
経営・事業戦略
次に何へ投資すべきか。成長の段階が変わると、答えも変わります。
この記事では、業界の平均像を数字で押さえたうえで、自社がどのフェーズにいるかを判定する方法を整理します。そのうえで、段階ごとの優先課題と次に当たる壁まで扱います。
派遣会社が長期的に成長するためには、売上だけを追う経営から脱却することが重要です。売上拡大よりも先に経営基盤を整えている会社ほど、利益率や契約継続率が安定します。
派遣会社の売上は、稼働人数×派遣料金×稼働時間で決まります。しかし利益は、採用コスト、営業コスト、スタッフフォロー、人件費などを差し引いた結果として残るものです。
案件だけを増やしても人材が確保できなければ採用費が膨らみ、利益率は低下します。つまり成長とは「案件数を増やすこと」ではなく、組織として再現性のある仕組みを構築することです。

自社がどこにいるかを判断するには、基準線が要ります。厚生労働省の令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)から、1事業所あたりの姿を並べます。
項目 | 1事業所あたり |
|---|---|
年間売上高 | 2億9,800万円 |
稼働している派遣労働者数 | 66.3人 |
派遣先件数 | 26.0件 |
登録者数 | 226.7人 |
出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和6年度)。労働者派遣の実績があった33,207事業所の平均
1つの派遣先につき平均2.5人。登録者226.7人に対して稼働は66.3人なので、名簿にいる人の7割は動いていません。
この平均像は、多くの中小派遣会社にとって「いまどこにいるか」を測る物差しになります。売上3億円・稼働66人という姿は、感覚で語られる規模感より小さいと感じる方も多いはずです。
なお、実績があったのは33,207事業所です。届出は43,812事業所あるので、4社に1社は実質的に稼働していません。年間売上1億円未満が約6割を占めます。
つまり業界の多数派は、売上1億円前後の小さな事業所です。大手の事例をそのまま持ち込んでも噛み合わないのは、前提となる規模が違うためです。

前年度と並べると、どこが詰まっているかが見えます。
1事業所あたり | 令和5年度 | 令和6年度 | 増減 |
|---|---|---|---|
派遣先件数 | 25.1件 | 26.0件 | 増加 |
稼働している派遣労働者数 | 66.6人 | 66.3人 | わずかに減少 |
登録者数 | 242.4人 | 226.7人 | ▲6.5% |
派遣料金(8時間換算) | 25,337円 | 26,257円 | +3.6% |
出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和5年度・令和6年度)をもとに作成
案件は増え、単価も上がっています。しかし稼働人数は増えておらず、登録者は6.5%減りました。
業界全体として、成長を止めているのは営業ではなく供給側です。この構図を前提にしないと、営業強化に投資しても稼働に変わりません。営業と採用のどちらを優先するかは「派遣会社は営業力と集客力どちらを優先すべきか」で詳しく扱いました。
売上だけを見て経営判断をすると、本質的な課題を見落とします。まず確認すべき指標は次のとおりです。
指標 | 確認する理由 |
|---|---|
稼働人数 | 売上の土台となる最重要指標 |
粗利率 | 売上ではなく利益を把握するため |
平均採用コスト | 人材確保の効率を確認するため |
営業担当1人あたり粗利 | 営業生産性を測るため |
契約更新率 | スタッフ定着と顧客満足度を把握するため |
応募から就業までの転換率 | 採用活動全体の効率を把握するため |
これらを定期的に可視化している会社は、「どこに投資すれば利益が伸びるか」を判断しやすくなります。毎月見るべき指標の全体像は「派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧」にまとめています。
派遣会社は、会社規模によって優先すべき施策が大きく異なります。同じ営業施策でも、創業間もない会社と従業員100名規模の会社では期待できる効果は変わります。
成長フェーズ | 稼働人数の目安 | 優先課題 | 重視するKPI | 次に当たる壁 |
|---|---|---|---|---|
創業〜安定期 | 〜20人 | 顧客開拓と稼働確保 | 稼働人数・粗利 | 社長への依存 |
拡大期 | 20〜66人 | 採用力と営業の仕組み化 | 採用単価・営業生産性 | 採用が追いつかない |
組織化 | 66〜150人 | 属人化解消・管理体制 | 更新率・教育指標 | 担当者による差 |
多店舗展開 | 150人〜 | 支店採算・権限移譲 | 支店別利益・管理コスト | 支店ごとの赤字 |
稼働人数の目安は、業界平均66.3人を中間点に置いた編集部の整理です
特に中小派遣会社では、「営業が得意な社長」に依存するケースが少なくありません。創業初期には強みとなる一方で、事業が拡大するとボトルネックになります。
成長企業は、営業活動や求人票の作成方法、面談手順、派遣先フォローなどを標準化し、誰が担当しても一定水準の成果を出せる体制づくりを進めています。この違いが、支店展開や人員拡大のスピードに影響します。
注意したいのは、段階を飛ばせないことです。採用が安定しないまま支店を増やせば、赤字拠点が増えるだけになります。いまの段階の壁を越えてから、次の課題に手をつける。この順序を守るほうが結果的に早くなります。

もう一つ、簡単に測れる指標があります。内勤者1人が何人の稼働を支えているかです。
業界平均の66.3人を、仮に営業とコーディネーター合計5人で見ているとすると、1人あたり13.3人という計算になります。差額9,522円・年240日で計算すると、内勤1人が年間約3,039万円の粗利を支えていることになります。
内勤1人あたり稼働人数 | 読み取れる状態 | 次の一手 |
|---|---|---|
10人未満 | まだ余力がある、または案件不足 | 営業を増やす |
10〜15人 | 業界平均の水準 | 現状維持か標準化 |
15人超 | 手が回らず品質が落ちやすい | 増員か業務の自動化 |
出典:業界平均をもとにした編集部試算。稼働日数と内勤人数は仮定値
この数字が15人を超えているのに増員していない会社は、成長ではなく消耗の局面に入っています。利益率そのものの改善は「派遣会社の利益率を改善する方法と見直すポイント」で扱いました。
派遣会社が一定規模まで成長すると、課題は営業力から組織力へ移ります。案件獲得やスタッフ募集に成功しても、情報共有や業務標準化が進んでいなければ、利益は安定しません。
営業担当者が派遣先企業から聞いた「本当に欲しい人物像」がコーディネーターへ十分共有されないケースは少なくありません。その結果、条件は満たしていても現場が求める人物像とは異なるスタッフを紹介してしまい、就業辞退や早期離職につながります。
逆に、営業・採用・スタッフフォローの情報が一元管理されている会社では、求人企業との認識のずれが少なくなり、契約更新率や紹介精度の向上が期待できます。
一元管理といっても、高価なシステムが要るわけではありません。求人企業から聞いた条件を、決まった様式に書き込む。それを全員が見る。まずはこの二つが揃っているかを確認してください。
「案件数の多さ」と「成長性」は一致しません。案件が増えすぎると、採用が追いつかず営業担当者の対応工数だけが増加します。
結果として既存顧客へのフォローが薄れ、契約更新率の低下や紹介数の減少につながります。充足できなかった依頼は、売上にならないだけでなく、次の相談も失わせます。
前年度比で派遣先件数が増え、稼働人数が減っているという業界全体の動きは、まさにこの状態を示しています。案件は取れている。人が出せていない。
そのため経営者は、「どれだけ案件を増やすか」ではなく、現在の採用力と組織体制で対応できる案件量はどこまでかという視点で事業規模を判断する必要があります。売上が伸びても利益が残らない構造は「派遣会社で売上が伸びても利益が残らない理由と対策」で整理しました。
以下は想定ケースです。実在の企業ではありません。年間売上3億円規模を目指す2社を比べます。
H社は新規営業を最優先し、多くの案件を獲得しました。しかし採用体制が追いつかず、求人広告費だけが増加します。営業担当も既存顧客へのフォロー時間を確保できず、更新率が低下した結果、売上は増えても利益は改善しませんでした。
I社は、新規営業の前に既存顧客の更新率向上と採用ファネルの改善に取り組みました。応募から登録、就業までの歩留まりを可視化し、営業とコーディネーターが毎週情報共有を行う体制を整えます。その結果、広告費を大きく増やさずに稼働人数を伸ばし、営業担当1人当たりの粗利も改善しました。
売上を増やす前に仕組みを整えるという考え方は、多くの派遣会社に当てはまります。売上10億円という目標から逆算する考え方は「売上10億円を目指す派遣会社の経営戦略とロードマップ」で扱っています。
まず、自社の稼働人数・派遣先件数・登録者数を、業界平均の66.3人・26.0件・226.7人と並べてください。どの数字が平均より小さいかが、そのまま次の課題になります。
次に、内勤者の人数で稼働人数を割ります。15人を超えているなら、品質が落ちる前に増員か自動化の判断が要ります。
そのうえで、フェーズ表から自社の段階を特定し、その段階のKPIを1つだけ選んでください。複数を同時に追うと、どれも動きません。
最後に、選んだKPIを毎月同じ様式で記録します。様式を変えると前月と比べられなくなるので、粗くても同じ形で続けることが大切です。事業計画の立て方は「派遣会社の事業計画の立て方と押さえるべき視点」も参考になります。
3か月続けると、数字が動いたのか、たまたま良い月があっただけなのかが区別できるようになります。判断材料がそろうまでは、施策を追加しないほうが見極めは早くなります。
自社の稼働人数を、業界平均66.3人と比較した
派遣先件数と登録者数も、平均26.0件・226.7人と比較した
登録者に占める稼働者の割合を算出した
内勤1人あたりの稼働人数を算出した
稼働人数・粗利率・営業担当者1人当たり粗利を毎月確認している
応募→登録→面談→就業までの転換率を把握している
採用コストと案件ごとの利益率を比較している
フェーズ表から自社の成長段階を特定した
その段階のKPIを1つだけ選んだ
営業とコーディネーターが定期的に情報共有している
求人票や面談フローが担当者ごとに異なっていない
支店別・担当者別の採算を把握している
派遣会社の成長は、売上を伸ばすことだけでは実現できません。稼働人数、粗利率、採用効率、営業生産性、契約更新率をバランス良く改善し、組織として再現性のある仕組みを構築することが要になります。
業界平均は、1事業所あたり売上2億9,800万円・稼働66.3人・派遣先26.0件・登録者226.7人。まずこの基準線と自社を並べてください。
そして業界全体では、派遣先件数が増える一方で稼働人数は減り、登録者は6.5%減っています。制約は営業ではなく供給側にあります。
自社が現在どの成長フェーズにあるのかを整理し、その段階で最も重要なKPIを一つ決めて改善を始める。それが持続的な成長への第一歩です。
Q1. 令和6年度の集計で、1事業所あたりの稼働派遣労働者数と登録者数はどのような関係にありますか?
A. 登録者226.7人に対し稼働は66.3人で、名簿にいる人の約7割は動いていない
B. 登録者のほぼ全員が稼働している
C. 稼働人数のほうが登録者数より多い
正解:A
解説:「まず、業界の平均像を知る」の章のとおりです(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和6年度、実績のあった33,207事業所の平均)。
Q2. 前年度と比べたとき、業界全体の動きはどう読めますか?
A. 派遣先件数は25.1件から26.0件へ増えた一方、稼働人数は減り、登録者は6.5%減少した
B. 案件も稼働人数も登録者も、すべて増えた
C. 案件が減ったため、稼働人数も減った
正解:A
解説:「伸びているのは案件、細っているのは供給」の章のとおりです。制約は営業側ではなく供給側にあります。
Q3. 内勤1人あたりの稼働人数が15人を超えている場合、まず検討すべきことはどれですか?
A. さらに案件を増やして売上を伸ばす
B. 増員か業務の自動化を検討する
C. 何もせず現状を維持する
正解:B
解説:「フェーズの境目は、内勤1人あたりの稼働人数で見える」の章のとおりです。手が回らない状態で案件を増やすと、更新率とフォロー品質が先に落ちます。
フェーズが変わると、必要な案件の種類も変わります。拡大期には件数が、組織化の段階では継続性のある案件が要ります。
ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。自社だけでは接点を持ちにくい求人企業と出会う手段として、営業活動を補完する位置づけでご検討ください。
・厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)
・厚生労働省「一般職業紹介状況」(職業安定業務統計)
・一般社団法人日本人材派遣協会「2025年度 派遣社員WEBアンケート調査結果」(2025年12月公表)
この記事の監修者

山本 凌大
CLEAR INNOVATION株式会社代表取締役
大学在学中に「非常識を新常識に変える」をミッションに、CLEAR INNOVATION株式会社を創業。全国の派遣企業と求人企業を繋げる国内初のプラットフォーム「ハケンバンク」を提供。

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