
実務ノウハウ
「最近、少し元気がない気がする」。面談でそう感じても、確証が持てないまま次の月になる。気づいたときには、退職の申し出が来ている。
この記事では、モチベーション低下を気持ちではなく記録の変化と契約カレンダーから捉える方法を整理します。公的統計をもとに、見るべき五つの変化と、確認の言い方までを扱います。
目次
先に結論を書きます。モチベーション低下を「例外的な状態」として探すのをやめることです。
厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査」(派遣労働者調査の有効回答7,119人)を見てみます。今後の働き方について「派遣労働者以外の就業形態で働きたい」と答えた人は37.0%、「派遣労働者として働きたい」は34.2%でした。前者が上回っています。
しかも「派遣以外」と答えた人の74.3%は正社員を希望しています。登録型に限ると差はさらに開き、「派遣以外」が44.7%、「派遣として」が36.1%です。
別の方向を向いていること自体は、低下の兆候ではなく初期設定だと考えたほうが実態に合います。探すべきは「別の方向を向いているかどうか」ではなく、「その向きが強まった時点はいつか」です。

なぜそうなるのか。派遣で働いている理由を見ると構造がわかります。
派遣労働者として働いている理由 | 全体 | 登録型 |
|---|---|---|
自分の都合のよい時間に働きたいから | 30.8% | 40.7% |
正規の職員・従業員の仕事がないから | 30.4% | 40.1% |
家計の補助・学費等を得たいから | 18.6% | 24.3% |
専門的な技能等をいかせるから | 13.8% | 8.9% |
家事・育児・介護等と両立しやすいから | 11.7% | 18.0% |
出典:厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査」(複数回答)。
上位2つがほぼ同率で並んでいます。「自分の都合のよい時間に働きたい」は選んだ理由、「正規の職員・従業員の仕事がない」は選ばざるを得なかった理由です。満足の源と不満の源が、同じ数だけ存在しているということになります。登録型では後者が40.1%まで上がります。
この2つは、同じ出来事に逆の反応を示します。
たとえば残業の依頼です。都合のよい時間を理由に選んだ人にとっては、条件の変更にあたります。一方、正規の仕事がないことを理由に挙げた人にとっては、収入の機会になり得ます。同じ声かけが、人によって逆に働きます。
契約期間の話も同じです。「3か月ごとに見直せます」は、ある人には柔軟さの説明になり、別の人には不安定さの確認になります。一律のフォローでは、どちらに転んだのかが分かりません。
だからこそ、就業時に聞いた「選んだ理由」を記録に残しておく意味があります。理由が分かっていれば、同じ出来事でも伝え方を変えられます。面談で何を確認するかは「派遣スタッフとの初回面談で必ず確認すべき10項目」に整理しました。

もう一つ、見過ごされがちな事実があります。モチベーションが動くタイミングの多くは、あらかじめカレンダー上に存在しているということです。
同じ調査で、過去1年間に同一の組織単位での派遣就業期間が3年に到達した人は23.5%でした。そして個人単位の期間制限についての意見を聞くと、「制限は不要」が31.9%で最多。登録型では36.7%にのぼり、「今のままでよい」はわずか15.0%です。
つまり、労働者派遣法が定める抵触日は、多くの人にとって納得された期限ではありません。続けたいのに終わる日が決まっている。
この構造がある以上、抵触日、更新上限、無期転換の申込機会は、そのままモチベーションの変曲点になります。表情を観察するより、契約カレンダーを見るほうが早いのです。なお無期転換のルールは厚生労働省の無期転換ポータルサイトに整理されています。
教育訓練の状況も付け加えておきます。過去1年間に教育訓練を受けたことがある人は65.5%ですが、登録型では54.7%、登録型以外では75.7%と差があります。
将来の見通しをつくる手段が、登録型には届きにくい構造になっています。そして登録型は、もともと「正規の仕事がないから」を理由に挙げる割合が高い層でもあります。不安の強い層ほど、見通しをつくる機会が少ないという重なりがあるということです。
この重なりは、個々の担当者の努力では埋まりません。誰に教育訓練を割り当てるかという設計の問題です。登録型の稼働者に対して、年に一度は訓練の案内が届いているかを確認してください。
節目のうち、無期転換の申込機会は本人が気づきにくい項目です。抵触日は派遣先との契約に出てきますが、無期転換は自社との雇用契約の話だからです。
通算5年を超えた有期契約者には申込権が発生します。該当者が出る時期を一覧で持っておき、本人から聞かれる前にこちらから伝える運用にしてください。伝えずに過ぎると、後から知った本人との間に不信が残ります。

では何を見るか。以下は公開データから導ける考察であり、調査で確認された兆候の一覧ではありません。自社の記録で当てはまるかを確かめてください。
観測できる変化 | 背景として考えられること | 確認の仕方 |
|---|---|---|
返信の時間帯がずれる | 就業時間外に別の活動が入っている | 直近3か月の返信時刻を並べる |
有給の取り方がまとまる | 平日日中に予定が入っている | 取得申請の間隔と単位を見る |
質問が来なくなる | 職場に定着したか、関心が薄れたか | 質問の件数を月別に数える |
更新の話題に反応が薄い | 続ける前提が崩れている | 更新の意向確認への返答時間を記録する |
期限を本人から聞いてくる | 抵触日を意識し始めている | いつ誰から聞かれたかを残す |
共通しているのは、いずれも悪化ではなく「変化」だという点です。返信が遅いこと自体は問題ではありません。以前と違うことが情報になります。だからこそ、比較できる基準値がなければ何も見えません。
変化を見るには基準値が要りますが、長期間のデータは必要ありません。直近3か月分で足ります。
連絡の時刻なら、その3か月の返信時刻を並べて中央値を取る。質問件数なら、月ごとの件数を3つ並べる。これだけで、4か月目に起きたずれは見えます。
完璧な平均値を出そうとすると、集計そのものが負担になって続きません。粗くてよいので、同じ方法で毎月更新することのほうが大事です。基準値は、精度ではなく継続性で価値が決まります。
注意したいのは、最後の項目です。本人から期限を尋ねられたとき、多くの担当者は制度の説明として答えます。しかし質問の意図は制度ではなく、その先に何があるのかにあることが少なくありません。
制度だけ答えて終えると、答えは出たのに何も伝わらない状態になります。日付を伝えたうえで、「その後はどうされたいとお考えですか」と一つ返してください。
答えが返ってこなくても構いません。聞かれた側が考え始めることに意味があります。そして次の面談日をその場で決めておけば、考えた結果を聞く場が確保できます。
五つのうち、最初の二つは本人に聞かなくても分かる項目です。連絡記録と有給の申請履歴を見るだけで足ります。残りの三つは、面談の場で意識して拾う必要があります。
先に機械的に拾える二つで対象を絞り、そのうえで面談で残り三つを確認する。この順番にすると、全員に等しく時間をかけずに済みます。
記録は増やすほどよいわけではありません。三つに絞ります。
記録する項目 | 取り方 | 変化の読み方 |
|---|---|---|
連絡の時刻と間隔 | 送受信の日時をそのまま残す | 平均からのずれを月単位で見る |
本人からの質問件数 | 面談記録に件数欄を設ける | 前月比で半減したら確認する |
契約の節目 | 抵触日・更新上限・無期転換申込機会 | 3か月前を面談予定日として登録する |
確認の言い方も決めておきます。「やる気が落ちていませんか」と聞いても答えは返りません。事実と将来の二段で聞くのが実務的です。
「この3か月で、ご自身の仕事の内容は変わりましたか」と事実から入り、続けて「この先1年で、できるようになっておきたいことはありますか」と将来を聞く。後者に答えが出てこない場合、見通しが閉じている可能性があります。
同じ営業所のIさんとJさんを想定します。どちらも就業から10か月、どちらも直近2か月で本人からの質問が月3件から0件に減っていました。
Iさんの担当者は、質問件数の欄を見て気づきました。面談で「この3か月で仕事の内容は変わりましたか」と聞くと、手順が固まって聞くことがなくなった、という答えでした。続けて将来を聞くと、別の業務も覚えたいという話が出ます。派遣先に相談し、翌月から担当範囲が広がりました。
Jさんの担当者は、質問が来ないことを順調の証と受け取りました。面談でも「問題ありませんか」と聞いて「大丈夫です」で終えています。3か月後、Jさんは自分で見つけた直接雇用の仕事に移りました。
同じ「質問ゼロ」でした。違いは、それを変化として数えていたかどうかです。これは構造を説明するための想定ケースですが、件数の欄がなければ、そもそも減ったことに気づけません。
まず、稼働中の全員について、抵触日・更新上限・無期転換の申込機会が発生する日を一覧にしてください。3か月以内にその日が来る人が、今いちばん見るべき対象です。
次に、直近3か月の連絡記録から、一人ひとりの返信時刻と間隔の目安を出します。平均でかまいません。基準値がなければ、変化は判断できないからです。
そのうえで、面談記録に「本人からの質問件数」の欄を追加してください。数えるだけの欄ですが、数えていないものは減っても気づけません。
最後に、節目の3か月前を面談予定日として登録します。前もって置いておけば、変化が見えたときにすぐ話す場があります。
担当者差が出るのもここです。同じ社内でも、契約の節目を予定表に入れている人と、更新月になってから動く人がいます。後者は変化を見つけても打ち手を持てません。気づく力の差ではなく、気づける時期の差です。
就業初期の設計は「就業初日に派遣スタッフが辞めないための準備」と「就業30日以内に離職する派遣スタッフを減らす方法」で扱いました。
接触の回数設計は「派遣スタッフの就業後フォローは何回行うべきか」、更新時の進め方は「契約更新率が高い派遣会社が実践していること」にまとめています。
最後にもう一点。変化に気づける体制は、担当者が替わると途切れます。基準値も、節目の一覧も、前任者の頭の中にあると引き継がれません。記録の様式に組み込んでおけば、引き継ぎのたびにゼロに戻ることはなくなります。
なお、ここで挙げた変化はいずれも、確認の必要を示すだけで結論ではありません。質問が減ったからといって、意欲が落ちたとは限らないからです。変化は、話しかけるきっかけとして使ってください。兆候を根拠に判断すると、見当違いの対応になります。
・稼働中の全員の抵触日を一覧化した
・有期契約者について、更新上限の有無と内容を確認した
・無期転換の申込機会が発生する時期を一覧に加えた
・3か月以内に節目を迎える人を抽出した
・直近3か月の連絡記録から、返信時刻と間隔の目安を出した
・面談記録に「本人からの質問件数」の欄を追加した
・就業時に聞いた「派遣を選んだ理由」を記録に残す運用にした
・登録型の稼働者に教育訓練の案内が届いているかを確認した
・節目の3か月前を面談予定日として予定表に登録した
・「この先1年でできるようになりたいこと」を聞く項目を面談様式に加えた
モチベーション低下は、気持ちの問題として観察するには曖昧すぎます。多数派がもともと派遣以外を志向し、登録型では4割が正規の仕事がないことを理由に挙げている以上、低下は例外ではありません。
見るべきは表情ではなく、記録の変化と契約カレンダーです。まずは抵触日と更新上限を一覧にして、3か月以内に節目を迎える人を抜き出してください。話す相手が決まれば、対応は具体的になります。
Q1. 派遣で働く人の「今後の働き方の希望」について、調査はどのような結果を示していますか?
A. 「派遣労働者以外の就業形態で働きたい」37.0%が「派遣労働者として働きたい」34.2%を上回る
B. 8割以上が派遣を続けたいと回答している
C. ほぼ全員が正社員を希望している
正解:A 解説:「結論」の章のとおりです。「派遣以外」と答えた人の74.3%は正社員を希望しており、登録型では「派遣以外」が44.7%にのぼります(厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査」)。
Q2. 個人単位の期間制限について、登録型の派遣労働者はどう考えていますか?
A. 「制限は不要」36.7%に対し、「今のままでよい」は15.0%にとどまる
B. 大半が現行の3年制限に納得している
C. 「制限をもっと短くすべき」が最多
正解:A 解説:「見落とされている論点」の章で述べたとおりです。抵触日は、多くの人にとって納得された期限ではないことが読み取れます。
Q3. 稼働中のスタッフから「私の抵触日はいつですか」と聞かれました。適切な対応はどれですか?
A. 制度の仕組みと日付だけを正確に説明する
B. 日付を伝えたうえで、その後どうしたいかを本人に聞き、次の面談日を決める
C. 「まだ先の話ですよ」と伝えて終える
正解:B 解説:「期限を聞かれたときの答え方」で述べたとおり、期限の質問は制度の確認ではなく、その先の見通しについての質問であることが少なくありません。
見通しが閉じかけている人に次の選択肢を示せるかどうかは、手元にある案件の幅で決まります。抵触日が近いと分かっていても、提示できる先がなければ話は前に進みません。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。
・厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査の概況」(2024年2月公表、派遣労働者調査の有効回答7,119人)
・厚生労働省「有期契約労働者の無期転換ポータルサイト」(無期転換ルールの解説)
この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム
ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
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