派遣会社が押さえるべき労働市場の変化5つと経営への影響

市場動向

2026/8/4

派遣会社が押さえるべき労働市場の変化5つと経営への影響

労働市場の変化を追っていても、それが自社の損益のどこに効くのかが分からない。中小・中堅の派遣会社ほど、この状態に陥りがちです。ニュースは多いのに、経営判断に翻訳されていないからです。この記事では、従業員5名から300名規模の派遣会社の経営者・事業責任者に向けて、いま押さえるべき労働市場の変化を5つに絞り、それぞれが売上・粗利・コストのどこに影響するかを整理します。

目次

結論:5つの変化のうち、4つはコストと粗利に効く

労働市場の変化は「案件が増えるかどうか」で語られがちですが、実際に損益を動かしているのは売上よりコスト側です。令和6年度の派遣事業の売上高は9兆9,005億円と前年度比9.4%増でしたが、伸びた分がそのまま利益になった会社は限られます(厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」2026年)。結論を先に一覧で示します。

変化

主な影響先

顕在化の時期

経営インパクト

①最低賃金の連続引き上げ

粗利

毎年10月以降

賃金上昇が料金改定より速く、粗利率が低下

②外国人材の増加と制度転換

売上・供給

2027年4月以降

供給源を広げられる会社だけが稼働を伸ばせる

③雇用の正規化

売上

進行中

派遣から直接雇用への置き換えが起きる

④派遣契約の短期化

粗利・生産性

進行中

1件あたり稼働月数が短く、営業工数が回収しにくい

⑤社会保険の適用拡大

コスト

2026年10月以降

法定福利費が増え、稼働時間の設計が変わる

売上に効くのは②と③だけで、残る3つは粗利かコストに直接効きます。案件獲得だけを追っている限り、変化の大半は見えないまま損益に現れます。

労働市場の5つの変化を、売上・粗利・コストのどこに効くかで分類した図。売上に効くのは外国人材の増加と雇用の正規化の2つで、残る3つは粗利とコストに効く。

①最低賃金は、料金改定より速いペースで上がり続けている

最初に押さえるべきは、賃金の下限が毎年切り上がる構造です。2026年7月28日の中央最低賃金審議会では、令和8年度の改定目安がAランク54円、Bランク56円、Cランク56円と答申されました(厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」2026年)。令和7年度の全国加重平均は1,121円で、そこからさらに上乗せされます。

一方、令和6年度の派遣料金(8時間換算)の上昇率は前年度比3.6%、賃金は3.4%でした(厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」2026年)。最低賃金の上昇率はこれを上回るペースが続いており、料金改定が年1回や更新時に限られる以上、時間差の分だけ粗利が削られます。発効前に交渉を終える運用へ切り替えるかどうかが、粗利率を分けます。

最低賃金の改定目安は約5.0%で、派遣料金3.6%・派遣賃金3.4%を上回る。あわせて、10月の発効後に料金交渉している契約は次の更新まで粗利が目減りすることを示した図。

②外国人材の増加と、2027年の制度転換

労働供給の増分は、すでに外国人材が担っています。2025年10月末時点の外国人労働者数は257万1,037人で、前年比26万8,450人増、増加率は11.7%でした(厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」2026年)。

さらに、技能実習制度に代わる育成就労制度が2027年4月に施行される予定です(出入国在留管理庁「育成就労制度」2026年)。転籍が一定の条件で認められる点が技能実習との大きな違いで、外国人材が労働市場内で移動する余地が広がります。ここから合理的に導ける示唆は、これまで動かなかった層が転職市場に出てくるため、受け入れ体制を持つ派遣会社にとっては供給源が増えるということです。ただし制度の詳細は運用要領で随時更新されており、断定は避けるべき段階にあります。

③雇用の正規化が進み、派遣社員数は減っている

見落とされやすいのが、正社員が増え、派遣社員が減っているという事実です。2026年4月の正規の職員・従業員は3,735万人で前年同月比26万人増、非正規は2,147万人でした。このうち労働者派遣事業所の派遣社員は153万人で、前年同月から6万人減っています(総務省統計局「労働力調査(基本集計)」2026年4月分)。

人手不足が語られる一方で、派遣という雇用形態そのものは縮んでいます。人が採れない企業ほど、いったん派遣で受け入れた人材を直接雇用に切り替える動機を持つためです。紹介予定派遣を制度として持たない会社は、この動きが起きたときに稼働を失うだけで、収益化できません。派遣先が直接雇用を打診してくる前提で、契約と手数料の設計を見直しておく必要があります。

④契約の短期化が、営業工数の回収を難しくしている

案件の質を測る指標として、契約期間の分布は見落とされがちです。令和6年度の派遣契約は、3か月以内が全体の約86%を占めています。

契約期間

割合

1日以下

25.7%

1日超7日以下

2.6%

7日超1月以下

8.1%

1月超2月以下

20.9%

2月超3月以下

28.4%

3月超6月以下

10.2%

6月超

4.0%

(出典:厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」2026年をもとに作成)

1件あたりの営業・コーディネート工数は契約期間が短くても変わりません。つまり短期案件が増えるほど、同じ工数で回収できる粗利は減ります。例えば、月10件受注しても平均稼働が2か月なら、年間で稼働が積み上がらない会社を想定してみましょう。追うべきは受注件数ではなく、受注1件あたりの累計稼働月数です。初日の離脱を防ぐ運用は、「就業初日に派遣スタッフが辞めないためのフォロー術」も参考になります。

⑤社会保険の適用拡大で、法定福利費と稼働設計が変わる

2025年6月に成立した年金制度改正法により、短時間労働者の社会保険加入要件のうち賃金要件(月額8.8万円以上、いわゆる106万円の壁)が撤廃されます。施行は2026年10月が見込まれ、企業規模要件もその後段階的に撤廃される予定です(厚生労働省「『年収の壁』への対応」)。

派遣会社にとっては二つの意味があります。ひとつは、加入対象となる派遣スタッフが増え、事業主負担の法定福利費が上がることです。もうひとつは、税制側で課税最低限が引き上げられたことと合わせ、就業調整の基準が「収入」から「週20時間」へ移ることです。短時間で複数の壁を意識していたスタッフの稼働時間を、設計し直せる余地が生まれます。既存稼働者の時間を伸ばせれば、新規採用に頼らず売上を積めます。募集面の打ち手は「派遣会社の求人広告で応募数を増やす方法」にまとめています。

5つの変化を効き始める時期別に整理した図。2026年10月が最低賃金の発効と社会保険の適用拡大、2027年4月が育成就労制度の施行、時期の指定がないのが雇用の正規化と契約の短期化。

今日からできる改善策

まず確認すべきは、最低賃金の発効日と自社の契約更新日の関係です。発効後に交渉している契約が何件あるかを数えれば、失っている粗利の規模が見えます。次に、受注1件あたりの累計稼働月数を出し、令和6年度の全業務平均である派遣料金26,257円と賃金16,735円の差額と比べます(同集計結果)。最後に、社会保険の加入対象になるスタッフ数を洗い出します。

今日から実践するためのチェックリスト

  • 最低賃金の発効日より前に料金交渉が終わる契約の比率を出したか

  • 最低賃金帯の職種だけを分けて粗利率を計測しているか

  • 受注1件あたりの平均稼働月数を算出したか

  • 3か月以内の短期案件が粗利に貢献しているか検証したか

  • 派遣先から直接雇用を打診された場合の手数料条件を契約に明記しているか

  • 紹介予定派遣を提案できる体制があるか確認したか

  • 2026年10月時点で社会保険の加入対象になるスタッフ数を試算したか

  • 週20時間を基準にした稼働時間の再設計をスタッフに案内したか

  • 外国人材を受け入れられる派遣先と職種を営業が把握しているか

  • 5つの変化のうち、自社の損益に最も効くものを1つ特定したか

まとめ

労働市場の変化を追うだけでは経営は動きません。5つのうち売上に効くのは外国人材と正規化の2つで、残りは粗利とコストに直接効きます。まず最低賃金の発効日と契約更新日のズレを数え、そのうえで受注1件あたりの稼働月数を確認してください。

優先順位をつけるなら、今年中に効くのは①と⑤、来年以降に効くのが②です。すべてに同時に手をつける必要はありません。売上規模ごとの打ち手の順序は「売上10億円を目指す派遣会社の経営戦略とロードマップ」も併せてご覧ください。

ハケンバンクについて

供給側の変化に対応できても、案件の入口が増えなければ稼働は伸びません。求人開拓を自社の営業だけで進めることが難しい場合は、外部の仕組みを活用する選択肢もあります。ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。

参考文献

  • 厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」(2026年7月28日公表)

  • 厚生労働省「令和6年度 労働者派遣事業報告書の集計結果(速報)」(2026年3月31日公表)

  • 厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」(2026年1月30日公表)

  • 厚生労働省「『年収の壁』への対応」(2025年6月13日更新)

  • 総務省統計局「労働力調査(基本集計)2026年4月分」(2026年)

  • 出入国在留管理庁「育成就労制度」(2026年)

この記事の監修者

ハケンバンク運営チーム

ハケンバンク運営チームは、人材派遣会社と求人企業をつなぐプラットフォーム「ハケンバンク」の運営を通じて、派遣業界の市場動向や現場課題を日々分析しています。
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