派遣会社は営業力と集客力どちらを優先すべきか

経営・事業戦略

2026/9/1

派遣会社は営業力と集客力どちらを優先すべきか

「営業を増やせば売上が伸びる」「人を集めなければ案件を返すことになる」。中小規模の派遣会社では、この二つの主張が同時に語られ、投資先が決まらないまま時間が過ぎていくことが少なくありません。営業担当を一人増やすか、求人広告を上乗せするか。限られた原資の振り向け先は、経営者に毎年つきまとう問いです。この記事では、公的統計から市場の「詰まっている場所」を特定し、自社がどちらを優先すべきかを三つの数字で判断する方法を整理します。

結論:市場構造は集客側の制約を示すが、判断は自社の充足率で決める

結論から言えば、現時点の市場データは、多くの派遣会社にとってボトルネックが集客側にあることを示しています。厚生労働省の令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)によれば、派遣先件数は約86万件で前年度比7.9%増となった一方、派遣労働者数は約220万人で3.9%増にとどまりました。案件の増加ペースは、人の増加ペースのおよそ二倍です。

ただし、これは市場全体の平均像です。自社の営業が案件を取り切れていないなら、市場が人不足でも優先すべきは営業力です。判断を分けるのは、受注したオーダーをどれだけ就業につなげられているかという充足率です。まずは自社の数字を出すところから始めてください。

なぜ迷うのか──派遣会社の売上は「掛け算」でできている

迷いが生まれるのは、派遣事業の売上が足し算ではなく掛け算で決まるからです。売上は稼働人数と平均派遣単価と稼働日数の積です。営業力は主に単価と案件数に効き、集客力は稼働人数に効きます。掛け算である以上、どちらかがゼロに近づけば、もう一方をいくら伸ばしても結果は動きません。

見落とされやすいのは、その売上の伸びが何によって作られたかです。同じ集計では、派遣料金(8時間換算)の平均は26,257円で前年度比3.6%増、賃金は16,735円で3.4%増でした。1事業所当たりの売上高は2億9,800万円と4.9%伸びる一方、後述のとおり稼働人数は増えていません。つまり直近の売上成長の大半は単価上昇であり、事業規模が拡大したわけではないということです。なお派遣料金には消費税が含まれるため、料金と賃金の差額をそのまま粗利率として扱うと実態より高く見えます。

データが示す「詰まっている場所」──案件は増え、登録者は減っている

1事業所当たりの数字を並べると、詰まっている場所がはっきりします。実績のあった事業所33,207カ所で見ると、派遣先件数は25.1件から26.0件へ増えた一方、稼働している派遣労働者数は66.6人から66.3人へわずかに減り、登録者数は242.4人から226.7人へ6.5%減少しました。登録者に占める稼働者の割合は27.5%から29.2%へ上昇しています。既存の登録者プールを、これまで以上に絞り出して回している状態です。

マクロの労働需給はむしろ緩んでおり、有効求人倍率は令和7年度平均で1.20倍と前年度から0.05ポイント低下しました(厚生労働省「一般職業紹介状況」2026年)。それでも派遣会社の手元で人が増えないのは、求人全体が落ち着いても派遣という働き方に人が流れてくるとは限らないためです。この点は「有効求人倍率だけで派遣市場を読めない理由」でも整理しています。

1事業所当たりの指標

令和5年度

令和6年度

増減

派遣先件数

25.1件

26.0件

+3.6%

稼働派遣労働者数

66.6人

66.3人

▲0.5%

登録者数

242.4人

226.7人

▲6.5%

登録者に占める稼働者比率

27.5%

29.2%

+1.7pt

売上高

2億8,400万円

2億9,800万円

+4.9%

出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和5年度・令和6年度)をもとに算出

見落とされている論点──集客力の正体は広告費ではなく「紹介できる案件」

ここまでは「広告費を増やそう」という結論に見えるかもしれませんが、実務はそう単純ではありません。日本人材派遣協会の2025年度 派遣社員WEBアンケート調査(有効回答5,523人)では、現在の派遣会社から就業している理由の1位が「希望に合った条件(勤務地・賃金)の仕事の紹介をしてくれるから」で38.1%、2位が「希望に合った業務内容の仕事の紹介をしてくれるから」で37.6%でした。「営業担当者とコミュニケーションが取りやすいから」は16.7%、「特に理由はない」も15.4%あります。

つまり、求職者が派遣会社を選ぶ最大の理由は、その会社が持っている案件そのものです。集客力は広告の巧拙より先に、紹介できる案件の中身で決まっています。単価が低く条件も動かせない案件ばかりを抱えた会社は、広告費を積んでも登録が就業に変わりません。営業力と集客力は対立する投資先ではなく、案件の質を介してつながっています。これは「Web広告と求人媒体のどちらに投資すべきか」を考える前提でもあります。

自社はどちらを優先すべきか──三つの数字で判断する

判断に使う数字は三つです。一つ目は充足率、受注オーダー数に対する就業決定数の割合です。二つ目は登録者の稼働化率、三つ目は営業一人当たりの月間粗利です。

例えば、充足率が六割で、失注理由の大半が「人が出せなかった」というA社を想定してみましょう。この会社が営業担当を増やしても、返す案件が増えるだけで粗利は伸びません。逆に、充足率は九割を超えているのに稼働人数が横ばいのB社であれば、不足しているのは案件側です。同じ「売上が伸びない」という症状でも、処方箋は正反対です。失注理由を「人がいない」「単価が合わない」「他社に先に決まった」の三つに分類するだけでも、投資先は見えてきます。営業側を厚くする場合は、「派遣営業は新規開拓と既存深耕どちらを優先すべきか」もあわせて検討してください。

充足率

受注オーダーの状況

起きている症状

優先すべき投資

70%未満

十分にある

案件を返している/派遣先の信頼低下

集客力(媒体・登録導線・初回連絡速度)

70%未満

不足している

単価の低い案件だけが残る

案件ポートフォリオの入れ替え

90%以上

不足している

登録者が動かない/稼働が頭打ち

営業力(新規開拓・既存深耕)

90%以上

十分にある

現体制で回し切れない

組織・支店・単価改善への投資

今日からできる改善策

最初に着手すべきは、新しい施策の導入ではなく、既存の数字の可視化です。多くの会社では充足率が営業担当者の頭の中にあり、経営会議には売上と稼働人数しか上がってきません。過去三か月の受注オーダーを職種別に並べ、就業決定に至った割合を出してください。

注意したいのは、自社の人員を増やす前提で計画を立てないことです。帝国データバンクの人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)では、非正社員が不足していると回答した企業は全体で28.3%、「人材派遣・紹介」業種は60.0%と最も高い水準でした。人を集める側が、自社の人員確保で最も苦しんでいるのが実情です。増員を前提にせず、既存の工数配分を変えることから始めてください。

今日から実践するためのチェックリスト

  • 過去3か月の受注オーダー数と就業決定数を職種別に集計し、充足率を算出した

  • 失注案件を「人がいない」「単価が合わない」「他社に先に決まった」に分類した

  • 登録者数に対する稼働者数の比率(稼働化率)を出し、前年同月と比較した

  • 営業一人当たりの月間粗利を算出し、担当者間のばらつきを確認した

  • 応募から初回連絡までの平均時間を計測した

  • 自社の求人票のうち、直近3か月で応募が一件も入らなかった案件を洗い出した

  • 単価が低く条件も動かせない案件について、継続の可否を派遣先と協議する日程を決めた

まとめ

営業力と集客力は、どちらかを選ぶものではありません。ただし投資の順番は自社の充足率が決めます。市場全体では案件が人のおよそ二倍のペースで増え、1事業所当たりの登録者は減っています。当面の制約は集客側にあると考えるのが妥当でしょう。

一方で、集客力を高める最短経路は広告費の増額ではなく、求職者に選ばれる案件を持つことでした。まず過去三か月の充足率と失注理由を出し、そのうえで投資先を決めてください。数字を見ないまま議論を続けることが、最も高くつきます。

確認クイズ(FAQ)

Q1. 派遣会社の売上が伸びているのに事業規模が拡大したとは言えない場合、何が売上を押し上げていると考えられますか?
A. 稼働人数の増加
B. 派遣単価の上昇
C. 登録者数の増加

正解:B 解説:「なぜ迷うのか」の章のとおり、派遣料金の平均は前年度比3.6%増、1事業所当たり売上高は4.9%増である一方、1事業所当たりの稼働人数は66.6人から66.3人へ微減しています(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和6年度)。

Q2. 派遣スタッフが現在の派遣会社から就業している理由として、最も多く挙げられたものはどれですか?
A. 営業担当者とコミュニケーションが取りやすいから
B. 優良派遣事業者認定を取得している派遣会社だから
C. 希望に合った条件(勤務地・賃金)の仕事の紹介をしてくれるから

正解:C 解説:「見落とされている論点」の章で触れたとおり、同項目は38.1%で1位でした(日本人材派遣協会「2025年度派遣社員WEBアンケート調査」有効回答5,523人)。営業担当者とのコミュニケーションは16.7%です。

Q3. 自社の充足率が60%で、失注理由の大半が「人が出せなかった」である場合、まず取るべき打ち手はどれですか?
A. 営業担当者を増員し、新規開拓の件数を増やす
B. 登録から就業までの導線と、紹介できる案件の条件を見直す
C. 派遣先への単価交渉を全案件で一斉に行う

正解:B 解説:「自社はどちらを優先すべきか」の章のとおり、充足率が低い状態で営業を増やしても返す案件が増えるだけです。集客導線と案件の条件を先に整えることが、粗利の改善につながります。

ハケンバンクについて

充足率を上げるには、まず自社で紹介できる案件の質を高める必要があります。とはいえ、条件の良い案件を自社の営業だけで積み上げるには時間がかかります。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。自社だけでは接点を持ちにくい求人企業と出会う仕組みとして、営業活動を補完する選択肢の一つとしてご検討ください。

参考文献

  • 厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

  • 厚生労働省「令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」(2025年)

  • 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年3月分及び令和7年度分)」(2026年)

  • 一般社団法人日本人材派遣協会「2025年度 派遣社員WEBアンケート調査結果」(2025年12月公表)

  • 株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月19日公表)

この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム

ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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