
業界コラム
「派遣業界は二極化している」。この言葉は、業界の会合でも取引先との雑談でも、繰り返し聞こえてきます。大手が規模を伸ばし、中小は淘汰されていく。多くの人がそう理解しているはずです。しかし公的統計をていねいに見ていくと、実際に起きていることは少し違って見えます。減っているのは、中小ではありません。この記事では、勝ち組と負け組を分けるものを、規模別のデータと職種別の単価から考えます。

目次
先に結論から書きます。勝ち負けを分けているのは会社の大きさそのものではありません。扱っている職種の単価と、事業として成立する最小規模を超えているかどうか。この二つだと考えるほうが、データとよく整合します。規模が大きいから強いのではなく、単価の高い職種を扱えているから規模が大きく見えている。その順序のほうが実態に近いはずです。
厚生労働省の令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)によれば、労働者派遣の実績があった事業所は33,207カ所、業界全体の年間売上高は9兆9,005億円でした。この9兆円が、どのように分かれているのかから見ていきます。
売上高ランク別の事業所数を前年度と並べると、通説とは違う姿が現れます。最も伸びたのは年間売上10億円以上の層で、1,786カ所から1,985カ所へ11.1%増えました。ここまでは通説どおりです。しかし、年間1,000万円から5,000万円の層も9,134カ所から9,630カ所へ5.4%増えています。1億円から5億円の層も4.3%増でした。
年間売上高 | 令和5年度 | 令和6年度 | 増減 |
|---|---|---|---|
10億円以上 | 1,786カ所 | 1,985カ所 | +11.1% |
5億〜10億円 | 2,304カ所 | 2,389カ所 | +3.7% |
1億〜5億円 | 9,267カ所 | 9,669カ所 | +4.3% |
5,000万〜1億円 | 4,621カ所 | 4,863カ所 | +5.2% |
1,000万〜5,000万円 | 9,134カ所 | 9,630カ所 | +5.4% |
1,000万円未満 | 4,703カ所 | 4,671カ所 | ▲0.7% |
合計 | 31,815カ所 | 33,207カ所 | +4.4% |
出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和5年度・令和6年度)をもとに算出
減ったのは、年間売上1,000万円未満の層だけでした。つまり、消えているのは「中小」ではなく「事業として成立する規模に届いていない層」だということになります。年間1,000万円は、月商にすれば80万円あまり。稼働1〜2人という規模です。
この層は事業所数の14.1%を占めますが、売上の合計は多く見積もっても業界全体の0.5%に届きません。事業所数の7分の1が、売上の200分の1という構造です。淘汰という言葉が持つ響きの割に、業界全体への影響は小さいとも言えます。生き残る会社と消える会社の違いは派遣会社は淘汰の時代へでも整理しています。

では、規模の大きい会社は本当に強いのでしょうか。ここで一度、売上という指標そのものを疑ってみます。
同じ集計の職種別の派遣料金を見ると、8時間換算の平均は医師が113,054円、情報処理・通信技術者が34,382円、一般事務従事者が18,112円、生活衛生サービス職業従事者が14,474円でした。年間250日の稼働と仮定して、売上1億円をつくるのに必要な稼働人数を計算すると、次のようになります。
職種 | 派遣料金(8時間換算) | 1人当たり年間売上 | 売上1億円に必要な稼働人数 |
|---|---|---|---|
医師 | 113,054円 | 約2,826万円 | 約4人 |
情報処理・通信技術者 | 34,382円 | 約860万円 | 約12人 |
一般事務従事者 | 18,112円 | 約453万円 | 約22人 |
介護サービス職業従事者 | 16,282円 | 約407万円 | 約25人 |
生活衛生サービス職業従事者 | 14,474円 | 約362万円 | 約28人 |
出典:派遣料金は厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和6年度)。年間250日稼働として編集部が試算
同じ1億円でも、必要な稼働人数は4人と28人で7倍の開きがあります。売上規模のランキングは、実力のランキングというより、職種構成のランキングに近いということです。規模をめぐる議論の見え方は、これでかなり変わります。専門特化か総合型かという問いについては、派遣会社は専門特化と総合型どちらを目指すべきかでも扱っています。
規模の議論から抜け落ちやすいものが、もう一つあります。この業界は、在庫を長く持てないという点です。
同じ集計によると、派遣契約の期間は3か月以内が85.7%を占め、うち1日以下が25.7%でした(いずれも件数ベース)。契約の大半が短期で、四半期ごとに入れ替わっていきます。規模の大きさは、登録者プールという在庫の厚みを意味しますが、在庫は動かせなければ売上になりません。1事業所当たりの登録者数は226.7人、稼働は66.3人ですから、登録者の7割は動いていない計算です。
日本人材派遣協会の2025年度 派遣社員WEBアンケート調査では、現在の派遣会社から就業している理由の1位が「希望に合った条件(勤務地・賃金)の仕事の紹介をしてくれるから」で38.1%でした。スタッフが見ているのは会社の規模ではなく、紹介される案件の中身です。この一点において、小さな会社も大手と同じ土俵に立てます。地域に根ざした戦い方は地域密着型の派遣会社が生き残る経営戦略も参考になります。
逆に、苦しくなっていく会社にはいくつかの共通点があるように見えます。これは事業構造から導ける推論ですが、単価の低い職種に偏っていること、稼働人数が少なく固定費を賄いきれないこと、そして業務が特定の担当者に依存していることの三つです。
この三つは連鎖します。単価が低ければ人数で稼ぐしかなく、人数が増えれば管理工数が増え、工数が増えれば業務は担当者個人に貼りついていく。そして属人化した組織は、担当者が辞めた瞬間に稼働ごと失います。帝国データバンクの人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)では、「人材派遣・紹介」業種で非正社員が不足すると回答した企業が60.0%と全業種で最も高くなっています。人を増やして解決する道が細くなっている以上、この連鎖は自力で断つほかありません。
考察を実務に落とすなら、最初にやるのは自社の売上を職種別に分解することです。職種ごとの売上と稼働人数を並べ、一人当たりの年間売上を出してください。単価の低い職種に人数が偏っているなら、規模を追っても利益は増えにくいことがその場で分かります。

次に、登録者のうち直近1年で一度でも稼働した人の割合を出します。この比率が低ければ、在庫は厚くても回っていないということです。そのうえで、単価の低い職種の売上比率を確認してください。令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安では、全国加重平均が1,176円と前年度から4.9%引き上げられる水準が示されました。単価の低い職種ほど、この上昇分を吸収する余地は小さくなります。勝ち負けは、こうした毎年の小さな差が積み重なった結果として現れるのだと思います。
直近1年の売上を職種別に分解し、構成比を算出した
職種ごとの稼働人数を数え、一人当たりの年間売上を出した
一人当たり年間売上が全社平均を下回る職種を洗い出した
登録者のうち直近1年で一度でも稼働した人の割合を算出した
契約期間が3か月以内の案件が売上に占める比率を確認した
単価の低い職種について、最低賃金改定後の粗利を試算した
担当者が退職した場合に失う稼働人数を、担当者別に把握した
自社の年間売上が、どの売上規模ランクに位置するかを確認した
派遣業界の勝ち負けは、規模の大小ではなく、扱う職種の単価と在庫の回転で決まっている。統計を並べていくと、そう読むほうが自然に見えてきます。消えているのは中小ではなく、事業として成立する規模に届かなかった層でした。
自社がどちらへ向かっているかを知るには、売上を職種別に分解し、一人当たりの年間売上を出すのが近道です。規模を追う前に、どの職種でどれだけ稼げているのかを確かめる。順番としては、それで十分だと思います。
本文文字数:2,583文字
Q1. 令和5年度から令和6年度にかけて、売上高ランク別の事業所数で唯一減少したのはどの層ですか?
A. 年間売上1,000万円未満の層
B. 年間売上1億円から5億円の層
C. 年間売上10億円以上の層
正解:A
解説:「二極化の正体」の章のとおり、1,000万円未満のみ4,703カ所から4,671カ所へ0.7%減り、他の層はすべて増加しました(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和5年度・令和6年度)。
Q2. 売上1億円をつくるのに必要な稼働人数は、職種によってどの程度変わりますか?
A. 職種による差はほとんどない
B. 医師で約4人、生活衛生サービス職業従事者で約28人と、7倍程度の差がある
C. どの職種でもおおむね10人前後で変わらない
正解:B
解説:「『売上規模=実力』という誤解」の章のとおり、8時間換算の派遣料金が医師113,054円、生活衛生サービス職業従事者14,474円であるため、年間250日稼働で試算すると必要人数は大きく異なります(厚生労働省、令和6年度)。
Q3. 自社の売上のうち、単価の低い職種が大きな比率を占めていると分かった場合、まず何を確認すべきですか?
A. 競合他社の売上規模ランキング
B. 最低賃金改定後にその職種の粗利がいくら残るかの試算
C. 登録者数を増やすための広告費の追加額
正解:B
解説:「今日からできる改善策」の章で述べたとおり、単価の低い職種ほど賃金上昇分を吸収する余地が小さいため、改定後の粗利を先に試算しておく必要があります。令和8年度の目安は全国加重平均1,176円(前年度比4.9%増)です。
職種の構成を変えようとすると、必要になるのは自社がまだ扱えていない領域の案件です。新しい職種の案件を自社の営業だけで開拓するには時間がかかるため、外部の仕組みを併用する選択肢もあります。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。自社だけでは接点を持ちにくい求人企業と出会う手段として、営業活動を補完する位置づけでご検討ください。
厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)
厚生労働省「令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」(2025年)
一般社団法人日本人材派遣協会「2025年度 派遣社員WEBアンケート調査結果」(2025年12月公表)
厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申)
株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月19日公表)
この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム
ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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