
業界コラム
派遣という働き方は、長く「雇用の調整弁」と呼ばれてきました。景気が悪くなれば真っ先に切られる仕組み、という受け止め方です。しかし公的統計を地域別に開いてみると、いま社会が派遣会社に求めているものは、まったく別のところにあるように見えてきます。この記事では、派遣労働者がどこで増え、どこで増えていないのかを手がかりに、社会から求められている役割を考えます。

目次
先に結論を書きます。社会が派遣会社に求めているのは、人手が足りない場所へ働く機会を届けることです。ところが現実には、派遣という仕組みは人が集まりやすい都市部でこそ発達しています。求められている役割と、実際に機能している場所がずれている。ここが、いまの業界が抱えている構造的な課題だと考えます。
厚生労働省の令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)によれば、稼働している派遣労働者は2,199,639人でした。このうち南関東が912,321人。稼働の4割超が、一つの地域ブロックに集まっている計算になります。
偏りは、水準だけでなく変化にも表れます。令和5年度から令和6年度にかけて、全国の派遣労働者は2,117,038人から2,199,639人へ、82,601人増えました。このうち南関東だけで59,403人。増加分の71.9%が南関東で発生していることになります。
地域ブロック | 令和5年度 | 令和6年度 | 増減 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|
南関東 | 852,918人 | 912,321人 | +59,403人 | 41.5% |
近畿 | 351,260人 | 365,582人 | +14,322人 | 16.6% |
東海 | 313,452人 | 320,555人 | +7,103人 | 14.6% |
九州 | 163,967人 | 163,710人 | ▲257人 | 7.4% |
北関東・甲信 | 146,228人 | 148,900人 | +2,672人 | 6.8% |
東北 | 88,474人 | 88,875人 | +401人 | 4.0% |
中国 | 75,469人 | 73,233人 | ▲2,236人 | 3.3% |
北陸 | 50,865人 | 53,406人 | +2,541人 | 2.4% |
北海道 | 48,547人 | 47,118人 | ▲1,429人 | 2.1% |
四国 | 25,858人 | 25,939人 | +81人 | 1.2% |
全国 | 2,117,038人 | 2,199,639人 | +82,601人 | 100.0% |
出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和5年度・令和6年度)をもとに算出
一方で、北海道は1,429人、中国は2,236人、九州は257人減っています。人手不足が語られ続けている地方で、派遣労働者はむしろ減っている。この事実は、業界の中でもあまり共有されていないように思います。エリア展開の考え方は「派遣会社が営業エリアを拡大すべきタイミングと判断基準」でも整理しています。
もう一段深く見ると、さらに大きな差が現れます。登録者のうち実際に稼働している人の割合、いわば登録が仕事に変わる率です。
地域ブロック | 登録者数 | 稼働人数 | 稼働化率 |
|---|---|---|---|
北陸 | 87,905人 | 53,406人 | 60.8% |
中国 | 133,686人 | 73,233人 | 54.8% |
北関東・甲信 | 288,030人 | 148,900人 | 51.7% |
(全国) | 7,528,323人 | 2,199,639人 | 29.2% |
近畿 | 1,431,956人 | 365,582人 | 25.5% |
南関東 | 3,815,159人 | 912,321人 | 23.9% |
北海道 | 266,752人 | 47,118人 | 17.7% |
出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和6年度)をもとに算出
全国平均は29.2%ですが、北陸は60.8%、北海道は17.7%と3倍以上の開きがあります。南関東は23.9%で、登録者3,815,159人に対して稼働は912,321人にとどまりました。なおこの登録者数は事業所ごとの報告を足し合わせたもので、複数社に登録している人は重複して数えられています。都市部ほど重複は多いはずですから、水準そのものより差の大きさに注目してください。
そしてこの差は、労働需給と重なります。労働政策研究・研修機構の都道府県別にみた有効求人倍率によれば、令和7年度の就業地別で最も高いのは福井県の1.74倍、最も低いのは大阪府の0.96倍でした。人手が足りない地域ほど、登録が仕事に変わっているわけです。
では、なぜ派遣会社は人が余っている都市部に集まるのか。理由は、収益構造から説明できます。
派遣事業は、拠点の固定費を稼働人数で割って採算を取る商売です。同じ集計では、1事業所当たりの派遣先件数は26.0件、稼働人数は66.3人でした。案件が地理的に散らばるほど、一人当たりの管理工数は増えていきます。案件密度の高い都市部のほうが、拠点を成立させやすい。労働者派遣事業の売上が5億円未満の事業所は全体の86.8%を占めますから、多くの会社にとって拠点の採算は死活問題です。この偏りは誰かの怠慢ではなく、構造がもたらした結果だということになります。

そのうえで、社会の側は何を期待しているのでしょうか。整理すると三つあります。一つ目は、正社員という形では働けない人に、働ける入口を用意すること。二つ目は、人が余る地域や産業から、足りない側へ労働を移していくこと。三つ目は、雇用主としての責任を一社に集約し、働く人の保護を担保することです。
帝国データバンクの人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)では、正社員が不足していると回答した企業が50.6%にのぼりました。人手不足は放っておけば市場が解決してくれる、という前提はもう成り立ちません。労働を動かす担い手が要ります。そしてその役割を制度的に担える事業者は、派遣会社のほかにそう多くないはずです。人材不足を追い風と呼べるかどうかは、「「人材不足」は派遣会社にとって本当に追い風なのか」でも考えています。
考察を実務に落とすなら、最初にやるのは自社の登録者を地域別に並べることです。登録者数と稼働人数を市区町村単位で出し、稼働化率を計算してください。都市部で登録だけが積み上がっているなら、そこに広告費をかけても増えるのは登録者の数だけです。

次に、自社の商圏の有効求人倍率を確認します。令和7年度の全国平均は1.20倍でしたから、これを上回る地域を抱えているなら、そこは案件があって人が足りない地域です。登録者が薄いまま案件だけが増えても充足はできませんが、逆に登録だけが厚い地域に人を集め続けても稼働は増えません。地域に根ざした戦い方は「地域密着型の派遣会社が生き残る経営戦略」が参考になります。
登録者数と稼働人数を、市区町村または営業所単位で集計した
地域ごとの稼働化率を算出し、社内の平均と比較した
稼働化率が低い地域について、案件不足か条件不一致かを切り分けた
自社の商圏に含まれる都道府県の有効求人倍率を確認した
全国平均を上回る地域で、自社の稼働人数が何人いるかを数えた
登録から6か月以上稼働していない登録者の人数を把握した
拠点ごとの案件密度(1人当たりの担当派遣先件数)を算出した
遠隔地の案件を管理する場合の追加工数を、金額で見積もった
派遣という仕組みは、人が余る場所で最も発達し、人が足りない場所では薄いままでした。増加分の約7割が南関東で起き、地方の一部では稼働人数がむしろ減っている。統計はそう語っています。
社会から求められている役割は、この分布を少しずつ変えていくことにあると思います。もちろん一社でできることには限りがあります。それでも、まずは自社の登録者と稼働を地域別に並べ、どこで機能していてどこで機能していないのかを確かめる。議論はそこからしか始まりません。
Q1. 令和5年度から令和6年度にかけての派遣労働者の増加について、地域別ではどのような傾向が見られますか?
A. 全国にほぼ均等に分散して増えている
B. 全国の増加分82,601人のうち、約7割にあたる59,403人が南関東で発生している
C. 地方のほうが都市部より大きく増えている
正解:B
解説:「データが示す偏り」の章のとおり、増加分の71.9%が南関東です。一方で北海道・中国・九州は前年度から減少しました(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和5年度・令和6年度)。
Q2. 登録者のうち実際に稼働している人の割合は、地域によってどの程度違いますか?
A. ほとんど差はない
B. 全国平均29.2%に対し、北陸60.8%、北海道17.7%と3倍以上の開きがある
C. 都市部のほうが高い
正解:B
解説:「見落とされている論点」の章で述べたとおりです。ただし登録者数は複数社への登録が重複して数えられている点に注意が必要です(厚生労働省、令和6年度)。
Q3. 自社の登録者が都市部に偏り、その地域の稼働化率が低いと分かった場合、まず検討すべきことはどれですか?
A. その地域の広告費をさらに増やし、登録者数を積み増す
B. 稼働化率が低い原因が案件不足なのか条件の不一致なのかを切り分ける
C. 登録者リストを整理して削除する
正解:B
解説:「今日からできる改善策」の章のとおり、登録だけが厚い地域に人を集め続けても稼働は増えません。原因の切り分けが先になります。
稼働化率の低い地域を動かすには、その地域で新しい案件を開拓する必要があります。とはいえ、拠点のない地域や接点の薄い企業に自社の営業だけで届くとは限りません。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。自社だけでは接点を持ちにくい求人企業と出会う手段として、営業活動を補完する位置づけでご検討ください。
厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)
厚生労働省「令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」(2025年)
労働政策研究・研修機構「都道府県別にみた有効求人倍率」(ビジネス・レーバー・トレンド 2026年4月号)
厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年3月分及び令和7年度分)」(2026年)
株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月19日公表)
この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム
ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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