
市場動向
熊本、千歳、北上、東広島。大型の半導体投資が発表されるたびに、地元の派遣需要が伸びるという見方が語られてきました。実際に工場は建ち、稼働も始まっています。では、その地域の派遣市場は伸びたのでしょうか。公的統計を地域ブロック別に並べると、期待とは違う絵が出てきます。

工場が建った場所と、市場が伸びた場所は違う
目次
先に結論を書きます。大型投資が集中した地域ほど、派遣市場が伸びたという関係は確認できません。
厚生労働省の令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)によれば、2024年度の派遣売上高は全国で前年度比9.4%増でした。ところが地域別に見ると、北海道は2.5%減。東北は5.7%増、中国は2.1%増、九州は4.8%増と、いずれも全国平均を下回っています。最も伸びたのは南関東の12.6%増でした。
全10ブロックを並べます。1件あたり売上高は、売上高を派遣先件数で割った値です。
地域ブロック | 売上高 | 派遣先件数 | 1件あたり売上高 |
|---|---|---|---|
全国 | +9.4% | +7.9% | +1.4% |
北海道 | ▲2.5% | +5.6% | ▲7.6% |
東北 | +5.7% | +4.2% | +1.4% |
南関東 | +12.6% | +10.1% | +2.3% |
北関東・甲信 | +7.6% | +5.8% | +1.7% |
北陸 | +11.7% | +4.1% | +7.3% |
東海 | +10.1% | +7.1% | +2.8% |
近畿 | +6.7% | +7.7% | ▲0.9% |
中国 | +2.1% | +6.1% | ▲3.8% |
四国 | ▲0.4% | +4.7% | ▲4.9% |
九州 | +4.8% | +5.1% | ▲0.3% |
出典:厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」令和6年度・令和5年度。1件あたり売上高の増減率は編集部で算出
新規の大型プロジェクトが集中する北海道・東北・中国・九州のうち、3地域で1件あたり売上高が減っています。ただし半導体関連の集積がある北陸は7.3%増で全国を上回りました。立地すれば伸びるという関係も、立地したから伸び悩むという関係も、このデータからは言えません。工場の立地は、その地域の派遣市場の動きを説明しないというのが、確認できる範囲の事実です。
注目したいのは、北海道の動きです。派遣先件数は5.6%増えているのに、売上高は2.5%減りました。1件あたりでは7.6%の減少です。

取引先は増えたが、1件が小さくなった
中国も同じ形です。件数は6.1%増えましたが、1件あたりは3.8%減りました。取引先の数は増えている。しかし1件が小さい。
これは「大型工場が稼働すると、まとまった人数の継続案件が生まれる」という期待とは逆の動きです。増えたのは小口の取引でした。もちろん1件あたり売上高は派遣先1社あたりの金額にすぎず、案件の規模そのものを示す指標ではありません。ただし少なくとも、工場の稼働が地域の平均単価を押し上げた形跡は見えないと言えます。
なお登録者数は、北海道で7.0%減、東北で6.7%減、中国で16.0%減となっています。ただしこれは半導体とは関係の薄い北陸(13.5%減)や四国(11.9%減)でも起きており、立地の影響として切り分けることはできません。
理由は、工場のフェーズごとに必要な人が違うからです。
フェーズ | 必要になる人 | 派遣の関与 |
|---|---|---|
建設期 | 躯体・設備・配管の技能者 | 建設業務は法令で派遣不可 |
装置搬入・立上げ期 | 装置メーカーの技術者 | 装置メーカー側の要員が中心 |
量産立上げ期 | 装置オペレーター、保全 | 直接雇用での採用が中心 |
量産期 | 検査、物流、設備保全、事務 | ここから派遣の領域 |
労働者派遣法により、建設業務への労働者派遣は禁止されています。工事が動いている数年間、派遣会社が現場へ人を出す道はありません。
そして量産に入っても、装置オペレーターは直接雇用で採られるのが一般的です。クリーンルームの作業は習熟に時間がかかり、教育投資を回収する前提が要ります。3か月契約を前提とした派遣とは、そもそも相性が良くありません。
派遣の出番が来るのは、工場が動き始めてからの周辺業務です。検査、構内物流、設備保全の補助、購買や品質の事務。時間差があるうえ、量も工場本体ほどではない。これが「特需」の形にならない理由だと考えられます。
制度上の制約も重なります。製造業務への派遣は認められていますが、同一の組織単位で働ける期間は原則3年です。工場側が長期の要員として当て込んでも、3年ごとに入れ替えるか無期雇用へ切り替えるかの判断が要ります。長く続く仕事ほど、派遣のままでは持ちにくいのです。
影響がないわけではありません。むしろ既存の取引先の側に出ていると見るほうが実態に近いでしょう。
起きること | 派遣会社への影響 | 取るべき手 |
|---|---|---|
地域の求人が増える | 登録者の確保が難しくなる | 募集単価の見直しと定着策 |
賃金の相場が上がる | 既存案件の原価が上がる | 既存先の単価改定を先に着手 |
通勤圏の人が動く | 遠方案件の充足率が下がる | 案件の地理的な見直し |
量産期に周辺業務が出る | 参入の機会は数年後 | 関連企業との関係を先に作る |
順番に注意してください。機会より先に、コストのほうが来ます。工場が建つと発表された段階で地域の募集競争は始まりますが、派遣で出せる仕事が出てくるのは量産期です。この時間差を織り込まずに登録者の確保だけ先行させると、稼働しないまま募集費が積み上がります。
だとすれば、先に着手すべきは既存取引先の単価改定です。地域の賃金相場が上がってから交渉を始めると、原価上昇を後追いすることになります。価格をめぐる構造は「人材派遣市場は価格競争に向かうのか」でも整理しています。
判断に迷うのは、着工前に「量産のときはお願いします」と言われる場面でしょう。口頭の見通しを前提に人を抱えると、稼働までの数年を自社で負うことになります。時期と人数を書面で確認できないうちは、先行投資の判断材料にはなりません。
まず、自社の営業圏で進行中の大型投資を、着工と量産開始の時期で整理してください。カレンダーに落とすと、機会が来る時期がはっきりします。

立地の影響に備える四つのステップ
次に、既存取引先の単価改定を前倒しします。相場が動いてからでは遅いためです。そのうえで、工場そのものではなく関連する企業を洗い出してください。構内物流、装置の保守、検査の受託、給食や清掃。派遣の出番は本体より周辺にあります。新規の接点づくりについては「派遣営業は新規開拓と既存深耕どちらを優先すべきか」も参考になります。
最後に、募集計画を量産開始の時期に合わせて調整します。発表の直後に採用を強化しても、出す先がなければ費用だけが残ります。
営業圏内で進行中の大型投資を一覧化した
各案件の着工時期と量産開始予定をカレンダーに落とした
建設業務は派遣できない旨を、提案対象から外して整理した
既存取引先の単価改定スケジュールを前倒しした
構内物流・設備保全・検査受託など関連企業を洗い出した
関連企業への接触順を決め、量産開始の逆算で予定を入れた
募集費の投入時期を、量産開始時期に合わせて調整した
自社の営業圏の1件あたり売上高を、直近3年で算出した
半導体工場の増加が派遣需要を押し上げるという見方は、2024年度のデータでは確認できませんでした。大型投資が集中した北海道は売上高が2.5%減、中国は2.1%増、九州は4.8%増と、いずれも全国平均の9.4%増を下回っています。北海道では件数が増えたのに1件あたりが7.6%減りました。
理由は、建設業務に派遣が入れないこと、量産の中核が直接雇用であること、そして派遣の出番が周辺業務まで待つことにあります。先に来るのは機会ではなくコストです。まずは既存取引先の単価改定と、関連企業の洗い出しから着手してください。
Q1. 2024年度の地域ブロック別の派遣売上高について、公的統計は何を示していますか?
A. 全国9.4%増に対し、北海道は2.5%減、中国は2.1%増、九州は4.8%増と大型投資の集中地域が下回った
B. 大型投資が集中した地域がいずれも全国平均を上回った
C. 全地域がほぼ同じ伸び率だった
正解:A 解説:「結論」の章のとおりです。最も伸びたのは南関東の12.6%増でした(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和6年度速報)。
Q2. 北海道の2024年度について、件数と売上高はどう動きましたか?
A. 派遣先件数は5.6%増えたが、1件あたり売上高は7.6%減った
B. 件数・売上高ともに大きく増えた
C. 件数が減り、1件あたりが増えた
正解:A 解説:「見落とされている論点」の章のとおりです。取引先の数は増えても、1件あたりの規模は小さくなっています(1件あたりの増減率は編集部試算)。
Q3. 地元に半導体工場の建設が決まりました。派遣会社としてまず着手すべきことはどれですか?
A. 直ちに大量採用を始め、登録者を積み増す
B. 既存取引先の単価改定を前倒しし、量産開始の時期から逆算して募集計画を立てる
C. 建設現場向けの人員を手配する
正解:B 解説:「では、派遣会社にとって何が起きているのか」の章のとおりです。建設業務に派遣は入れず、派遣の出番は量産期以降の周辺業務になります。機会より先に募集コストが上がる点に注意が必要です。
工場本体ではなく、構内物流や設備保全、検査を担う関連企業に接点をつくれるかどうかが、この分野では効いてきます。そうした企業は表に出にくく、自社の営業だけで見つけるには時間がかかります。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。自社だけでは接点を持ちにくい求人企業と出会う手段として、営業活動を補完する位置づけでご検討ください。
厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)
厚生労働省「令和5年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2025年3月31日公表)
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)/e-Gov法令検索
この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム
ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
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