なぜ派遣会社は価格競争から抜け出せないのかを考察

業界コラム

2026/9/15

なぜ派遣会社は価格競争から抜け出せないのかを考察

「値段で選ばれる商売から抜け出したい」。派遣会社の経営者から、この言葉を聞かない年はありません。品質で選ばれる会社になろう、と社内で号令をかけた経験のある方も多いはずです。それでも数年たつと、また同じ相談に戻ってくる。個社の努力が足りないからではなく、価格競争が起きやすい構造がこの業界にあるからだと考えられます。この記事では、その構造を三つに分けて考えます。

派遣料金と賃金の差である36.3%という数字を、虫めがねが覗き込んでいる図(厚生労働省 令和6年度)。派遣会社の粗利率が外から見える状態にあることを表している。

目次

結論:値段以外に比べられるものが少なく、しかも粗利が見えている

先に結論を書きます。派遣事業が価格競争になりやすいのは、買い手から見て値段以外に比べられるものが少ないからです。そしてもう一つ、粗利の水準が制度として公開されているという、他業種にはあまりない条件があります。

厚生労働省の令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)によれば、派遣料金(8時間換算)の平均は26,257円、派遣労働者の賃金は16,735円でした。差額は9,522円で、料金に対する比率は36.3%になります。この比率が、業界の外からも見える数字として存在している。まずはこの事実から出発したいと思います。

なぜ値段でしか比べられないのか──買い手は事前に品質を測れない

一つ目の理由は、商品の性質にあります。派遣という取引で買い手が受け取るのは、まだ働いていない人の労働力です。実際の働きぶりは、就業が始まってからでないと分かりません。買い手は事前に品質を評価できないまま、選ばなければならないことになります。

このとき比較材料になるのは、価格と、過去の取引実績と、担当者の印象くらいです。新規の取引であれば、実質的に価格しか残りません。

供給側の同質性も効いています。労働者派遣の実績があった事業所は33,207カ所。どの会社も同じ許可制度のもとで、同じ社会保険料率を負担し、似た職種を扱っています。原価構造がほぼ同じ事業者が3万社以上並んでいれば、差がつくのは値段になります。

品質が測れない、原価が横並び、粗利が見えるという3つの要因が、矢印で価格という1点に集約されることを示した図。

見落とされている論点──粗利が公開されている商売である

二つ目の理由は、制度そのものにあります。派遣元事業主には、労働者派遣法に基づいてマージン率などの情報提供が義務づけられています。では、実際にどれだけ公開されているのでしょうか。

情報提供の方法

事業所数

提出事業所に占める割合

インターネットの利用

33,942カ所

77.5%

書類の備え付け

20,405カ所

46.6%

その他

1,455カ所

3.3%

出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和6年度)。複数回答のため合計は100%になりません

インターネットで情報提供している事業所は33,942カ所。提出事業所の77.5%が、自社のマージン率をウェブ上に置いていることになります。書類の備え付けによる提供も46.6%ありました。

ここが、他業種とかなり違う点です。仕入原価と粗利率が広く公開されている商売は、そう多くありません。買い手は交渉に入る前から、相手の粗利をおおよそ把握できます。値引き交渉が「あといくら削れるか」から始まる構造が、制度としてできあがっているということです。もちろんこの制度は派遣労働者の保護を目的としたもので、その意義は別の話です。ただ、価格競争が起きやすい土壌をつくっている面は否定できません。

価格の土俵から降りている会社は何が違うのか

では、値段以外で選ばれている会社はあるのか。同じ集計の中に、一つの手がかりがあります。雇用形態別の派遣料金です。

派遣料金(8時間換算)

令和5年度

令和6年度

全業務平均

25,337円

26,257円

無期雇用派遣労働者

26,194円

27,063円

有期雇用派遣労働者

21,307円

22,226円

無期が有期を上回る割合

22.9%

21.8%

出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」(令和5年度・令和6年度)をもとに算出

令和6年度の派遣料金は、無期雇用の派遣労働者で27,063円、有期雇用で22,226円でした。無期のほうが21.8%高い計算になります。人を先に採用し、教育し、責任を持って送り出す形にすると、単価はこれだけ変わるということです。

ただし前年度の差は22.9%でしたから、開きはわずかに縮んでいます。この道も、放っておけば競争に飲み込まれていく。職種構成そのものを変える選択肢については、「派遣会社は専門特化と総合型どちらを目指すべきか」でも扱っています。

開示を守りではなく武器にする

三つ目は、制度への向き合い方です。マージン率の公開は、多くの会社にとって守りの作業になっています。決められた項目を、決められた形で載せる。それで終わりです。

しかし率だけを見せれば、当然「高い」と映ります。実際には、その中から社会保険料の事業主負担分、有給休暇中の賃金、教育訓練の費用が支払われています。同じページに内訳を並べれば、同じ数字でも意味は変わります。

そして原価は今後も上がります。令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安では、全国加重平均が1,176円と前年度から4.9%引き上げられる水準が示されました。賃金が上がれば、法定福利費も同じ率で増えます。この事実を平時から共有できている会社と、値上げのたびに一から説明を始める会社では、交渉の入り口がまるで違ってきます。

今日からできる改善策

まず、自社が公開しているマージン率のページを開いてみてください。率だけが載っているなら、そこに内訳を一枚加えるところから始められます。法定福利費、有給休暇、教育訓練、募集費。どれも実際に発生している費用です。

自社の開示ページの確認、粗利の内訳の追加、価格以外の価値の言語化、原価情報の事前共有へと進む4ステップの手順図。

次に、主要な派遣先ごとに、価格以外の提供物を書き出します。フォローの頻度、代替要員の手配実績、トラブル対応の記録。言語化されていない価値は、交渉の場では存在しないのと同じです。加えて、帝国データバンクの人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)では、「人材派遣・紹介」業種で非正社員が不足すると回答した企業が60.0%と全業種で最も高くなっています。人が集めにくくなるほど、安く受けた案件は充足できないまま残ります。既存顧客との向き合い方は「派遣営業は新規開拓と既存深耕どちらを優先すべきか」も参考になります。

今日から実践するためのチェックリスト

  • 自社が公開しているマージン率のページを実際に開いて確認した

  • 公開している率の内訳(法定福利費・有給・教育訓練・募集費)を算出した

  • 内訳を添えた説明資料を1枚作成し、提案書に同梱できる形にした

  • 主要な派遣先ごとに、価格以外に提供しているものを書き出した

  • 過去1年の代替要員手配やトラブル対応の件数を記録から拾い出した

  • 無期雇用と有期雇用で、自社の平均単価がどれだけ違うかを算出した

  • 最低賃金の改定による原価増を試算し、派遣先へ事前に共有する日程を決めた

  • 価格のみを理由に失注した案件を、直近1年分リストにした

まとめ

価格競争から抜け出せないのは、誰かが安売りをしているからではありません。買い手が事前に品質を測れないこと、原価構造が横並びであること、そして粗利が公開されていること。この三つが重なっている以上、話が値段に向かうのは自然な帰結です。

だとすれば、打ち手は「値引きに耐える」ことではなく、比べられる材料を価格以外に増やすことになります。まずは自社の開示ページに内訳を足す。そこからでも、交渉の景色は少しずつ変わりはじめるはずです。料金水準そのものの見通しは、「人材派遣市場は価格競争に向かうのか」もあわせてご覧ください。

確認クイズ(FAQ)

Q1. 派遣元事業主によるマージン率などの情報提供について、令和6年度の集計はどのような状況を示していますか?
A. インターネットで情報提供している事業所は全体の1割程度にとどまる
B. インターネットで情報提供している事業所は33,942カ所、提出事業所の77.5%にあたる
C. 情報提供は任意であり、公開している事業所はほとんどない

正解:B
解説:「見落とされている論点」の章のとおりです。書類の備え付けによる提供も46.6%ありました(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和6年度、複数回答)。

Q2. 雇用形態別の派遣料金について、令和6年度の集計はどうなっていますか?
A. 無期雇用が27,063円、有期雇用が22,226円で、無期が21.8%高い
B. 無期雇用と有期雇用で単価に差はない
C. 有期雇用のほうが高い

正解:A
解説:「価格の土俵から降りている会社は何が違うのか」の章で述べたとおりです。ただし前年度の差は22.9%で、開きはわずかに縮んでいます(厚生労働省、令和5年度・令和6年度)。

Q3. 派遣先から値下げを求められたとき、価格以外の材料を用意する第一歩として適切なのはどれですか?
A. 公開しているマージン率の内訳を示し、何にいくら使っているかを説明する
B. マージン率の公開ページを目立たない場所へ移す
C. 他社より安い金額を先に提示する

正解:A
解説:「開示を守りではなく武器にする」の章のとおり、率だけでは「高い」としか映りません。内訳を添えることで、同じ数字の意味が変わります。

ハケンバンクについて

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参考文献

  • 厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

  • 厚生労働省「令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果」(2025年)

  • 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)/e-Gov法令検索

  • 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日答申)

  • 株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(2026年5月19日公表)

この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム

ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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