派遣会社の倒産件数から見る業界の未来|生き残る会社に共通する経営戦略

市場動向

2026/7/15

派遣会社の倒産件数から見る業界の未来|生き残る会社に共通する経営戦略

「派遣会社の倒産が増えている」という見出しを、ここ1年で何度も見た方は多いはずです。

ただし件数だけを見ても、自社が何をすべきかは決まりません。この記事では、公表されている倒産統計と厚生労働省の事業報告をつき合わせ、増えているのはどんな会社の倒産なのかを数字で確認します。そのうえで、退出ラインを自社の粗利から逆算する手順を整理します。

結論:市場が縮んでいるのではなく、小さな事業所が抜けている

先に結論を書きます。倒産件数の増加は、派遣という事業そのものの縮小を示す数字ではありません。

東京商工リサーチの集計では、2025年1〜11月の労働者派遣業の倒産は82件でした。前年同期比41.3%増で、2013年同期の85件以来、12年ぶりに80件を超えています。一方、同じ時期の派遣事業の売上高は過去最高を更新しています。

つまり市場は拡大しながら、事業者の数は減っている状態です。起きているのは需要の消滅ではなく、供給側の入れ替わりだと考えるほうが実態に近いでしょう。

この構図は派遣会社は淘汰の時代へ?生き残る会社と消える会社の違いでも触れていますが、本記事では件数と金額に絞って検証します。

上り坂を進む人の列と、坂の下に滑り落ちていく数人を描いたイラスト

まず、倒産件数の実数を押さえる

議論の前提として、実数を並べます。出典は東京商工リサーチの労働者派遣業の倒産集計です。

期間

倒産件数

前年同期比

負債総額

2024年(1〜12月)

68件

—

—

2025年(1〜5月)

53件

211.7%増

55億9,900万円

2025年(1〜11月)

82件

41.3%増

76億5,000万円

2009年(1〜12月)

95件

—

—

注目したいのは、1〜5月で53件だったものが、1〜11月で82件にとどまっている点です。6月以降の半年で29件ですから、年前半のほうがペースは速かったことになります。

2009年の95件は、リーマン・ショック後の「派遣切り」が問題になった年の数字です。当時は需要が消えて倒産が増えました。今回はそこが違います。

倒産しているのは、どんな規模の会社か

件数より重要なのは、どの層が抜けているかです。2025年1〜5月の内訳を見ると、負債1億円未満が41件で構成比77.3%を占めます。

職業紹介業を含む人材関連サービス業の集計では、従業員5人未満が70.6%でした。地区別では関東が43件と最も多くなっています。

区分

件数・構成比

読み取れること

負債1億円未満

41件・77.3%

退出しているのは小規模層

従業員5人未満

構成比70.6%

内勤数人の事業所が中心

破産

79件・96.3%

再建ではなく清算で終わる

人手不足が原因

10件(前年同期4件)

件数自体は多くない

破産が96.3%という数字は重く受け止めるべきです。民事再生で立て直す例はほとんどなく、資金が尽きた時点で事業が終わっています。

同じ時期に、市場そのものは拡大している

倒産件数と並べて見るべきなのが、市場規模です。厚生労働省の労働者派遣事業報告書の集計結果(令和6年度)では、派遣事業の売上高は9兆9,005億円で、前年度比9.4%増でした。

指標

令和6年度

方向

派遣事業の売上高

9兆9,005億円

前年度比9.4%増

派遣先件数

861,926件

前年度比7.9%増

実績のあった事業所

33,207事業所

届出43,812に対し約76%

労働者派遣業の倒産

82件(1〜11月)

前年同期比41.3%増

売上も派遣先件数も増えているなかで、倒産だけが増えています。需要が足りないわけではありません。市場規模の見通しは【2026年最新】人材派遣市場の規模と今後10年の成長予測を徹底分析に整理しています。

倒産原因の1位は「販売不振」で、人手不足ではない

ここは誤解されやすい部分です。2025年1〜5月の内訳では、倒産原因の1位は販売不振で35件、構成比66.0%でした。人手不足を直接の原因とする倒産は、1〜11月で10件にとどまります。

人手不足が原因の倒産は前年同期の4件から2.5倍に増えています。ただし82件のうち10件ですから、全体の1割強です。

販売不振という分類は、売上が立たなかったことを指します。案件がないのか、案件はあっても人を出せなかったのか、統計からは区別できません。ここは推測せず、数字のまま受け取るのが正しい読み方です。

「人手不足倒産」の数字と混ざりやすい

報道で目にする「人手不足倒産が過去最多」という見出しは、全業種の集計です。2026年度上半期は240件で、前年同期比17.0%増でした。

その内訳を見ると、産業別ではサービス業他が91件、建設業が55件で、2産業で60.8%を占めます。原因では人件費高騰が130件と全体の54.1%に達し、前年同期の1.7倍になりました。

この240件は派遣業だけの数字ではありません。自社の業界の話として読むときは、派遣業単体の82件と区別して扱ってください。

薄くなったコインの山の厚みをノギスで測っている担当者のイラスト

粗利から見ると、退出ラインはどこにあるか

ここからは自社に引きつけて考えます。令和6年度の集計では、派遣料金は1日8時間あたり26,257円、派遣労働者の賃金は16,735円でした。差額は9,522円で、料金に対する比率は36.3%です。

1事業所あたりの平均は、売上2億9,800万円、稼働66.3人です。この2つから逆算すると、稼働1人あたりの年間稼働は約171日に相当します。

以下は、売上1億円規模の事業所を想定した試算です。実際の数値は契約構成によって変わります。

項目

試算値

算出の考え方

年間売上

1億円

1億円未満が全体の57.7%

延べ稼働日数

約3,809人日

1億円÷26,257円

常時稼働人数

約22.3人

3,809人日÷171日

年間粗利

約3,627万円

3,809人日×9,522円

年3,627万円の粗利で、内勤の人件費、事務所費用、採用広告費、システム費用をすべてまかなう計算になります。内勤1人あたり年600万円と置けば、6人分で粗利を使い切ります。

この水準だと、採用広告費が月50万円増えただけで年600万円、内勤1人分が消えます。余力の薄さが、小規模層の倒産構成比に表れていると考えられます。

最低賃金が上がると、粗利はどれだけ削られるか

令和8年度の地域別最低賃金の目安は、全国加重平均で1,176円、引上げ率は4.9%でした。詳細は厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧で確認できます。

賃金16,735円が同じ率で上がると17,555円になります。料金を据え置いた場合、差額は9,522円から8,702円へ、8.6%縮みます。

以下は、延べ稼働日数を約3,809人日で固定したうえでの試算です。料金を転嫁した場合は売上も同じ率で増えます。

項目

据え置きの場合

4.9%転嫁した場合

派遣料金(1日)

26,257円

27,544円

賃金(1日)

17,555円

17,555円

差額

8,702円

9,989円

年間粗利(試算)

約3,315万円

約3,805万円

据え置けば粗利は3,627万円から3,315万円へ、312万円減ります。内勤0.5人分です。

逆に料金へ4.9%転嫁できれば、粗利は3,805万円で前年を上回ります。同じ賃上げでも、転嫁の可否で約490万円の差がつく計算です。

値上げ交渉の進め方は派遣会社が価格競争から抜け出す方法と差別化戦略、利益構造の見直しは派遣会社の利益率を改善する方法と見直すポイントで扱っています。

並んだ看板のうち四分の一ほどが倒れている様子を数えている担当者のイラスト

見落とされがちな論点:届出と実績の差

倒産統計には表れない退出もあります。令和6年度の集計では、届出のある事業所は43,812に対し、実績があったのは33,207事業所でした。

差の10,605事業所は、許可を持ちながら1年間の実績がなかったことになります。全体の約24%、およそ4社に1社です。

倒産は法的な手続きを踏んだ場合の数字です。実際には、休眠や事業譲渡、廃業届という形で静かに抜ける会社のほうが多いと考えられます。事業所数の動きは人材派遣会社の事業所数の推移と今後の増加予測【最新データ】にまとめています。

想定ケースで見る、残る会社と抜ける会社

ここまでの数字を使って、2つのケースを比べます。どちらも売上1億円、内勤4人の想定です。

A社は取引先を増やすことを優先し、料金は据え置いています。最低賃金が4.9%上がると粗利は3,315万円になり、内勤4人の人件費2,400万円を引いた残りは915万円です。ここから家賃と採用費を払うと、ほとんど残りません。

B社は取引先を絞り、2社に対して4.9%の料金改定を通しました。改定できた分が売上の半分だとすると、粗利は約3,560万円です。差は245万円で、採用広告費の約4か月分にあたります。

この差は営業件数ではなく、1社あたりの関係の深さから生まれています。中小派遣会社が大手に勝つための戦略|規模ではなく「選択と集中」で勝つの考え方と同じ方向です。

今日から確認できる3つの数字

倒産統計を自社に持ち込むなら、見るべき数字は多くありません。

見る数字

計算方法

判断の目安

1人1日あたりの差額

平均料金−平均賃金

9,522円と比べる

粗利率

差額÷料金

36.3%を下回っていないか

固定費カバー月数

手元資金÷月間固定費

3か月を切ると危険域

毎月見る指標の全体像は派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧に、売上と利益がずれる理由は派遣会社で売上が伸びても利益が残らない理由と対策に整理しています。

今日から実践するためのチェックリスト

  • 自社の平均料金と平均賃金を出し、差額を9,522円と比べる

  • 粗利率が36.3%を下回る契約を洗い出し、改定対象として並べる

  • 最低賃金の引上げ率を自社の賃金に当て、粗利の減少額を先に計算する

  • 手元資金を月間固定費で割り、何か月分あるかを把握する

  • 採用広告費を月単位で見て、内勤何人分にあたるかを換算する

  • 取引先ごとの粗利額を並べ、上位3社で何割を占めるかを確認する

まとめ

労働者派遣業の倒産は2025年1〜11月で82件、前年同期比41.3%増でした。一方で派遣事業の売上高は9兆9,005億円、前年度比9.4%増と伸びています。

増えているのは負債1億円未満、従業員5人未満の層の倒産です。原因の1位は販売不振で66.0%、人手不足を直接の原因とするものは10件でした。

そして届出43,812に対し実績は33,207事業所です。倒産統計に現れない退出のほうが、件数としては大きいと考えられます。

自社の立ち位置を測るなら、まず1人1日あたりの差額を出してください。9,522円という全国平均との距離が、最初の手がかりになります。成長段階ごとの打ち手は派遣会社が成長するための経営ロードマップの描き方にまとめています。

確認クイズ(FAQ)

Q1. 2025年1〜11月の労働者派遣業の倒産件数は何件でしょうか。

A. 68件
B. 82件
C. 95件

正解:B

解説:82件で前年同期比41.3%増です。68件は2024年の通年、95件は2009年の通年にあたります。

Q2. 2025年1〜5月の倒産原因で最も多かったものはどれでしょうか。

A. 人手不足
B. 販売不振
C. 設備投資の失敗

正解:B

解説:販売不振が35件で構成比66.0%でした。人手不足を直接の原因とする倒産は1〜11月で10件です。

Q3. 令和6年度に届出のある事業所のうち、実績があったのはおよそ何割でしょうか。

A. 約76%
B. 約90%
C. 約98%

正解:A

解説:届出43,812事業所に対し、実績があったのは33,207事業所です。約24%は1年間の実績がありませんでした。

ハケンバンクについて

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ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。自社だけでは接点を持ちにくい求人企業と出会う手段として、営業活動を補完する位置づけでご検討ください。

参考文献

・東京商工リサーチ「2025年1-11月の『労働者派遣業』倒産 82件」(2025年12月24日公表)

・東京商工リサーチ「2025年1-5月の『労働者派遣業』倒産53件」(2025年6月10日公表)

・東京商工リサーチ「『人材関連サービス業』の倒産、過去10年で最多」(2025年3月11日公表)

・東京商工リサーチ「年度上半期の『人手不足』倒産 過去最多の240件」(2026年10月5日公表)

・厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

・厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」

・労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)/e-Gov法令検索

この記事の監修者

山本 凌大

CLEAR INNOVATION株式会社代表取締役
大学在学中に「非常識を新常識に変える」をミッションに、CLEAR INNOVATION株式会社を創業。全国の派遣企業と求人企業を繋げる国内初のプラットフォーム「ハケンバンク」を提供。

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