派遣会社の事業計画の立て方と押さえるべき視点

経営・事業戦略

2026/9/7

派遣会社の事業計画の立て方と押さえるべき視点

来期の事業計画をつくる時期になると、多くの派遣会社で似た光景が繰り返されます。前年の売上に成長率を掛けて目標を置き、そこから必要な受注件数と採用人数を割り戻す。ところが期末になると、目標に届いていない。原因は営業努力の不足ではなく、計画の組み立て方そのものにあることが少なくありません。この記事では、派遣会社の収益構造に沿った事業計画の立て方と、計画に入れておくべき数字を整理します。

左に売上目標から必要人数へ割り戻す逆算の構図、右に稼働人数を下から積み上げていく構図を並べた対比図。派遣会社の事業計画をどちらの順序で組み立てるかというテーマを示している。

目次

結論:事業計画は売上目標ではなく「期首の稼働人数」から組み立てる

派遣会社の事業計画は、前年売上に成長率を掛けるやり方では機能しません。出発点に置くべきは、期首に稼働している人数と、そこから抜けていく分の見積りです。派遣事業の売上は、稼働している人が毎月積み上げるストック型の収益で構成されているためです。

厚生労働省の令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)によれば、労働者派遣事業の年間売上高は9兆9,005億円、労働者派遣の実績があった1事業所当たりでは2億9,800万円でした。この売上の大半は、期首の時点ですでに稼働していた人が生み出したものです。計画の精度を決めるのは、これから増える分ではなく、すでにある分がどれだけ減るかの見積りだと考えてください。

なぜ計画が外れるのか──増える分は書かれ、減る分は書かれない

計画が外れる最大の理由は、稼働の減少が誰の担当業務にもなっていないことです。営業担当者は新規受注で評価され、コーディネーターは充足で評価されます。しかし契約終了や中途解約の見込みを集計する役割は、多くの会社で明確に割り当てられていません。その結果、経営会議には受注件数と稼働の合計だけが上がり、いつ何人抜けるのかは誰も把握していない状態になります。

同じ集計では、1事業所当たりの稼働派遣労働者数は66.3人、派遣先件数は26.0件でした。単純に割ると、1つの派遣先につき平均2.5人という計算になります。裏を返せば、規模の小さい会社ほど上位数社への依存度が高くなり、1社の終了が計画全体を崩しやすい構造にあるということです。ここを見ないまま成長率だけを議論しても、計画は現実と噛み合いません。

期首稼働から契約終了分を差し引き、新規稼働を加えて期末稼働に至る増減をブリッジ型で示した構造図。減少を先に織り込む計画の考え方を表している。

事業計画に必要な四つの前提数字

必要な数字は四つです。期首稼働人数と継続率、新規オーダー数と充足率、平均単価、そして一人当たりの粗利です。この四つが揃えば、売上も利益も分解して説明できるようになります。

単価と原価については注意が要ります。同じ集計で、派遣料金(8時間換算)の平均は26,257円、派遣労働者の賃金は16,735円でした。差額は9,522円ですが、この派遣料金には消費税が含まれ、さらに法定福利費や有給休暇、募集費用が差し引かれます。この差額をそのまま粗利として計画に載せると、着地は下振れします。一人当たりの粗利は、直近の決算実績から逆算して求めてください。

計画の構成要素

計算式

数字の出どころ

既存稼働の残存

期首稼働人数 × 継続率

契約終了予定日一覧・抵触日

新規稼働

新規オーダー数 × 充足率

受注記録・就業決定記録

売上

稼働人数 × 平均単価 × 稼働日数

請求データ

粗利

稼働人数 × 一人当たり月間粗利

決算実績からの逆算

見落とされている論点──計画に入れられる「確定情報」が二つある

事業計画の多くは予測で構成されますが、派遣会社には最初から確定している情報が二つあります。一つは抵触日です。事業所単位・個人単位の期間制限があるため、いつ誰が就業を終えるのかは三年先まで判明しています。もう一つは、賃金が上がる日付です。地域別最低賃金は毎年10月ごろに発効し、労使協定方式で用いる一般賃金水準は厚生労働省の局長通達として毎年度示され、4月から適用されます。

令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安では、全国加重平均が1,176円と、前年度から55円(4.9%)引き上げられる水準が示されました。派遣会社にとって、賃金は原価そのものです。単価を据え置いたまま10月を迎えれば、粗利率が下がることは計画の時点で決まっています。だからこそ、単価改定の交渉を日付入りで計画に組み込む必要があります。料金水準の見通しについては、「人材派遣市場は価格競争に向かうのか」でも整理しています。

支店や増員の判断は「損益分岐稼働人数」で見る

拠点や人員への投資は、売上規模ではなく損益分岐稼働人数で判断してください。支店の固定費を一人当たりの月間粗利で割れば、何人が稼働すれば採算に乗るかが出ます。例えば、一人当たり月間粗利が9万円、支店の固定費が月180万円だと想定してみましょう。この場合は20人の稼働が損益分岐点になり、開設から何か月でそこへ届くかを先に決めることが投資判断そのものになります。

売上高ランク別に見ると、労働者派遣事業の売上が5億円未満の事業所は全体の86.8%を占めます。多くの会社にとって、拠点の増設は固定費が段階的に跳ね上がる意思決定です。加えて、帝国データバンクの人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)では、「人材派遣・紹介」業種で非正社員が不足すると回答した企業が60.0%と全業種で最も高く、増員を前提にした計画は崩れやすくなっています。エリア拡大の見極めは「派遣会社が営業エリアを拡大すべきタイミング」もあわせて検討してください。

観点

売上目標から作る計画

稼働から作る計画

出発点

前年売上 × 成長率

期首稼働人数と契約終了予定

減少の扱い

織り込まない

終了予定日ベースで先に差し引く

単価の前提

前年並みと仮定する

改定交渉日を入れて段階的に反映する

新規の根拠

目標受注件数

新規オーダー数 × 充足率

ずれの見え方

下期に一気に未達が判明する

月次で差異を把握できる

今日からできる改善策

最初に着手すべきは、契約終了予定日の一覧をつくることです。派遣先、職種、人数、終了予定日、抵触日を一枚にまとめるだけで、来期に自然に減る人数が見えてきます。次に、上位5社の売上構成比を出してください。集中度が高いほど、計画は少数の契約に左右されます。

契約終了予定の棚卸し、売上集中度の確認、単価改定の交渉日程、損益分岐稼働人数の算出を経て月次管理につなげる4ステップの手順図。

そのうえで、単価改定の交渉カレンダーを引きます。最低賃金の発効は10月ごろですから、遅くとも二か月前には派遣先との協議を始めたいところです。労働需給そのものは緩みつつあり、有効求人倍率は令和7年度平均で1.20倍と前年度から0.05ポイント低下しました。交渉の環境は年ごとに変わります。前年と同じ前提を置かないことが、計画の質を左右します。

今日から実践するためのチェックリスト

  • 派遣先・職種・人数・終了予定日・抵触日を一覧にした「契約終了予定表」を作成した

  • 上位5社の売上構成比を算出し、集中度を確認した

  • 一人当たり月間粗利を、差額ではなく決算実績から逆算して求めた

  • 新規オーダー数と充足率の直近12か月の実績を集計した

  • 最低賃金の発効日から逆算した単価改定の交渉スケジュールを引いた

  • 拠点ごとの固定費と損益分岐稼働人数を算出した

  • 月次で「期首稼働・増加・減少・期末稼働」を報告する様式を決めた

まとめ

事業計画の精度は、目標の高さではなく前提の置き方で決まります。期首の稼働人数から出発し、終了予定を先に差し引いてから新規を積み上げる。この順番にするだけで、計画は月次で検証できるものに変わります。

そして、抵触日と賃金の改定日という二つの確定情報を計画に入れてください。どちらも予測ではなく、すでに日付が決まっている事実です。まずは契約終了予定表を一枚つくるところから始めるのが、最も早く効きます。

確認クイズ(FAQ)

Q1. 派遣会社の事業計画が期末になって未達と分かりやすい、最大の理由はどれですか?
A. 新規受注の目標件数の置き方が低すぎるから
B. 稼働の減少を集計する役割が誰にも割り当てられていないから
C. 求人広告費の配分が足りていないから

正解:B
解説:「なぜ計画が外れるのか」の章のとおり、営業は受注、コーディネーターは充足で評価される一方、契約終了や中途解約の見込みを集計する担当が決まっていない会社が少なくありません。

Q2. 派遣会社の事業計画に、予測ではなく確定情報として織り込めるものはどれですか?
A. 翌期の新規オーダー数
B. 派遣スタッフの応募数
C. 抵触日と最低賃金の発効時期

正解:C
解説:「見落とされている論点」の章で述べたとおり、抵触日は三年先まで判明しており、最低賃金は毎年10月ごろに発効します。令和8年度の目安は全国加重平均1,176円(前年度比+55円)です。

Q3. 支店の新設を検討するとき、最初に確認すべき数字はどれですか?
A. その地域の求人件数の総数 B. 支店の固定費を一人当たり月間粗利で割った損益分岐稼働人数
C. 競合する派遣会社の拠点数

正解:B
解説:「支店や増員の判断」の章のとおり、投資判断は売上規模ではなく、何人稼働すれば採算に乗るかと、そこへ何か月で届くかで決まります。

ハケンバンクについて

稼働から積み上げる計画をつくると、新規オーダー数という前提が計画の弱点として浮かび上がります。自社の営業だけで必要なオーダー数を積み上げることが難しい場合は、外部の仕組みを併用する選択肢もあります。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。自社だけでは接点を持ちにくい求人企業と出会う手段として、営業活動を補完する位置づけでご検討ください。

参考文献

  • 厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

  • 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申)

  • 厚生労働省「令和8年度の『労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」』等について」(職発0825第1号、2025年8月25日)

  • 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年3月分及び令和7年度分)」(2026年)

  • 株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月19日公表)

この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム

ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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