
市場動向
2026/7/15
「派遣会社の倒産が増えている」というニュースを目にし、不安を感じた経営者や事業責任者も多いのではないでしょうか。
実際、近年は人材不足や人件費の上昇、営業コストの増加などを背景に、人材派遣会社の倒産件数は増加傾向にあります。一方で、同じ市場環境の中でも業績を伸ばしている派遣会社が存在することも事実です。
つまり、倒産件数の増加は「派遣業界そのものが衰退している」という単純な話ではありません。市場が縮小しているのではなく、業界の構造変化によって、生き残る会社と淘汰される会社の差が広がっていると捉えるべきでしょう。
この記事では、人材派遣業界の最新動向をもとに、倒産件数が増えている背景を整理するとともに、そのデータから読み取れる今後の市場環境を考察します。さらに、中小・中堅派遣会社が今後も成長するために、経営者がどのような判断をすべきかについて解説します。
目次
結論から言えば、派遣会社の倒産件数が増えていることは、必ずしも派遣需要の減少を意味しません。むしろ、人材不足が深刻化する中で、市場は拡大を続ける一方、競争環境が大きく変化していることを示しています。
帝国データバンクの調査では、労働者派遣業の倒産件数は近年増加傾向にあり、2025年には過去最多水準で推移しました。背景として挙げられているのは、派遣スタッフの確保難、賃上げへの対応、人件費の高騰、営業コストの増加などです。
一方で、製造業や物流、建設、介護など、多くの業界では依然として人材需要が高く、派遣ニーズが急激に減少しているわけではありません。つまり、「仕事がないから倒産している」のではなく、「仕事はあるが、人材を供給できない会社が市場から退出している」という構図が見えてきます。
この視点を持つことが、今後の経営判断では非常に重要です。
派遣会社の経営者は、「営業を強化して案件を増やせば売上が伸びる」と考えがちです。しかし現在は、その考え方だけでは成長できない時代になっています。
派遣事業の売上は、「求人件数」ではなく「稼働人数」で決まります。どれだけ受注を獲得しても、派遣スタッフを確保できなければ売上にはつながりません。
さらに、人材不足の状態で無理に案件を増やすと、営業担当者とコーディネーターの負荷が高まり、既存スタッフへのフォローが手薄になります。その結果、契約更新率の低下や早期離職が発生し、利益率が悪化するケースも少なくありません。
倒産した企業の個別事情はさまざまですが、公開されている市場データから見る限り、営業力だけではなく「人材供給力」が競争力を左右する時代へ移行していると考えることができます。
現在の派遣市場では、求人企業の意思決定も変化しています。
以前は、「どれだけ多くの派遣会社と取引しているか」が重視される場面もありました。しかし、人材不足が慢性化した現在では、「依頼して本当に人を紹介してもらえるか」が最も重要な判断基準になっています。
つまり、営業力だけで新規取引を増やすことは難しくなり、実際に人材を供給できる派遣会社へ案件が集中しやすい市場構造へ変化しています。
この変化は、中小派遣会社にとって不利とは限りません。大手企業のような広告費や知名度がなくても、地域密着で登録スタッフとの関係性を築き、特定職種に強みを持つ会社は、求人企業から高く評価されるケースがあります。
重要なのは、「何でも対応できます」という営業ではなく、「この職種なら安定して紹介できる」「この地域なら迅速に対応できる」という供給力を明確に示すことです。
その結果として、価格競争ではなく、供給品質による差別化が実現しやすくなります。これは、今後の派遣市場における大きな構造変化の一つといえるでしょう。
倒産件数を議論する際、多くの記事では「人材不足」や「競争激化」が原因として挙げられます。しかし、経営の現場ではもう一つ重要な論点があります。それは、売上が伸びても利益が残らない会社が増えていることです。
派遣料金を大きく引き上げにくい一方で、最低賃金の上昇や社会保険料、採用広告費などのコストは増え続けています。その結果、売上は前年を上回っているにもかかわらず、営業利益は減少しているというケースも珍しくありません。
だからこそ、経営者は売上だけを見るのではなく、「1人当たりの粗利」「採用コスト」「契約更新率」「営業1人当たりの稼働人数」といった利益に直結する指標を継続的に確認する必要があります。
確認すべき指標 | 確認する理由 |
|---|---|
稼働人数 | 売上の土台となるため |
契約更新率 | 安定収益を維持するため |
応募から就業までの転換率 | 採用効率を把握するため |
営業1人当たりの粗利 | 生産性を確認するため |
採用コスト | 利益率の悪化を防ぐため |
数字を個別ではなく、相互の関係で見ることが重要です。
例えば、同じ地域で事業を展開する2社を想定してみましょう。
A社は、新規営業を積極的に行い、多くの案件を獲得しています。しかし、登録スタッフが不足しているため充足率が低く、営業担当者は案件対応に追われています。その結果、既存スタッフへのフォローが遅れ、契約更新率も徐々に低下しています。
一方、B社は営業エリアや対応職種を絞り込み、登録スタッフの定着や紹介品質を優先しています。新規案件数はA社より少ないものの、求人企業から継続的な依頼を受け、紹介精度も高いため、利益率は安定しています。
これは架空のケースですが、現在の市場構造を考えると、後者のような経営スタイルは再現性のある戦略といえるでしょう。
「案件数を増やす」から「安定して供給できる案件を増やす」への発想転換が、今後ますます重要になります。
売上だけでなく粗利・契約更新率・採用コストも毎月確認する
自社が安定供給できる職種・エリアを明確にする
新規営業より既存顧客の追加受注とスタッフ定着率を見直す
営業とコーディネーターで求人・人材情報を共有する仕組みを整える
「案件数」ではなく「稼働人数」と「利益率」を経営会議の主要指標にする
派遣会社の倒産件数が増えている背景には、人材不足やコスト上昇だけではなく、市場構造そのものの変化があります。今後は「案件を持つ会社」よりも、「人材を安定して供給できる会社」が選ばれる時代になるでしょう。
中小派遣会社にとって重要なのは、大手と同じ土俵で競争することではありません。得意な職種や地域を明確にし、利益率を意識した経営へ転換することで、十分に競争力を高めることができます。
倒産件数は悲観するための数字ではなく、自社の経営を見直すための指標です。まずは、自社のKPIを確認し、「利益を生み続けられる事業構造になっているか」という視点から見直してみてはいかがでしょうか。
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帝国データバンク「人材派遣業者の倒産動向」(2025年)
厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(最新版)
厚生労働省「一般職業紹介状況」(最新版)
労働政策研究・研修機構(JILPT)「労働市場に関する各種調査」
この記事の監修者

山本 凌大
CLEAR INNOVATION株式会社代表取締役
大学在学中に「非常識を新常識に変える」をミッションに、CLEAR INNOVATION株式会社を創業。全国の派遣企業と求人企業を繋げる国内初のプラットフォーム「ハケンバンク」を提供。

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