
実務ノウハウ
就業して1か月も経たないうちに辞められてしまう。募集費も面談の時間もかけたあとで、また同じ案件を埋め直すことになります。
この記事では、30日以内の離職がフォロー不足ではなく「選んだ前提が崩れたこと」で起きると整理します。そのうえで、就業前に確定させる六つの条件と、初日から7日間の接触設計を具体的に示します。
目次
先に前提を確認します。日本人材派遣協会「2025年度 派遣社員WEBアンケート調査」(有効回答5,523人)によれば、派遣で働く人の72.2%は有期労働契約です。その契約期間は「3か月」が62.1%、「3か月未満」が12.1%でした。
有期契約の4分の3近くが、3か月以内の契約で始まっています。つまり30日というのは、最初の契約期間のおよそ3分の1にあたります。
この期間に辞めるということは、最初の契約すら満了しなかったということです。フォローで巻き返す時間はほとんどありません。防ぎ方は、就業前の設計に寄せるしかないのです。
契約が短いこと自体は、業界全体の構造でもあります。厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」では、派遣契約のうち3か月以内で終わるものが件数ベースで85.7%を占めます。短い契約を積み重ねる事業である以上、立ち上がりの失敗は売上に直接響きます。
早期離職の損失は、埋め直す手間だけではありません。金額に直してみます。
仮に、一人を就業させるまでの募集費が5万円、面談と手続きに担当者が3時間、その時間単価を2,500円とします。すると一人あたりの投下コストは約5万7,500円です。30日で辞められれば、この費用は回収できないまま、同じ案件をもう一度埋めることになります。
年間20件の早期離職があれば、約115万円が回収できずに消えている計算です。これに加えて、派遣先からの信用と、担当者が埋め直しに使う時間が失われます。
この金額はあくまで試算で、募集費も時間単価も会社ごとに違います。ただ、自社の数字を入れて一度計算しておくと、就業前の確認にどこまで手間をかけてよいかの判断がつきます。

では、なぜ人は派遣という働き方を選ぶのか。同じ調査の結果です。
派遣で働いている理由 | 割合 |
|---|---|
働く時間や時間帯を選べるため | 39.4% |
すぐに仕事に就けるため | 35.8% |
勤務地を選べるため | 35.7% |
やりたい職種や業務内容を選べるため | 34.8% |
働く時期や期間を選べるため | 32.0% |
希望する条件にあう仕事を派遣会社が探してくれるため | 25.6% |
賃金が高いため | 25.1% |
雇用保険・健康保険・厚生年金に加入できるため | 22.4% |
残業のある職場やない職場を選べるため | 20.9% |
担当する仕事の範囲が明確なため | 19.0% |
出典:日本人材派遣協会「2025年度 派遣社員WEBアンケート調査」(N=5,523、複数回答)。
上位5つのうち4つが「選べる」という言葉を含んでいます。時間、勤務地、職種、時期。派遣という働き方の価値は、条件が事前に確定していることそのものだと読めます。
だとすれば、就業後に条件が違っていた場合に何が起きるかは明らかです。単に不満が生じるのではなく、その仕事を選んだ前提が崩れる。だから30日以内でも辞める判断につながります。
賃金が高いためを理由に挙げた人は25.1%で、7位にとどまります。時給を上げれば定着するという発想が効きにくいのは、そもそも選ばれている理由が賃金ではないからです。条件のずれを時給で埋め合わせることは、構造上できません。
具体的に、どの条件がずれやすいのか。同じ調査から二つ挙げます。
一つは残業です。1週間あたりの平均残業時間を見ると、「残業なし」が63.6%、「1時間程度」が15.3%でした。6割以上が残業のない働き方をしています。
そして「残業のある職場やない職場を選べるため」を理由に挙げた人が20.9%います。残業の有無は、例外的な条件ではなく選択の前提です。「少しくらいの残業は普通」という感覚で説明すると、そこで前提が崩れます。
もう一つはテレワークです。テレワークで就業したことがある人は26.2%でした。ただし業務別に見ると差が極端です。IT技術・通信系では48.9%が経験している一方、製造・軽作業系では97.6%が「全くできない」と回答しています。
同じ会社が扱う案件でも、可否は業務によってまったく違います。求職者が前職や別案件の感覚で期待したまま就業すると、初週でずれが表に出ます。
この二つに共通するのは、派遣先にとっては当たり前すぎて説明されないという点です。説明されないから確認もされず、就業初日に初めて分かります。

労働者派遣法では、派遣元が派遣労働者に就業条件を明示することが求められています。法定の項目を満たすだけでなく、ずれやすい項目を先回りして潰しておくのが実務です。
条件 | ずれやすい理由 | 就業前にすること |
|---|---|---|
残業の有無と量 | 「基本なし」と「繁忙期あり」が混同される | 直近6か月の月別実績を数字で伝える |
業務範囲 | 派遣先が「ついでに」を想定している | 依頼されない業務も明記する |
指揮命令者 | 現場では別の人が指示を出している | 氏名と席の位置まで確認する |
通勤 | 最寄り駅からの所要時間が実測と違う | 実際の経路と時間を伝える |
テレワーク | 制度はあるが対象外の場合がある | 対象条件と開始できる時期を確認する |
休憩・設備 | 説明の対象から漏れやすい | 初日の動線を書面で渡す |
このうち、最も事故が多いのは残業と業務範囲です。どちらも派遣先の担当者が「わざわざ言うことではない」と考えている領域だからです。聞かなければ出てこない情報は、聞かれなかったという理由で伝わりません。
では、どう聞けば実績が出てくるのか。質問の形を変えるだけで、返ってくる情報は変わります。
残業を「どれくらいありますか」と聞くと、「月によりますね」で終わります。代わりに「直近6か月で、最も多かった月は何時間でしたか」と上限を聞いてください。平均ではなく最大値を押さえると、求職者に伝えるべき幅が決まります。
業務範囲は、否定形で聞くのが有効です。「お願いする業務」を聞くと一般的な説明が返ってきますが、「逆に、お願いしない業務はありますか」と聞くと境界線のほうが出てきます。境界が曖昧な領域こそ、就業後に「ついでに」が発生する場所です。
指揮命令者は、役職ではなく動きで聞きます。「初日、最初に声をかける方はどなたですか」「その方が不在のときは誰に聞けばよいですか」。契約書上の名前と、現場で実際に指示を出す人が違うケースは珍しくありません。
もう一つ、社内で起きやすい失敗があります。営業が派遣先から聞き取った条件が、コーディネーターへ伝わる過程で丸められることです。
「残業は月10時間程度」が「ほとんどありません」に変わって求職者へ届く。悪意はなく、短く伝えようとした結果です。しかし受け取る側にとっては、まったく違う条件になります。
条件は要約せず、聞いた表現のまま次の担当者へ渡してください。要約が入る回数だけ、ずれる確率は上がります。案件シートに「派遣先の言葉のまま」という欄を一つ設けるだけでも違います。面談で何を確認するかは「派遣スタッフとの初回面談で必ず確認すべき10項目」に整理しました。

条件を固めたうえで、最初の一週間をどう組むか。同じ事業報告によれば、1事業所当たりの稼働人数は66.3人です。担当者一人が抱える人数を考えれば、全員に手厚く回るのは現実的ではありません。だからこそ、最初の7日間に接触を集中させます。
タイミング | 誰が何をするか | 確認すること |
|---|---|---|
初日の始業前 | 担当者が現地または電話で立ち会う | 受付・入館・指揮命令者との顔合わせ |
初日の終業後 | 担当者から連絡する | 実際の業務内容/休憩の取り方/退勤時刻 |
3日目 | 担当者から連絡する | 指示の出し方/分からないことの聞き先 |
7日目 | 連絡または訪問する | 残業の実績/業務範囲のずれ/通勤の負担 |
初日の終業後の連絡では、「いかがでしたか」ではなく「何時に退勤されましたか」「休憩はどこで取られましたか」と事実を聞きます。退勤時刻が契約と違っていれば、それが最初のずれです。
7日目には「聞いていた業務と違うものはありましたか」と、はっきり尋ねてください。初日の対応そのものは「就業初日に派遣スタッフが辞めないための準備」で詳しく扱っています。
7日目を区切りにするのは、最初の給与計算の前だからです。勤怠や残業の記録が確定する前にずれを見つけられれば、修正は条件の話として済みます。給与が出てからだと、金額の話になってしまい、解決がむずかしくなります。
なお、7日目までにずれが一つも出てこないときも、そのまま安心しないほうがよいでしょう。言い出しにくいだけ、ということがあります。
そういうときは、「他の方からは、休憩場所が分かりにくいという話が出ています」と他者の事例を先に置いてから聞くと答えが出てきます。自分の不満として言うのではなく、すでにある話に乗る形にすると、口に出す負担が下がるからです。
同じ派遣先の同じ業務に、二人が同じ週に就業したとします。条件の説明内容は同じ、時給も同じでした。
Cさんには、営業が聞き取った「繁忙期は月15時間程度の残業がある」がそのまま伝わっていました。就業2週目に残業を頼まれたとき、聞いていた話の範囲内なので受けました。
Dさんには、同じ情報が「残業はほとんどありません」として伝わっていました。2週目に同じ依頼を受けたとき、話が違うと感じました。1週目の時点で担当者からの連絡がなかったこともあり、相談せずに契約満了前の辞退を申し出ています。
条件そのものは同じでした。違ったのは伝わった言葉と、ずれを言える相手がいたかどうかの二つだけです。これは構造を説明するための想定ケースですが、この二つは仕組みで揃えられます。
まず、直近1年で30日以内に離職した案件をすべて洗い出し、辞めた理由を先ほどの六つの条件に当てはめてみてください。どの条件に集中しているかが分かれば、直す場所は一つに絞れます。
次に、最も多かった条件について、口頭ではなく書面で渡す資料を用意します。残業が多いなら月別の実績表、業務範囲が多いなら「依頼されない業務」を含む一覧です。資料にすると、担当者が替わっても同じ説明ができます。
そのうえで、初日から7日目までの接触を担当者の予定に事前登録してください。就業決定の時点で4件の予定を入れてしまうのが確実です。忙しくなってから入れようとすると、必ず後回しになります。
最後に、30日以内離職率を月次の指標として出します。件数だけでは改善したかどうかが分かりません。分母を「当月に就業開始した人数」にそろえて率で追ってください。月次で何を見るべきかは「派遣会社の経営者が毎月確認すべき経営指標一覧」にまとめています。
有期契約が72.2%を占める以上、最初の一週間は契約全体の出来を決める期間です。更新率を上げる取り組みも、まずこの立ち上がりが前提になります。更新の実務は「契約更新率が高い派遣会社がやっていること」で扱っています。
・直近1年で30日以内に離職した案件を一覧化した
・離職理由を、残業・業務範囲・指揮命令者・通勤・テレワーク・設備の六つに分類した
・最も件数の多い条件を特定した
・その条件について、口頭ではなく書面で渡す資料を作成した
・主要な派遣先について、直近6か月の月別残業実績を入手した
・「依頼されない業務」を明記した業務範囲の説明書式を作成した
・案件シートに「派遣先の言葉のまま」を残す欄を設けた
・初日の始業前・終業後・3日目・7日目の接触を予定表に登録した
・初日の終業後に聞く質問を、事実ベースの文言で統一した
・30日以内離職率を、就業開始人数を分母として月次で算出した
就業30日以内の離職は、担当者の努力不足で起きているわけではありません。派遣という働き方が「条件を選べること」を前提に選ばれている以上、条件のずれは満足度の問題ではなく、選択の前提が崩れる問題になります。
まずは直近1年の早期離職を六つの条件に分類し、最も多い項目を一つだけ直してください。そのうえで、初日から7日目までの接触を予定として先に入れる。この二つで、防げる離職はかなりあるはずです。
Q1. 派遣で働く理由として最も多く挙げられているものはどれですか?
A. 賃金が高いため
B. 働く時間や時間帯を選べるため
C. 派遣会社による教育訓練を受けられるため
正解:B 解説:「派遣を選ぶ理由」の章のとおり39.4%で最多です。上位5つのうち4つが「選べること」に関する理由で、賃金が高いためは25.1%の7位でした(日本人材派遣協会「2025年度 派遣社員WEBアンケート調査」N=5,523)。
Q2. 派遣スタッフの残業について、調査はどのような実態を示していますか?
A. 1週間あたりの平均残業時間が「残業なし」の人が63.6%を占める
B. 大半が週10時間以上の残業をしている
C. 残業の有無は職場によって半々に分かれる
正解:A 解説:「見落とされている論点」の章で述べたとおりです。「残業のある職場やない職場を選べるため」を理由に挙げた人も20.9%おり、残業の有無は選択の前提になっています。
Q3. 就業3日目の連絡で、派遣先の指示系統について確認したいときの聞き方として適切なのはどれですか?
A. 「職場の雰囲気はいかがですか」と尋ねる
B. 「分からないことがあったとき、どなたに聞いていますか」と事実を尋ねる
C. 「問題ありませんか」と確認する
正解:B 解説:「初日から7日間の接触設計」の章のとおり、事実を尋ねると答えが具体的になります。契約上の指揮命令者と実際の指示者が違えば、そこで判明します。
条件のずれを減らすには、そもそも条件が明確な案件を扱えているかどうかが効いてきます。業務範囲や残業の実態まで確認できる求人企業との接点は、自社の営業だけでは増やしにくいものです。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。
・一般社団法人日本人材派遣協会「2025年度 派遣社員WEBアンケート調査結果」(2025年12月公表)
・厚生労働省「令和6年度労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)
この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム
ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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