

増減

派遣先件数

25.1件

26.0件

+0.9件

稼働している派遣労働者

66.6人

66.3人

▲0.3人

登録者数

242.4人

226.7人

▲15.7人

売上高

約2億8,400万円

約2億9,800万円

+約1,400万円

取引先は0.9件増えましたが、稼働する人は0.3人減りました。登録者に至っては15.7人の減少です。

案件は来ている。出す人がいない。現場で「求人は増えているのに稼働が増えない」と感じる理由は、全国平均でも同じように起きています。

割り算すると、派遣先1件あたりの人数は2.65人から2.55人へ薄くなりました。取引先は増えたが、1社あたりに出す人数は減っています。

この形で営業を続けると、管理する取引先だけが増えていきます。内勤の工数は件数に比例するため、同じ人数で回しているなら負荷は確実に上がります。

「利益が残らない」は、全国平均では起きていない

ここは通説と違う結果が出ます。派遣料金と賃金の差額が派遣会社の粗利にあたりますが、この差額は縮んでいません。

項目

令和5年度

令和6年度

増減

派遣料金(8時間)

25,337円

26,257円

3.6%増

賃金(8時間)

16,190円

16,735円

3.4%増

差額

9,147円

9,522円

4.1%増

料金に対する差額の割合

36.1%

36.3%

+0.2ポイント

料金の伸び3.6%が、賃金の伸び3.4%をわずかに上回っています。その結果、差額は375円増え、割合も0.2ポイント上がりました。

全国平均で見るかぎり、賃上げに料金が追いついていないという構図にはなっていません。利益が残らないと感じる会社は、平均から外れている可能性があります。

粗利が増えた理由は、人数ではなく単価と日数

ここからは試算です。1事業所あたりの売上と稼働人数、料金から、年間の稼働日数を逆算します。

令和5年度は1人あたり約168.6日、令和6年度は約171.2日に相当します。これに差額を掛けると、1事業所あたりの粗利が出ます。

年度

稼働人数

差額

年間稼働日数

粗利(試算)

令和5年度

66.6人

9,147円

約168.6日

約1億269万円

令和6年度

66.3人

9,522円

約171.2日

約1億808万円

粗利は約539万円、率にして5.2%増えました。稼働人数は減ったのに増えています。

増やしたのは単価と稼働日数です。つまり追い風は効いていますが、効いているのは人数の伸びではなく、1人あたりの売上です。

上下から迫る2つのブロックの狭い隙間をのぞき込む担当者のイラスト

では、何が向かい風なのか

向かい風は、これから来るコスト側にあります。令和8年度の地域別最低賃金の目安は、全国加重平均で1,176円、引上げ率は4.9%でした。

賃金16,735円が同じ率で上がると17,555円になります。料金を据え置けば差額は8,702円へ、8.6%縮む計算です。

令和6年度の料金の伸びは3.6%でした。最低賃金の引上げ率4.9%を下回っています。この差が続くと、差額は縮んでいきます。

令和6年度までは料金の伸びが賃金の伸びを上回っていました。令和8年度以降は、この関係が逆転する可能性があります。

つまり「追い風で利益が増えた」のは過去の話になりかねません。判断材料は、自社の料金改定が年4.9%に届いているかどうかの一点です。

値上げ交渉の進め方は派遣会社が価格競争から抜け出す方法と差別化戦略に整理しました。

追い風の中でも、倒産は増えている

市場が伸びているのに、退出は増えています。東京商工リサーチの集計では、2025年1〜11月の労働者派遣業の倒産は82件で、前年同期比41.3%増でした。

全業種の人手不足倒産は2026年度上半期で240件、前年同期比17.0%増です。原因では人件費高騰が130件と全体の54.1%を占めました。

人手不足は需要を押し上げる一方で、人件費を押し上げます。両方が同時に効くため、追い風だけを見て判断すると足をすくわれます。詳しくは派遣会社の倒産件数から見る業界の未来|生き残る会社に共通する経営戦略で扱っています。

職種によって、追い風の強さは27倍違う

追い風は全職種に同じ強さで吹いているわけではありません。厚生労働省の一般職業紹介状況(令和8年7月)を見てください。

職業分類

有効求人倍率

自社にとっての意味

建設躯体工事

7.94倍

需要は強いが人が採れない

介護サービス

3.82倍

需要は安定、差額は薄い

職業計

1.05倍

全体としては均衡に近い

一般事務

0.29倍

人は余り、追い風は吹かない

職業計は1.05倍で、市場全体としては均衡に近い水準です。建設躯体工事の7.94倍と一般事務の0.29倍では27倍の差があります。

自社が扱う職種がどこにあるかで、同じ市場でも体感はまったく変わります。倍率の読み方は有効求人倍率だけで派遣市場を読めない理由と正しい指標の見方にまとめました。

見落とされがちな論点:無期雇用の伸びが有期の6倍

もう一つ、人手不足が派遣会社の構造を変えている点があります。雇用形態の内訳です。

令和6年度の無期雇用派遣労働者は908,956人で前年度比7.9%増、有期雇用は1,290,683人で1.3%増でした。無期の伸びは有期の6.1倍です。

無期雇用は派遣会社が自社で雇い続ける形ですから、案件が切れても人件費は出ていきます。人を抱えるほど、固定費の比率が上がります。

人が採れない市場では、無期化は人を手放さないための合理的な選択です。ただし、安定した出し先を先に押さえていないと、そのまま赤字に変わります。

無期雇用の人数と、その人たちの稼働率は分けて見てください。全体の稼働率が平均を上回っていても、無期だけが止まっていれば損失は積み上がります。

想定ケースで見る、追い風に乗れる会社と乗れない会社

稼働66.3人、派遣先26.0件の会社を2つ想定します。どちらも翌年度に派遣先が0.9件増えたとします。

A社は案件を受けることを優先し、料金は据え置きました。最低賃金が4.9%上がると差額は8,702円になり、粗利は約9,877万円です。前年の約1億808万円から931万円減ります。

B社は受ける案件を絞り、料金を4.9%改定しました。差額は9,989円になり、粗利は約1億1,338万円です。530万円増えます。

差は約1,461万円です。同じ市場、同じ稼働人数でも、料金改定を通せたかどうかでこれだけ開きます。

自社が追い風に乗れているかを測る3つの数字

見る数字

全国の目安

下回っている場合

1人1日あたりの差額

9,522円

料金改定が通っていない

登録者に対する稼働の比率

29.2%

名簿が回っていない

派遣先1件あたりの人数

2.55人

1社あたりが薄い

3つとも全国平均を上回っていれば、追い風には乗れています。どれか1つでも下回っていれば、そこが向かい風の入口です。

指標の全体像は派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧に整理しています。

今日から実践するためのチェックリスト

  • 自社の派遣料金と賃金の差額を出し、9,522円と比べる

  • 料金の前年比を出し、最低賃金の引上げ率4.9%と比べる

  • 登録者数と稼働人数を割り算し、29.2%と比べる

  • 取引先ごとに、直近1年で料金改定ができた件数を数える

  • 無期雇用の人数と、その人たちの稼働率を別に把握する

  • 扱っている職種の有効求人倍率を調べ、採用の難易度を確認する

まとめ

需要側は追い風です。派遣先件数は7.9%増、売上高は9.4%増でした。

供給側は向かい風です。1事業所あたりの登録者は6.5%減り、稼働人数もわずかに減りました。

そして利益は、全国平均では増えています。差額は9,147円から9,522円へ4.1%増え、1事業所あたりの粗利は5.2%増える試算になりました。増やしたのは人数ではなく単価です。

ただし令和8年度の最低賃金の目安は4.9%増で、料金の伸び3.6%を上回ります。ここを転嫁できるかどうかが、次の年度の分かれ目になります。

確認クイズ(FAQ)

Q1. 令和6年度の1事業所あたり登録者数は、前年度と比べてどう動いたでしょうか。

A. 6.5%増えた
B. ほぼ横ばい
C. 6.5%減った

正解:C

解説:242.4人から226.7人へ15.7人減りました。同じ時期、派遣先件数は25.1件から26.0件へ増えています。

Q2. 派遣料金と賃金の差額は、令和5年度から令和6年度にかけてどう動いたでしょうか。

A. 9,147円から9,522円へ増えた
B. ほぼ変わらなかった
C. 縮んだ

正解:A

解説:4.1%増です。料金の伸び3.6%が賃金の伸び3.4%を上回ったためです。

Q3. 無期雇用派遣労働者の伸びは、有期雇用のおよそ何倍でしょうか。

A. 約2倍
B. 約6倍
C. ほぼ同じ

正解:B

解説:無期が7.9%増、有期が1.3%増で、6.1倍です。人を抱える方向に動いています。

ハケンバンクについて

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ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。自社だけでは接点を持ちにくい求人企業と出会う手段として、営業活動を補完する位置づけでご検討ください。

参考文献

・厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

・厚生労働省「令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」

・厚生労働省「一般職業紹介状況」(職業安定業務統計)

・厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」

・東京商工リサーチ「2025年1-11月の『労働者派遣業』倒産 82件」(2025年12月24日公表)

・東京商工リサーチ「年度上半期の『人手不足』倒産 過去最多の240件」(2026年10月5日公表)

・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)/e-Gov法令検索

この記事の監修者

山本 凌大

CLEAR INNOVATION株式会社代表取締役
大学在学中に「非常識を新常識に変える」をミッションに、CLEAR INNOVATION株式会社を創業。全国の派遣企業と求人企業を繋げる国内初のプラットフォーム「ハケンバンク」を提供。

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