
求人開拓・営業
「大手企業とは取引したいが、会社規模で比較されてしまう」「営業しても『実績がない』『人員を確保できるのか』と不安視される」。このような悩みを抱える中小派遣会社は少なくありません。
そもそも、この業界では中小が例外ではありません。厚生労働省の集計によると、令和6年度に労働者派遣の実績があった33,207事業所のうち、年間売上高が10億円以上なのは1,985所(6.0%)だけ。一方で1億円未満の事業所は19,164所にのぼり、全体の57.7%を占めます。業界の過半数が、年商1億円に満たない規模で事業を営んでいるということです。
一方で、実際には従業員数が数十名規模の派遣会社が、大手メーカーや物流会社、建設会社などと継続的に取引している事例も数多くあります。つまり、大手企業は「会社規模」だけで派遣会社を選んでいるわけではないということです。
本記事では、求人獲得を担当する営業責任者や経営者に向けて、中小派遣会社でも大手企業との取引を実現できる営業戦略を解説します。派遣会社ならではの営業構造を踏まえながら、求人企業が本当に見ている評価基準と、明日から実践できる営業の見直しポイントを紹介します。
目次

結論から言えば、大手企業が派遣会社を選ぶ際に重視するのは、会社の規模ではなく「安定して人材を供給できるか」と「安心して任せられる運営体制があるか」です。
これは推測ではありません。厚生労働省「派遣労働者実態調査」で、派遣労働者を受け入れている事業所に「派遣労働者を就業させる主な理由」を聞いた結果が次のとおりです(複数回答3つまで)。
派遣労働者を就業させる理由 | 割合 |
|---|---|
欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため | 76.5% |
一時的・季節的な業務量の変動に対処するため | 37.2% |
軽作業、補助的業務等を行うため | 30.9% |
専門性を活かした人材を活用するため | 19.9% |
自社で養成できない労働力を確保するため | 12.2% |
常用労働者数を抑制するため | 7.0% |
雇用管理の負担が軽減されるため | 7.0% |
1位は「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため」で76.5%。2位の37.2%に倍以上の差をつけています。そもそも採用市場が逼迫していることも背景にあります。厚生労働省「一般職業紹介状況」の令和8年8月分では、新規求人倍率が2.06倍。求職者1人に対して新規の求人が2件以上ある状態が続いており、自社で直接採用しようとしても埋まらない現実があります。求人企業が派遣に求めているのは、まず第一にスピードだということです。「取引先の規模」や「会社の信頼性」といった項目は、そもそも選択肢として上位に出てきません。
逆に、派遣を使っていない事業所の理由を見ると、「今いる従業者で十分であるため」56.2%、「費用がかかりすぎるため」29.4%に続いて、「必要な職業能力を備えた派遣労働者をすぐに確保することが困難であるため」が17.7%。ここでも論点は確保のスピードと確実性です。
派遣先企業にとって最も避けたいのは、人材が集まらないことや、派遣開始後のトラブルによって現場が止まることです。そのため、営業担当者の話し方や会社案内よりも、「必要な人数を確保できるか」「欠員時の対応はどうするのか」「スタッフフォローは十分か」といった運用面が重視されます。
特に製造業や物流業、建設業などでは、一度に数十名単位の人材が必要になるケースもあります。そのような場面では、大手派遣会社が有利に見える一方で、必ずしも大手だけが選ばれるわけではありません。
実際には、特定エリアや職種に強みを持つ地域密着型の派遣会社が選ばれるケースもあります。求人企業は「全国対応できる会社」を探しているのではなく、「自社の求人を安定して充足できる会社」を探しているからです。
営業活動では、自社が伝えたいことではなく、求人企業が知りたいことを中心に提案を組み立てる必要があります。
求人企業が見ているポイント | 中小派遣会社が伝えるべき内容 |
|---|---|
人材を確保できるか(受入理由の1位・76.5%) | 登録スタッフ数ではなく、募集方法や集客チャネル、対応スピード |
欠員時の対応 | 代替スタッフの手配体制、休日・夜間対応の有無 |
定着率 | 面談体制やフォロー方法、就業後の定期連絡 |
コミュニケーション | 営業担当とコーディネーターの連携体制 |
専門性(受入理由の4位・19.9%) | 対応職種、保有資格、過去の対応実績(公開可能な範囲) |
この表を見ると分かるように、「会社規模」は評価項目に含まれていません。営業資料で会社沿革や拠点数を長く説明するよりも、運営体制や現場対応力を具体的に示した方が、商談で評価されやすくなります。
中小派遣会社では、「人材がいないから営業を控える」という判断がよく見られます。しかし、この考え方は機会損失につながる可能性があります。
人材が十分に集まる日は、構造的に来ないからです。令和6年度の登録者数は7,528,323人で前年度比2.4%減。1事業所あたりでも242.4人から226.7人へ6.5%減りました。一方で派遣先件数は861,926件と7.9%増えています。「人が集まってから営業する」という順番では、永久に営業を始められません。
もちろん、供給できない案件を無理に受注するべきではありません。一方で、営業活動そのものまで止めてしまうと、市場との接点が失われ、将来的な案件獲得の機会も減少します。
実際には、大手企業の案件は受注まで数か月かかることも珍しくありません。年度替わりや繁忙期に向けて早い段階から情報収集を行い、複数の派遣会社と関係構築を進めている企業もあります。
つまり、人材が十分に集まってから営業を始めるのではなく、営業と集客を並行して進める体制が重要になります。新規開拓と既存深耕のバランスについては「派遣営業は新規開拓と既存深耕どちらを優先すべきか」で整理しています。
営業担当者が求人企業へ提案する際には、コーディネーターが持つ情報を十分に把握していることが重要です。
例えば、「現在応募が増えている職種」「応募が集まりにくいエリア」「登録スタッフの年齢構成」「直近で就業開始できる人数」などは、営業提案の説得力を高める重要な情報です。
派遣の契約は短期のものが多く、この情報は毎月変わります。令和6年度の派遣契約期間は、1日以下が25.7%、1月超2月以下が20.9%、2月超3月以下が28.4%。3か月以内に終わる契約が大半を占めるということは、稼働可能な人数も3か月単位で入れ替わるということです。半年前の社内情報で提案していては、精度は上がりません。
一方で、営業部門とコーディネーター部門の情報共有が不十分な派遣会社では、「対応できます」と回答した案件が実際には充足できず、求人企業との信頼を失うケースもあります。受入理由の1位が「迅速に確保できるため」76.5%である以上、充足できなかった時点で選ばれる理由そのものが消えます。
営業力とは、話す力だけではありません。社内の情報を整理し、現場の状況を踏まえて提案できる組織体制そのものが、大手企業との継続取引につながる重要な競争力になります。

中小派遣会社が大手企業との取引を目指す際に見落としやすいのが、「大手企業」という一括りで営業先を考えてしまうことです。
ここで効いてくるのが、事業所の規模によって派遣の使われ方がまったく違うという事実です。派遣労働者が就業している事業所の割合を規模別にみると、次のようになります。
事業所規模 | 派遣労働者が就業している事業所の割合 |
|---|---|
1,000人以上 | 83.9% |
300〜999人 | 66.8% |
100〜299人 | 47.8% |
30〜99人 | 26.9% |
5〜29人 | 8.4% |
全体 | 12.3% |
1,000人以上の事業所では83.9%が派遣を使っています。全体の12.3%と比べると約6.8倍。大手企業が有望な営業先であること自体は、データでも裏づけられます。
問題は「どこに」営業するかです。派遣を受け入れている事業所が実際に何人受け入れているかをみると、1〜4人が68.1%。そのうち「1人だけ」が42.3%を占めます。5〜9人が16.8%、10〜19人が7.3%と続き、100人以上を受け入れている事業所はわずか1.7%です。
つまり、派遣の案件は圧倒的に小口です。数十名単位の大型案件を想定して「うちでは無理だ」と判断するのは、市場の7割を占める領域を見ないまま撤退しているのと同じことになります。
実際には、大手企業ほど本社一括で派遣会社を選定するケースばかりではありません。工場、物流拠点、支店、グループ会社などが独自に派遣会社を選定しているケースもあります。特に地域密着型の拠点では、「すぐに相談できる」「現場を理解している」といった対応力が重視される傾向があります。
業種によっても濃淡があります。派遣労働者が就業している事業所の割合を産業別にみると、製造業23.6%、情報通信業23.1%、金融業・保険業21.0%、卸売業19.7%、不動産業・物品賃貸業19.4%、運輸業・郵便業13.9%。一方、建設業は10.6%、小売業は6.5%と低くなります。同じ営業工数をかけるなら、母集団の濃い業種から当たるほうが効率的です(業種別の優先順位は「派遣会社が新規開拓で狙うべき業界ランキング【優先順位】」にまとめています)。
また、大手派遣会社は案件数が多い一方で、すべての案件を最優先で対応できるわけではありません。採用難易度が高い案件や地方拠点、小規模案件では、中小派遣会社にも十分な参入余地があります。
つまり、「大手企業は大手派遣会社しか取引できない」という考え方は、市場構造を単純化し過ぎています。重要なのは、自社が勝てる市場を見極めることです。営業リストの作り方そのものを見直したい場合は「派遣会社の営業リストの作り方|開拓につながる作成手順」をご覧ください。
「規模で負ける」と感じている会社ほど、提案の材料を会社概要の中に探しがちです。しかし差別化の材料は、業界全体がまだ手をつけていない領域にあります。

令和6年度に紹介予定派遣を実施した事業所は2,322所。労働者派遣の実績があった33,207所のうち、わずか7.0%です。前年度の7.3%からさらに下がっています。
一方で、成果は出ています。紹介予定派遣により派遣された労働者25,535人のうち、職業紹介を経て直接雇用に結びついたのは13,881人。実際に就業した人の54.4%が直接雇用に至っている計算です。しかもこの人数は前年度から1.9%増えています。
大手企業が抱える「採用したいが、いきなり正社員で採るのはリスクがある」というニーズに、この仕組みは正面から応えます。提案できる派遣会社が14社に1社しかいない以上、対応できること自体が差別化になります。
派遣には個人単位の期間制限(3年)があり、派遣元には雇用安定措置が義務づけられています。令和6年度の対象者は1,130,707人。このうち第1号措置(派遣先への直接雇用の依頼)を講じたのは67,887人で、実際に派遣先で雇用されたのは27,803人、依頼に対して41.0%が成立しています。
大手企業の現場責任者にとって、3年後に人が入れ替わることは確定した課題です。商談の段階で「3年到達時にどう動くか」まで説明できる派遣会社は多くありません。これは規模ではなく、準備の有無で差がつく領域です。
マージン率等の情報提供についても確認しておきたいところです。令和6年度に報告書を提出した43,812事業所のうち、インターネットで情報提供しているのは33,942所で77.5%。書類の備え付けは20,405所(46.6%)でした。
裏を返せば、5社に1社以上はインターネットでの情報提供ができていません。法令上の義務であると同時に、求人企業が取引前に確認する項目でもあります。自社サイトに情報が載っているかどうかは、商談に入る前の足切りになりえます。
ちなみにキャリアコンサルティングは、実施を希望した465,798人に対して454,449人が受けており、実施率は97.6%。こちらはほぼ全社が対応しているため、差別化要素にはなりません。「やっていること」と「やっている会社が少ないこと」を区別して提案材料を選ぶ必要があります。
例えば、ある地域密着型の派遣会社を想定してみましょう。
この会社は従業員20名規模で、製造業を中心に営業を行っていました。当初は本社の購買部門へ営業を続けていましたが、「全国対応できる会社を優先している」と説明され、なかなか商談につながりませんでした。
そこで営業先を変更し、地方工場の工場長や現場責任者との接点づくりに注力しました。現場が抱える欠員や繁忙期の課題を丁寧にヒアリングし、「少人数でも迅速に対応できる体制」を提案した結果、まずは数名規模の案件から取引が始まりました。
仮に3名の稼働につながったとすると、どの程度の事業インパクトになるか。令和6年度の8時間換算の平均派遣料金は26,257円、派遣労働者の賃金は16,735円で、差額は9,522円です。3名が3か月(60日)稼働すれば、粗利はおよそ171万円。決して小さくない数字です。
その後、実績を積み重ねることで追加発注につながり、他拠点への紹介を受ける可能性も生まれます。
このケースはあくまで想定例ですが、中小派遣会社が最初から大型案件だけを狙うのではなく、小さな実績を積み上げる営業戦略の重要性を示しています。市場全体でみても1〜4人の受け入れが68.1%である以上、この積み上げ方こそが標準的な取引の形です。
大手企業への営業を始める前に、次の項目を確認してみてください。
・自社の強みを「会社規模」ではなく「対応力」で説明できるよう整理する(受入理由の1位は「迅速に確保できるため」76.5%)
・営業担当者が最新の登録スタッフ情報や応募状況を把握している
・地域・職種ごとの勝ち筋を分析し、営業先を絞り込んでいる
・派遣受入率が高い業種から当たっている(製造業23.6%、情報通信業23.1%、金融業・保険業21.0%)
・本社だけではなく、工場・支店・事業所単位で営業先を検討している(1,000人以上の事業所の83.9%が派遣を利用)
・1〜4人規模の案件(全体の68.1%)を「小さすぎる」と切り捨てていない
・商談件数だけではなく、案件化率・受注率・稼働人数までKPIとして管理している
中小派遣会社が大手企業と取引するために必要なのは、会社規模を大きく見せることではありません。求人企業が重視しているのは、「必要な人材を安定して供給できるか」「トラブル時にも安心して任せられるか」という実務面の再現性です。受入理由の1位が「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため」76.5%であることが、それを示しています。
また、営業活動と人材確保を切り離して考えず、営業・コーディネーター・採用担当が同じ情報を共有することも重要です。案件数だけを追うのではなく、自社が供給できる領域に営業資源を集中させることで、受注率と利益率の両方を高めやすくなります。
そして忘れてはならないのが、派遣案件の68.1%は1〜4人規模だという事実です。大型案件を取れる体制がないことは、大手企業との取引を諦める理由にはなりません。営業エリアを広げるべきかどうかの判断については「派遣会社が営業エリアを拡大すべきタイミングと判断基準」も参考にしてください。
まずは、自社が「どの業界」「どの地域」「どの職種」で最も競争力を発揮できるのかを整理し、その強みが伝わる営業資料と提案内容になっているかを見直すことから始めてみてください。
Q1. 派遣労働者を受け入れている事業所が、派遣を使う理由として最も多く挙げたものはどれですか?
A. 欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため(76.5%)
B. 常用労働者数を抑制するため(7.0%)
C. 雇用管理の負担が軽減されるため(7.0%)
正解:A 解説:「大手企業との取引は会社規模ではなく『供給力と再現性』で決まる」の章のとおりです。選択肢に「会社の規模」や「取引先としての信頼性」は含まれていません(厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査」事業所調査)。
Q2. 派遣を受け入れている事業所のうち、受入人数が1〜4人の事業所はどのくらいですか?
A. 約2割
B. 約4割
C. 68.1%(うち「1人だけ」が42.3%)
正解:C 解説:「見落とされがちな論点は『すべての大手企業を狙わない』こと」の章のとおりです。100人以上を受け入れている事業所は1.7%にすぎません(厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査」事業所調査)。
Q3. 大手メーカーへの新規開拓を任されました。最初の一手として適切なのはどれですか?
A. 本社の購買部門に全国対応体制を提案する
B. 工場や物流拠点など事業所単位で接点をつくり、少人数の案件から入る
C. 競合の大手派遣会社より低い料金を提示する
正解:B 解説:「見落とされがちな論点は『すべての大手企業を狙わない』こと」の章のとおりです。1,000人以上の事業所の83.9%が派遣を利用している一方、受入人数は1〜4人が68.1%を占めます(厚生労働省「令和4年派遣労働者実態調査」事業所調査)。
求人開拓を自社だけで進めることが難しい場合は、営業活動を補完する仕組みを活用するという選択肢もあります。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。営業活動のすべてを置き換えるものではなく、新たな求人企業との接点を増やす手段の一つとして活用できます。
・厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)令和6年度」(2026年3月31日公表)
この記事の監修者

山本 凌大
CLEAR INNOVATION株式会社代表取締役
大学在学中に「非常識を新常識に変える」をミッションに、CLEAR INNOVATION株式会社を創業。全国の派遣企業と求人企業を繋げる国内初のプラットフォーム「ハケンバンク」を提供。

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