派遣営業は新規開拓と既存深耕どちらを優先すべきか

求人開拓・営業

2026/8/18

派遣営業は新規開拓と既存深耕どちらを優先すべきか

新規開拓と既存深耕のどちらに営業資源を割くべきか。この問いには前提の見直しが必要です。結論から言えば、優先すべきは既存深耕です。ただし「既存だけでよい」という意味ではありません。派遣営業の本当の制約は案件の数ではなく、人材を供給できる力にあるからです。この構造を理解すると、優先順位も追うべき数字も変わります。

目次

結論:既存を深め、新規は「充足できる領域」に絞る

派遣営業でまず優先すべきは、すでに取引のある派遣先の深耕です。別部署や別職種への横展開、契約更新、単価の見直しは、新規開拓より成約率が高く、粗利も残りやすいからです。一方で、既存に偏りすぎると、顧客の集中リスクや単価の据え置きという上限に突き当たります。そこで新規は、自社が確実に人を出せる職種やエリアに絞って併走させます。判断の軸は「受注できるか」ではなく「充足できて粗利が残るか」です。

労働者派遣の実績のあった事業所は全国で約3万3千所あり、そのうち年間売上1億円未満が約6割を占めます(厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」)。限られた人数で新規と既存を両立させる中小派遣会社にとって、営業資源の配分は利益を左右する経営判断です。

なぜ「新規か既存か」で迷い続けるのか

迷いの根本は、派遣営業が一般的な法人営業と制約構造が異なる点にあります。派遣会社が売るのはモノではなく人の稼働です。どれだけ受注しても、就業できる人材を充足できなければ売上はゼロで、「頼んだのに出せない会社」という評価だけが残ります。営業の成果は常に自社の人材供給力に制約され、ここが一般営業との決定的な違いです。

さらに、人材が採りにくい市場環境がこの制約を強めています。有効求人倍率は1.18倍(厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」)で、求職者より求人が多い状態が続きます。人が採れないなか新規だけを追えば、受注と充足の差は開きます。営業が属人化しやすいのも、この「取れるが出せない」板挟みを担当者が抱えるためです。営業手法の整理は「派遣会社が新規案件を獲得する営業手法」も参考になります。

収益構造から見ると、新規と既存では粗利が違う

新規と既存の差は、粗利の残り方に最もはっきり表れます。派遣料金の平均は8時間換算で26,257円、賃金は16,735円です(厚生労働省 労働者派遣事業報告書の集計結果)。この差額から社会保険料や募集費、管理費、利益をまかないます。新規案件は募集・面談・初期フォローの立ち上げコストが重く、稼働が安定するまで粗利はほとんど残らず、初月は赤字の案件も珍しくありません。

一方、既存の更新や横展開はコストが小さく、限界的な粗利率が高くなります。「売上は増えても利益が残らない」のは、立ち上げコストの重い新規ばかりを回し、稼働の継続で稼ぐ設計になっていないためです。発注側の事情も後押しします。派遣先の担当者にとって取引会社を増やすのは管理の手間で、実績ある1社に追加で頼むほうが安心だからです。1事業所が取引する派遣先は平均26.0件にとどまり(令和6年度・同報告)、既存に横展開の余地が残る会社は少なくありません。

見落とされがちな論点:営業を「案件数」で評価していないか

議論が噛み合わない最大の原因は、営業の成果を受注件数で測っていることです。受注を100件集めても充足が30件なら、残り70件は期待を裏切り、コーディネーターの工数を奪うだけです。見るべきは案件数ではなく、充足率と案件ごとの粗利です。

もう一つ見落とされやすいのが、既存深耕にも上限があるという点です。派遣契約は短期の反復更新が中心で、期間別にみると3か月以下が8割を超えます(令和6年度・同報告)。更新前提の構造だからこそ既存深耕は効きますが、同一組織単位への派遣期間の制限(抵触日)、長期取引による単価据え置き、1社依存の与信リスクも伴います。既存を深めつつ、集中リスクを新規で分散する順序で考える理由がここにあります。

想定ケースで見る、成功と失敗の分かれ目

想定ケースで判断の違いを見てみましょう。失敗しやすいのは、営業目標を受注件数に置き、新規テレアポを増やし続けるパターンです。受注は増えても充足できず納品が滞り、コーディネーターは新規対応に追われます。結果、主要顧客への更新フォローが手薄になり、単価の高い既存案件から離反されることも起こりえます。案件は増えても稼働は増えず、利益はむしろ悪化します。

うまくいく会社は逆の順序で動きます。まず主要顧客の別部署や別職種へ横展開し、充足実績を根拠に単価改善を交渉します。生まれた粗利と工数の余裕で、新規は確実に人を出せる職種とエリアに絞って開拓します。受注件数が伸びなくても、稼働と粗利は着実に積み上がります。両者を分けるのは営業量ではなく、資源を向ける順序です。

新規と既存を数字で比較する

新規開拓と既存深耕は優劣ではなく役割が異なります。下の比較で自社がどちらに寄りすぎているか確認してください。

観点

新規開拓

既存深耕

主な狙い

取引先の数を増やす

既存先の稼働・単価を伸ばす

成約までの距離

遠い(信頼の獲得から)

近い(実績が土台になる)

立ち上げコスト

高い(募集・面談・初期フォロー)

低い(既存の枠組みを活用)

粗利率の傾向

稼働安定まで低い

相対的に高い

主なリスク

充足できず信用を損なう

集中依存・単価据え置き・抵触日

向いている局面

顧客が偏っている/充足に余力がある

供給力が限られる/利益を厚くしたい

成果指標を「案件数」から「稼働・粗利」へ置き換える視点も整理しました。

従来みがちな指標

見直したい指標

何が分かるか

受注件数

充足率(充足数÷受注数)

受注が売上に変わっているか

訪問・架電数

稼働人数の純増

活動が稼働に結びついているか

売上高

案件別の粗利額

利益の残る案件を選べているか

新規獲得社数

既存先の取引職種数

横展開の余地を使えているか

職種により派遣料金は大きく異なり、情報処理・通信技術者は34,382円と、全業務平均の26,257円を大きく上回ります(令和6年度・同報告)。新規を絞るなら、自社が充足できる高単価職種から優先するのが合理的です。

今日から見直せること

まず着手すべきは、主要顧客の上位5社について、稼働人数、取引している派遣先件数、追加提案の履歴を並べることです。そのうえで受注に対する充足率と、案件ごとの粗利を算出します。この2つが見えれば、新規と既存のどちらに資源を戻すべきか判断できます。次に既存客の別部署・別職種への横展開リストを作り、新規は確実に人を出せる領域に絞り込みます。

今日から実践するためのチェックリスト

  • 主要顧客の上位5社の稼働人数と派遣先件数を書き出したか

  • 受注数に対する充足率を算出したか

  • 案件ごとの粗利額を把握し、赤字案件を特定したか

  • 既存客の別部署・別職種への横展開リストを作ったか

  • 新規開拓を「自社が充足できる職種・エリア」に絞ったか

  • 営業とコーディネーターが充足見込みを共有する場を設けたか

  • 1社への依存度(売上構成比)を確認したか

ハケンバンクについて

既存深耕を軸にしても、集中リスクを避けるため新規との接点は欠かせません。ただ、限られた人数で新しい求人企業に接点をつくるのは簡単ではありません。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぐプラットフォームで、自社だけでは出会いにくい求人企業との接点を補う選択肢の一つとして活用できます。

まとめ

派遣営業でまず優先すべきは既存深耕であり、新規は自社が充足できる領域に絞って併走させるのが基本です。判断の軸を「受注できるか」から「充足できて粗利が残るか」へ移すことが出発点になります。まずは主要顧客の稼働・粗利・充足率を手元に並べ、営業資源がどこへ向いているかを確かめてください。追うべき数字が変われば、新規か既存かという問いにも答えが出せます。

参考文献

  • 厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年)

  • 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」(2026年)

  • 厚生労働省「労働者派遣事業の事業報告の集計結果について」(統計一覧)

この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム

ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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