コラム

2026/7/13

「人材不足」は派遣会社にとって本当に追い風なのか

「人材不足だから、派遣会社にとっては追い風だ。」

人材派遣業界では、このような言葉を耳にする機会が少なくありません。実際、多くの業界で人手不足が深刻化し、派遣スタッフへの需要は高まり続けています。求人依頼が増えれば、派遣会社の売上も伸びるように思えるでしょう。

しかし、現場では「求人は増えているのに利益が残らない」「案件は豊富なのに稼働人数が増えない」「営業は忙しいのに業績が伸びない」といった悩みを抱える派遣会社も少なくありません。

この記事では、中小・中堅派遣会社の経営者や事業責任者に向けて、「人材不足=追い風」という一般的な見方をあえて問い直します。人材不足が派遣会社に与える本当の影響を市場構造から整理し、これからの経営判断で重視すべき視点を考察します。

人材不足は「需要の追い風」であって、「利益の追い風」とは限らない

結論から言えば、人材不足は派遣需要を押し上げる要因ではありますが、それだけで派遣会社の経営が良くなるわけではありません。

厚生労働省の有効求人倍率や各種雇用統計を見ても、多くの業界で人材不足が続いています。製造業、物流、建設、介護などでは慢性的な人手不足が続き、派遣会社への問い合わせも増える傾向があります。

一方で、派遣会社の売上は「求人件数」ではなく、「実際に就業した人数」と「継続稼働」によって決まります。求人依頼が10件増えても、人材を確保できなければ売上にはつながりません。

つまり、人材不足は「仕事が増える市場」である一方、「人材の奪い合いが激しくなる市場」でもあるのです。

この二面性を理解しなければ、「案件は増えているのに利益が出ない」という状況に陥りやすくなります。

人材不足で競争相手が増えるという逆説

求人企業だけでなく、採用市場全体が競合になる

人材不足が進むと、多くの派遣会社は「求人企業から選ばれること」に意識が向きます。しかし実際には、それ以上に重要なのは「求職者から選ばれること」です。

派遣会社が競争している相手は、同業他社だけではありません。

求職者を奪い合う競合

主な特徴

他の派遣会社

同一職種・同一地域で競争

正社員求人

安定志向の求職者を獲得

アルバイト・パート

短時間勤務層と競合

業務委託・副業

働き方の多様化による流出

スキマバイトサービス

即日就業ニーズを吸収

つまり、人材不足とは「企業同士の採用競争」が激しくなることを意味します。

求人企業が増えれば増えるほど、求職者には多くの選択肢が生まれます。その結果、派遣会社は従来以上に応募率や登録率、就業率、定着率まで含めた総合力を問われるようになります。

求人企業も派遣会社を厳しく選ぶ時代になっている

もう一つ見落とされがちな変化があります。

求人企業も人手不足だからこそ、「どの派遣会社へ依頼するか」を以前より慎重に判断するようになっています。

単に派遣契約を結ぶのではなく、「本当に人を紹介できる会社か」「レスポンスは早いか」「欠勤率は低いか」「急な増員に対応できるか」といった運用面まで評価されるケースが増えています。

人材不足の市場では、求人企業にも余裕がありません。紹介までに時間がかかる派遣会社よりも、少人数でも迅速に対応できる会社が選ばれる場面は少なくありません。

つまり、人材不足は派遣会社全体に平等な追い風ではなく、「供給力」と「対応力」のある会社へ仕事が集まりやすい市場を生み出していると考えられます。

見落とされがちな本当の課題は「案件不足」ではなく「供給力不足」

派遣会社では、営業担当者が「もっと求人を増やしたい」と考える場面が多くあります。

もちろん営業活動は重要ですが、人材不足の市場では求人件数だけを増やしても成果につながらないケースがあります。

例えば、100件の案件を抱えていても、対応できるスタッフが20人しかいなければ、残り80件は売上になりません。一方で、人材プールが充実している会社であれば、同じ20件の案件でも高い稼働率を維持できます。

つまり、経営者が本当に管理すべき指標は「案件数」ではなく、「案件充足率」や「登録者から就業までの転換率」です。

営業部門だけが案件を増やし続ける一方で、採用部門やコーディネーターが人材確保に苦戦している場合、組織全体では利益率が低下しやすくなります。

人材不足の時代ほど、「営業」「採用」「スタッフフォロー」を別々に考えるのではなく、一つの事業プロセスとして設計する視点が重要になります。

想定ケースから考える「追い風」を活かせる会社と活かせない会社

例えば、同じ地域で営業するA社とB社を想定してみましょう。

A社は求人企業からの依頼を積極的に受け、案件数を増やすことを最優先にしています。一方で、応募後の連絡が遅く、登録面談の日程調整にも時間がかかっています。

対してB社は案件数こそ多くありませんが、応募後すぐに連絡し、登録から就業までのスピードを重視しています。また、就業後のフォローにも力を入れ、契約更新率を高めています。

結果として、A社は常に「人が足りない」と感じ続けますが、B社は限られた案件でも高い稼働率を維持できます。

この違いは営業力ではなく、「供給体制をどれだけ仕組み化できているか」にあります。

人材不足の市場では、新しい案件を獲得する能力以上に、人材を継続的に確保し、定着させる能力が競争力になります。

見るべきKPIを変えれば、「人材不足」は経営課題から競争優位へ変わる

人材不足を外部環境として嘆くだけでは、経営は変わりません。重要なのは、「自社でコントロールできる数字」に目を向けることです。

特に中小派遣会社では、売上だけを追うあまり、利益につながる指標が十分に管理されていないケースがあります。人材不足の時代こそ、営業件数ではなく事業全体の生産性を把握することが重要です。

確認したいKPI

確認する理由

応募→登録率

応募後の離脱を把握するため

登録→就業率

マッチング精度を確認するため

就業継続率

粗利を安定させるため

求人充足率

営業と採用のバランスを確認するため

求人企業ごとの利益率

売上ではなく利益を判断するため

これらの数字を毎月確認するだけでも、「案件が足りないと思っていたが、本当は登録率が低かった」「営業不足ではなく、フォロー体制に課題があった」といった新たな発見につながります。

派遣会社の成長を左右するのは、市場環境そのものではなく、市場環境を数字で捉え、改善につなげられる組織であるかどうかです。

今日から実践するためのチェックリスト

  • 「案件数」ではなく「求人充足率」と「就業率」を毎月確認する

  • 営業・採用・コーディネーター間でKPIを共有し、分断をなくす

  • 応募から初回連絡までの時間を計測し、改善する

  • 契約終了理由や更新辞退理由を蓄積し、再発防止に活用する

  • 利益率の低い案件と利益率の高い案件を比較し、受注方針を見直す

まとめ

人材不足は、派遣会社にとって確かに需要を押し上げる要因です。しかし、それだけで売上や利益が伸びるわけではありません。

市場全体で人材の獲得競争が激しくなる中、「案件を増やすこと」を目的にすると、営業負荷だけが高まり、利益が残らない構造に陥る可能性があります。

これからの派遣会社に求められるのは、案件数の多さではなく、人材を安定して確保し、就業・定着までつなげる供給力です。そして、その供給力を支えるのは、営業・採用・スタッフフォローを一体で考える組織づくりと、KPIに基づく継続的な改善です。

「人材不足だから追い風」と考えるのではなく、「人材不足の中でも選ばれる会社になるには何が必要か」という視点へ切り替えることが、これからの派遣会社の競争力につながるでしょう。

ハケンバンクについて

人材不足が続く市場では、自社だけで継続的に求人企業を開拓することが難しい場面もあります。そのような場合には、営業活動を補完する仕組みを活用することも一つの選択肢です。

ハケンバンクは、求人企業と派遣会社をつなぎ、派遣会社の案件獲得を支援するプラットフォームです。営業活動のすべてを置き換えるものではなく、自社の営業力を補完する手段の一つとして活用が考えられます。

参考文献

  • 厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」

  • 厚生労働省「労働者派遣事業報告書の集計結果」

  • 総務省統計局「労働力調査」

  • 労働政策研究・研修機構(JILPT)「人手不足に関する調査・研究」

  • リクルートワークス研究所「Works Report」

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