
市場動向
2026/8/6
「次に景気が落ち込んだとき、自社は生き残れるのか」。従業員5〜300名規模の派遣会社を率いる方なら、一度は抱く問いではないでしょうか。売上は伸びているのに利益が残らない、特定の派遣先や職種に依存している、業務が属人化している。こうした課題は好況期には表面化しませんが、後退局面では一気に経営を揺るがします。本記事では、景気後退に強い派遣会社と弱い派遣会社を分ける構造的な違いを、市場データと収益構造から整理します。
目次
景気後退に強い派遣会社に共通するのは、景気敏感業種に依存せず、粗利率と契約継続率を高く保っている点です。派遣業界全体の売上高は9兆9,005億円と前年度比9.4%増で推移していますが(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和6年度・速報値)、この成長は業種や職種で大きく偏っています。伸びている領域に軸足があるかどうかが、次の後退での明暗を分けます。
弱い会社は好況期に取りやすい案件へ資源を集中させます。製造業の増産対応や大型案件は数がまとまる一方、景気変動の影響を最も早く受ける領域です。強い会社は需要が減りにくい職種と景気に連動しやすい職種を組み合わせ、片方が落ち込んでも全体が崩れない設計にしています。
派遣は景気の調整弁として機能してきた事業であり、後退局面での落ち込み方に会社ごとの差が出ます。2008年のリーマンショック後には製造業を中心に契約打ち切りが相次ぎ、「派遣切り」が社会問題化しました。当時、業界団体は製造業派遣・請負の従事者約100万人のうち40万人規模の失職を試算しており、景気敏感業種への集中の脆さを業界は経験しています。
現在の派遣労働者数は約220万人にのぼります(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和6年度・速報値)。規模は当時より大きくなりましたが、単価の低い景気敏感案件に稼働を積み上げた会社ほど、稼働率低下が利益を直撃する構造は変わりません。派遣会社の固定費の中心は営業・コーディネーターの人件費と拠点コストで、稼働が減ってもすぐには下がりません。好況期に人員と拠点を拡大した会社ほど、後退局面で苦しくなります。
景気後退に強い会社は、構造的な人手不足が続く業種に案件を持っているという共通点があります。有効求人倍率は令和7年度平均で1.20倍でしたが、直近では1.18倍まで低下し、正社員に限ると1倍前後で推移しています(厚生労働省「一般職業紹介状況」令和7年度)。全体では求人を絞る動きが広がる一方、人手不足が緩まない業種が残っています。
正社員の人手不足を感じる企業は51.4%に達し、道路貨物運送業72.2%、情報サービス69.9%、建設業68.9%と突出しています(帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」2025年4月)。これらは景気が多少後退しても人が足りず、案件が消えにくい需要です。物流・建設・IT・医療介護など構造的不足業種に接点を持つ会社は、後退局面でも稼働を維持しやすくなります。逆に増員案件だけに依存する会社は、需要そのものが蒸発するリスクを負います。
業種(正社員) | 人手不足を感じる企業の割合(2025年4月) | 不況局面での需要の底堅さ(考察) |
|---|---|---|
道路貨物運送業 | 72.2% | 物流量が景気に連動しにくく底堅い |
情報サービス | 69.9% | DX投資が継続し中期的に安定 |
建設業 | 68.9% | 公共・維持補修で下支えされやすい |
全業種平均 | 51.4% | 景気敏感業種は後退局面で急落しやすい |
出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」(2025年4月)。底堅さの評価は編集部による考察。
多くの派遣会社が稼働人数を追いますが、後退局面で効くのは平均派遣単価と契約継続率です。派遣料金は8時間換算で平均26,257円、派遣スタッフの賃金は同16,735円で、その差が粗利の源泉です(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和6年度・速報値)。粗利の薄い案件を大量に抱えるほど、稼働が少し落ちただけで赤字に転落します。
ここに最低賃金の上昇が追い打ちをかけます。地域別最低賃金の全国加重平均は1,121円となり、前年度から66円引き上げられました(厚生労働省「地域別最低賃金」令和7年度)。賃金は上がるのに派遣料金へ転嫁できなければ、粗利は自動的に圧縮されます。派遣先が値下げを求める後退局面では、単価交渉ができる会社と、価格だけで選ばれてきた会社とで残る利益が異なります。
後退局面での挙動を指標ごとに整理します。以下は、市場データと収益構造から合理的に導ける典型的な違いです。
比較項目 | 景気後退に強い会社 | 景気後退に弱い会社 |
|---|---|---|
職種ポートフォリオ | 構造的不足業種と景気敏感業種を分散 | 製造・単発案件など景気敏感業種に集中 |
平均派遣単価 | 業界平均以上を維持・交渉力あり | 価格競争で業界平均を下回りがち |
契約形態 | 無期雇用派遣・長期契約の比率が高い | 有期・短期スポットの比率が高い |
顧客構成 | 複数業種・複数拠点に分散 | 少数の大口派遣先に依存 |
情報管理 | 案件とスタッフ情報を組織で共有 | 担当者個人に属人化 |
契約形態の差は数字にも表れています。無期雇用派遣労働者は908,956人と前年度比7.9%増で伸びており(厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」令和6年度・速報値)、雇用の安定と定着を重視する流れが強まっています。無期雇用や長期契約の比率が高い会社は後退局面でもスタッフをつなぎ止め、回復時に稼働を素早く戻せます。
例えば、想定してみましょう。製造派遣に稼働の7割を集中させたA社と、物流・介護・事務へ分散し無期雇用比率を高めたB社があるとします。製造の増員案件が止まればA社は稼働の大半を失いますが、B社は不足業種の需要に下支えされます。この差は営業努力ではなく、平時の事業設計から生まれます。
まず着手すべきは、自社の売上と粗利を「業種別・派遣先別・契約形態別」に分解することです。偏りが見えれば、後退局面で最初に消える売上と残る売上を区別できます。次に、粗利率の低い案件と単価交渉が止まっている派遣先を洗い出し、更新時に見直しに入ります。依存度の高い順に着手すれば十分です。
新規開拓では、構造的不足業種への接点を増やすことが後退耐性を高めます。自社だけで新しい業種を開拓しづらい場合は、[派遣会社が新規案件を獲得する営業手法]も参考に開拓チャネル自体を増やす発想が有効です。あわせて[就業初日に派遣スタッフが辞めないためのフォロー術]を見直せば、後退局面でも人材を手放さない体制を整えられます。
確認項目 | 見るべき数字・状態 | 優先度 |
|---|---|---|
業種別の売上・粗利構成 | 上位1業種に売上の何%が集中しているか | 高 |
派遣先別の依存度 | 上位3社で稼働の何%を占めるか | 高 |
平均派遣単価の推移 | 直近3年で上がっているか下がっているか | 高 |
契約形態の比率 | 無期・長期契約が占める割合 | 中 |
単価交渉の実施状況 | 2年以上料金を見直していない派遣先の数 | 中 |
情報の属人化 | 案件・スタッフ情報が個人依存になっていないか | 中 |
構造的不足業種の接点 | 物流・建設・IT・医療介護との取引有無 | 高 |
景気後退に強い派遣会社と弱い派遣会社を分けるのは、悪化してからの努力ではなく、平時の事業構造です。職種ポートフォリオの分散、粗利率と単価交渉力、無期雇用を含む契約継続率、情報の脱・属人化。この4点が後退局面での生存力を決めます。まず取るべき行動は、自社の売上と粗利を業種別・派遣先別に分解し、依存の偏りを一枚の表にして把握することです。数字が見えれば、次の後退の前に打てる手が見えてきます。
構造的不足業種の開拓を自社だけで進めにくい場合、外部の仕組みを活用する選択肢もあります。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。接点を持ちにくい業種や地域の求人企業と出会う手段として、営業を補完する使い方が考えられます。
厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果(令和6年度・速報値)」(2025年)
厚生労働省「一般職業紹介状況(令和7年度分)」(2026年)
厚生労働省「地域別最低賃金(令和7年度)」(2025年)
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2025年4月)」(2025年)
この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム
ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
派遣会社の経営者・営業担当者・コーディネーターの実務に役立つ情報を発信し、「派遣会社の経営を変える知識」をテーマに、業界の構造や最新トレンド、実践的なノウハウを分かりやすくお届けしています。

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